第25話 ヤンキーたちの正体


「……今日はありがとね」


「ん? ああ、こっちこそ」


 優香が俺の腕をガシッと掴んでくる。


「?」


「そっその、また何かあったら怖いから……」


 ああ、確かにな。鬼塚にも威勢良く立ち上がったが、そりゃ怖かったよな。

 急に腕を掴まれたから攻撃されるのかと思った。


「なるほど。流石に一日に何度もないとは思うが……今日は愚痴聞いてやれなくて悪かったな」


「あ、いや……別に、今日はそれが目的じゃないから……」


「え?」


 俺は、ぽつ、っと言った優香の言葉を超聴覚で拾う。


「いや、今日はっ……」


 ああ、今日はもしかしてサーカス見るだけが目的だったのか? なら他の友達と行けばいいものを……もしかして、友達いないのか。


「ああ、悪かったな勘違いして」


「ちょっと!? その残念系アイドル見るような目線やめなさいよ!」


 おーうドンピシャで当てられてる。

 しかし、優香は目立つな。変装も何にもしてないし知ってる人がいるのも当然か。知らなくても可愛いことには変わりないし。

 今もちらちらと優香を見る視線を多数感じる。


「んじゃ、ここまでで」


「え?」


 俺は駅に着いたので、そう言って優香を引き剥がす。


「……普通女の子は家まで送ってあげなきゃだよ?」


「それはストーカーな。じゃあまた」


「あっちょっ!?」


(今日の分の鍛錬が溢れてんだよ……!)


 俺は反対車線の電車に乗り込むと、今日の分の鍛錬をしにダンジョンへ向かった。




「察してよね……」


 優香のそのつぶやきは、誰にも聞こえなかった。


〜〜〜〜〜


「痛ってぇな……ったく、対抗戦前じゃなきゃやり合ったってのに、なかなかどうして腹がたつな……」


「それで謹慎くらったら“神童”と再戦できなくなるわよ」


「ああ、だからちゃんと我慢したろうが! チッ……でも、あいつなんだったんだ?」


 鬼塚は、肋骨を押さえながら連れの女子に聞いてみる。

 だが、女子の方も肩をすくめて首を振るだけだ。


「でも本当になんだろね……“悪童”を一撃で吹き飛ばすなんて“神童”くらいじゃないと……」


「……いや」


 “悪童”。“神童”と対としてそう呼ばれるのは、鬼塚蓮おにづかれん

 その性格とスキルから悪童と呼ばれる彼は、第二学園に今年入学したエースだ。

 第一学園の“神童”に第二学園に入った“悪童”。学生一年目にして超級と上級上位の二人がいるから、この世代は日本で“黄金世代”と言われている。

 今日本にいる超級に達した探索者の平均年齢が30代だと考えると、10代後半で上級、ましてや超級に達した二人は控えめに言って“異常”と言える。


「?」


「吹っ飛んだだけじゃねぇ。あれで骨にヒビがいった」


「え!?!? 鬼塚君の魔力値は!?」


「ああ。30423だな」


 魔力値、魔物を倒すことで手に入る能力値が高いほど基礎的な身体能力は上がる。

 今の鬼塚は車に轢かれても少し痛い、くらいしか感じない身体能力を持っている。それをただの蹴り一発でヒビを入れたのだ。


「そんな倍率の高い【身体強化】が……」


「ああ。同学年に見えたが……第一学園の秘蔵っ子……ってとこだろうな」


 第二学園のである二人は、新たな強敵の登場に気合を入れ直したのだった。

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