第32話 生徒会長の覚悟


「さあ! 試合も後半戦! 立て続けに第四学園を破った本田義道選手に対抗するは、第四学園副将! 三年、下級探索者の花澤義道ィィィ!!」


「「「花澤くん!! 頑張ってぇぇぇ!!!!」」」


「会長! 俺たちの代わりに勝利をもぎ取ってくれぇ!!」


「おお、会長なのか、君は」


「ええ……全く第二学園が相手だってのに気が重いですね……」


 俺たちのベンチは一層激しい応援が巻き起こる。

 皆生徒会長、つまり第四学園三年のトップに最後の望みを見ているのだろう。


 ……忘れてるかもしれんけど、この後俺の出番あるんだぞ? この次に出るのなんか雰囲気嫌なんだけど……


「それでは第五試合、開始!!」


「……」


「……」


 今度は、本田は剣を分離せず様子見をしている。対して、先輩も沈黙のまま。お互いを警戒しあっている。


「おっとー! ここにきて初の展開! 両者睨み合いだー!」


「お前も、魔法使いか……」


「ああ。残念ながら。相性が悪くなきゃ勝てたと思うんだけどなぁ」


 二人はジリジリと迫りながら、言葉をぶつけ合う。


「へえ? その言い方じゃ勝つのを諦めたふうに聞こえるんだが……それなら降参しないのか?」


「はは、まさか。覚悟は決めてきたんでね」


 先輩の煽りにも一切動じない本田。

 一歩づつ、迫り来る衝突に観客が湧き上がる中、お互いのベンチは緊張で静まっていた。


「じゃあ……行くぞ!」


「ああ、【ウォータージェット】」


 大剣を肩に構えて踏み込んだ本田に対し、先輩は足へ水のレーザーを放つ。


 だが、ここで驚くべきことが起こる。

 本田はさらに、二度地を踏み加速したのだ。

 その際に足は浮き上がり、【ウォータージェット】を交わす。そして、一瞬にして懐に入り込まれた先輩は……


「タッチ……グゥ!?」


「何? ……がはっ!」


 脇腹を千切られて、同時に本田の左肩に手を当てた。直後、本田の左肩から湯気が上がる。


 そして……


 ドオオオオオン!!!!


「「「「!?」」」」


 水蒸気爆発を起こした。


 左肩が弱まってるのは、本田自身も気づいているはず。だから格上の本田の隙を狙うなんて到底無理な話だった。

 だが、本田の武器は大剣だ。振る時は肩が空く。

 だから確実に当てるため、花澤先輩は攻撃を敢えて喰らって、反撃することにしたのだ。

 自らをも巻き込む最大威力で。


「先輩っ!!」


「キャアア!!」


「会長!!」


(だけど、あれはやりすぎだ!!)


 第四学園側から焦燥の声が上がる。対して、第二学園は【マジックアーマー】で無事だろう、と考えていた。

 しかし……


「「「なっ!?」」」


「これは……予想外だああ!! なんと、両者一撃で決着がついたああ!! 第五試合、両者相打ちィィィ!!」


 土煙の先では、二つの人影が倒れていた。


(まさか左肩を狙うために、自爆するなんて……)

 

 正直言っても当てられないか、と思っていた。

 運ばれてきた花澤さんの目は閉じていたが……途中、口元がわずかに動く。


『後は頼む』


「……」


「よくやった、よくやったぞ花澤……! 第二学園相手に二人も落とすことができた……! 後は宝晶にまかせてゆっくり休めよ……!」


 学園長は、花澤さんの覚悟を見て拳に力を入れると、こちらへ振り返った。


「宝晶……次の試合、勝てる見込みはあるか?」


 その声色は、不安が多分に含まれていて……期待を孕んでいた。


「当然ですよ学園長。ほんとの試合はここからなんで」


 俺は、最初の興奮は何処やら、お通夜ムードになっているベンチの皆を励ますように言い放つ。


「一人じゃぁ終わりません。三人。“悪童”も倒すんで。次は第一学園との決勝ですよ!」


 俺の本心からの自信に、少し明るくなった学園長は、笑みを浮かべて俺を送り出した。


「行ってこい! お前の力を見せてやれ!!」


「「「「「おおおおおお!!」」」」


 そしてついに、俺の番が来た。

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