第35話 瞬殺


「いくわよ!」


「来いよ」


 お姉さんは銀に輝くレイピアで神速の突きを繰り出す。

 恐らくただのレイピア、と言うことはないだろう。


「【氷雪華ひょうせっか】!!」


 突き出されたレイピアから、氷の花が咲いた。

 綺麗な薔薇だが、触れると危険なのは言うまでもないだろう。

 お姉さんは突きながら、そして引きながらくうを花で彩る。その姿は、観客たちがバトルを忘れて見惚れるほどに美しかった。


「はあああ!!」


「……タイミングを細かくずらしてるのか。こりゃ近いうちに上級だな」


 それを俺は冷静に避けつつ、突き出されたレイピアを右の二の腕で上から押さえつけた。

 そして、そのままグイッと腰あたりまで引いて……お姉さんがバランスを崩した瞬間、引き絞られた拳が解放される。


「……あれはっ!!」


 俺の魔力によって超強化された聴覚が、どこかで聞いた声を後方観客席から捉える。これ、重吾さんだな。出るとは言ってあったがチケット取れるとは……


「【螺旋拳】」


「うぐっ──!?」


 ヒュッ──ドオオオン!!


 回転の力を十分に乗せた俺のストレートパンチがお姉さんを壁までぶっ飛ばす。

 壁が亀裂の入った音をたてた。


「うっ……ぐ、【フローズンキャノン】!!」


 お姉さんは壁に背をつけたまま、死角のない状態で上級魔法の【フローズンキャノン】を発動した。かなり準備に時間がかかるはずだが、マジックアイテムでも使ったのだろうか。吹き飛ばされながらも術式構築を破棄しなかったのも尊敬する。

 魔法使いはよくダメージ受けると構築してた魔法を崩してしまって不発になるからな。


「【瞬影ゴースト──」


「!?」


 だが、その砲撃は俺の体をすり抜けた。

 お姉さんが驚愕に目を見開くが、俺はすでに視覚から姿を消していた。


「どこ──」


「──強襲アサルト】」


 俺は、お姉さんのから最初の剣状態に戻った蛇腹剣を振るう。


「くっ……!?」


「【爆地】」


 両肩を落とそうとしたが、すんでのところで体を捻られて左肩の腱を断裂するに留まる……が。俺はさらに、距離を取ろうとするお姉さんに向かって思いっきり右足を振り上げる。そして……振り下ろした。


 直後、小範囲に揺れが起こる。


「いったいいくつスキルを!?」


「全部俺の模倣オリジナルだよ」


 【瞬影強襲ゴーストアサルト】……緩急によって残像を意図的に作り出す技だが……凶器だらけの門の中で知り合ったやつのスキルを技術的に模倣しただけだ。やってることは同じなんだが、スキルじゃない以上物理的限界がある。本当に消えたわけじょないからな。


 俺はバランスを崩したお姉さんに向かって、大気が炸裂するほどのサイドキックを繰り出す。


「カッ──」


 ズドオオオオオ!!!!


 その衝撃でお姉さんは反対側の壁まで吹き飛び、ついに気を失った。


「…………」


 一瞬、辺りが静まりかえる。


「勝者……」


 審判が、どうにかといった風に声を出す。


「第四学園、宝晶千縁!!!!」




「「「「「わああああああああああ!!!!」」」」」


 普通は一人一つのスキル(模倣)連打。

 高度すぎる戦いに言葉少なくなっていた観客たちが、沸き上がった。

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