第20話 『アレクシスの牙』
「やっべ……やりすぎた? いやまあ上級探索者だし大丈夫だろ……」
つい追撃しそうになるのをなんとか堪える。
ほぼ無意識だった……全く、
まあ……恐らく腹部周囲の骨は全部砕け散っただろう。確実に何本か心臓に刺さってそうだ。
だが、上級探索者にもなると心臓が止まっても数分は普通に生きてる。
俺は拳に魔力込めてなかったからな。
そして、上級回復術師ならここからでも回復できるはずだ。
「き──キャアアアアアアア!!??」
「あっ!」
大惨事に受付嬢の瑞樹さんが叫び声を上げた。協会全体に響くほどの衝撃によって他の探索者たちも地下の闘技場で何か起きたのかと駆けてくる足音がする。
「瑞樹さん!! 早く回復を!! 上級
「私じゃこんなの……治せない……! このままじゃ、重吾さんが……」
試験には試験後の怪我を治すため、回復術師が必ず同伴しなければならないのだが、受付の瑞樹さんがそのままついてきたのを見て瑞樹さんが回復術師だと当たりをつけた……のだが。
「落ち着いてください!! ここはダンジョンじゃありませんし、邪魔も入りませんから、落ち着いてゆっくり……」
「わっ私はまだ中級なんです!」
は?
最初はこんな事態に慣れてないから焦ってるのかと思ったが……瑞樹さんは中級探索者資格持ちだった。
本来、未来ある探索者を下手にミスして障害を残してしまうと国の損失になるため、確実に治せるよう上級探索者がどのランクの昇格試験でも同伴するのが決まりとなっている。
これは法律にもなっていて、協会支部を置くにあたって必要な項目だったはずだ。今回の場合は、試験官がだが。
「どういうことだ!?」
あのくそ試験官、マジで適当やってやがったな……
瑞樹さんを連れてきた理由って自分の強いとこを見せるため、とか?
下級探索者にそんなことやるわけない……よな?
「マジで救いようがねぇ……」
「どうした!? 何があったん……斉藤さん!?」
急いで上級回復術師を呼ばなければならないが、探してるほどの時間はないだろう。
俺がスキルを使おうとしたその時……上の階から探索者たちが降りてきた。
「なんだこの状況は!!」
先頭にいた探索者たちが、死にかけの重吾さんと傍の瑞樹さん、そして無傷の俺を見て、大声を上げた。
「お前……アイテムでも使ったのか!?」
「違うわ! そんなことよりさっさと治療できるやつ連れてこい! 死ぬぞ!」
焦ってちょっと人格が引っ張られたが、とりあえず上級探索者の回復術師は見つかった。急いで重吾さんを治療してもらい、治癒術師を連れてきてくれたパーティの人に瑞樹さんと一緒に事情説明をする。
「ふんふん……本当に、今から中級探索者になるお前が、一撃で重吾をこんな風にしたっていうのか……」
助けてくれたパーティの人たちが俺に疑いの目を向けるが、瑞樹さんの証言もあって、信じてもらえた。
この人たちは、ここのギルドで一番強い『アレクシスの牙』という、超級探索者一人と上級探索者三人からなるパーティの人たちだ。
超級探索者というのは、日本でも数十人……たしか29人だっけ? それだけしかいない超トップの実力者だ。
さらに上の極級探索者となると日本に3人しかいない。
ちなみに、アレクシスっていうのは魔物の名前らしい。
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