第23話 デート


「おはよう! ちよ君!」


「ん、優香おはよう」


 日曜。

 第四学園と第二学園の間の、以前優香に出会った場所の近くにある大舎駅で、俺は優香と待ち合わせした。


「で、今日は急にどうしたんだ? サーカスに行きたいって」


「あ、ああ〜えっとね、お母さんがチケットくれたのよね」


 優香はそう言って、スーパーサーカスの最前列チケットを一枚手渡してくれた。


「へぇ、そんなこともあるんだな」


 にしてもサーカスか。行ったことないな。

 ダンジョンが出現してから、サーカスの人気が急上昇している。

 特殊な能力を手に入れた人たちが集まって、従来ありえないような挙動で芸をするからだ。それらを一部残る昔ながらのサーカスと区別して、スーパーサーカスと呼ぶ。


「と、とりあえず行きましょ! なかなか見れないんだから!」


「お、おう、そうだな」


 何か焦っている優香に押されて、俺は劇場へ向かった。


「私初めてきた!」


「おお、結構珍しいもんな」


「ねぇ〜ゆうくんもあんなのできないの〜?」


「出来ねぇよ! 俺土魔法使いだから」


 俺たちが着くと、もう会場はたくさんの人で埋まっていた。

 今はメインの準備中に軽い曲芸をステージで披露していたところらしい。


「レディースアーンドジェントルメーン! 本日はご来場いただきありがとうございマース! どうぞ我々『白黒無常隊』の技で、お楽しみくだサーイ!」


「白黒無常……だと!?」


「えっ、ちよ君知ってるの!?」


 俺はつい、【虹の門】を思い出して臨戦態勢に入りそうになる。


(何やってんだ……それにい、今の俺ならあのくらいなんでもない、うん……)


「いや、何でもない、勘違いだ」


 隣の人までもが注目しているという事実に、俺は恥ずかしくなって座り直す。


「なんだ? あいつ、頭おかしい野郎だな」


「こらっそういうこと言わない!」


 隣に座っていたいかにも不良ですっていう同年代の茶髪が堂々と言い放つ。それを隣にいるお姉さん風の女子が諌めていた。


 なんかすげぇアンバランスな光景だな……と目を奪われていると、今度は俺の隣の優香残念アイドルがジッと俺の方を見つめてきた。


「? ど、どうした?」


 俺は何か得体の知れない圧力にちょっと面食らいつつ聞き返したが、優香はツンとして返事を返さなかった。


(てか、結局サーカス見にきたのにこっちばっか見て、あんましサーカス見てなかったな優香……)


 ボールを20個以上使ったスーパージャグリングなんかはとても盛り上がったが、優香はなぜかずっとご機嫌斜めだった。


 そして、最後にリーダーらしきピエロがみんなでジャグリングをつなげ、大きな虎が動く様を形どる。


「ええ!? あれどうなってるの!?」


「俺にもわからん……スキルかなんかじゃないか?」


 いや、本当すごいよな、こういう人って。中級以上の探索者なら給料的に探索者一筋の方が多いからおそらく下級探索者だろうし、すごい技術だ。


「それでは! 本日はご来場いただき、ありがとうございました!」


 ピエロがそういうと、最後の一つのお手玉が頭に降ってきて、ポコンッ! と音が鳴る。

 会場は歓声に包まれた。


「すごーい!!」


「やばかったよねあれ!」


 そんな時だった。

 跳ねたボールが、最前席にいた茶髪ヤンキーの頭に直撃した。

 ヤンキーが立ち上がる。


「では、これにて公演を──」


「──オイ」


「なっ……ガッ!?」


「ちょっと! 鬼塚君!?」


 ヤンキーは一瞬にして会場の上に跳ぶと、ピエロの胸ぐらを掴みあげたのだった。

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