第34話 お姉さん


「あいつ……やっぱりな……!」


「この大恥晒しめが!! 何が降参だ!! ふざけるのも大概にしておけよ!?」


 第二学園ベンチにて。

 そこでは和田に対して、第二学園長の怒号が飛んでいた。


「がっ学園長!! あっあいつは、ダメです! あいつは……っ」


「ふん! もういい、黙れ! 帰ったらお前なんぞ速攻退学処分にしてくれるわ!!」


「そっそんな!!」


 第四学園相手に降伏したというのがよほど気に食わないのだろう。治療を受けて運ばれてすぐ、学園長は和田につかみかかる勢いで怒りを飛ばした。


 そんな中、冷静に分析する少女と、楽しげな笑みを浮かべる不良……“悪童”が一人。


「あれ……やっぱりあの人だったんだ……まさか、第四学園なんて……」


「ああ。これは驚きだな……俺が出る必要がありそうだ」


 第二学園の四番手副将はこの少女である。大将である悪童のこの言葉はつまり、少女が負けることを予想しているようだった。


「むぅ……私だって頑張るんだけど? 先輩なんだけど?」


「まぁ、でも……なあ?」


 悪童は少女の言葉に、劇場のことを思い出して言う。

 それが伝わったのか、少女は唇を結んだ。


「確かにあの威圧感……本当に足が震えちゃった。それに、超倍率身体強化できるっぽいし……」


 あの魔力値三万超えの悪童を蹴りで吹き飛ばし、骨にひびを入れるほどだ。恐らく例を見ないほどの高倍率身体強化だと思われる。もう一つ考えられる可能性としては【防御貫通】あたりだろうか?


「いずれにせよ……我慢しなくていい今、あいつは俺が潰す」


 “悪童”鬼塚は拳を握りしめて呟いた。


「そしてその後は……“神童”の野郎をぶっ潰してやる」


〜〜〜〜〜


「なんという、なんということだ!! 宝晶選手が一撃にして和田選手の【綱身化】した腕を切り飛ばしたァァァ!! あれは蛇腹剣かぁ!? とても珍しい武器を使いこなしているぅぅ!!」


「うおおおおおおお!!!! ちよぉぉぉぉ!!」


「すげぇ! さすがは大将!!」


「この調子で勝ってくれぇぇぇぇ!!!」


 俺の瞬殺により、ベンチは一層盛り上がっている。これなら、もしかしたらができるのではないか、と期待しているのだ。


 五人目はって?

 “悪童”は、倒せる存在じゃない。

 次元が違う。それが共通認識なのだ。


(まあ……)


「宝晶……」


「言ったでしょう、学園長」


 だが俺は、当然の如く言う。


倒して、決勝だって」


 俺の言葉に、ベンチの歓声は最高潮に達した。


「さ、さあ!! 第七試合! 和田選手を瞬殺した宝晶選手に対するは、第二学園副将! 三年中級探索者、水月由梨みなづきゆりィィ!!」


「あれ、お姉さん?」


 俺は、出てきた人物が“悪童”鬼塚の横にいたお姉さんだと知る。


「ええ……その節はごめんなさいね」


「あーなるほど、副将だったのか」


 どうりで、それで鬼塚の隣にいたわけだ。“悪童”みたいなやつがタイプな鬼塚の彼女かと思ったわ。


「悪いけど、殺す気でいくから」


 お姉さんは、あの時の意趣返しの如く言う。


「やってみろ」


 それに対して、俺は指をクイっと曲げて答えた。


「それでは第七試合……開始ッ!!」

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