第18話 探索者協会


「いらっしゃいませ〜」


 探索者協会。

 30年前の“大激変ダンジョン出現”時に、各都道府県に最低10の設立を義務付けられた、探索者支援施設である。


 学校による義務を終えた探索者は普通、探索者協会に登録して、ダンジョンに潜り、そこで出たお宝アイテムや魔石などを買い取ってもらう。


 つまり、15になれば誰でも探索者として稼ぐことができるような仕組みになっているのだ。

 俺が探索者高校に行っているのは、ひとえに義務教育だけで探索者になった人の9割が生涯下級探索者であるからだ。

 魔物やアイテムの使い方も何も学ばずにダンジョンに行くなど、自殺に等しい。


 それこそ、


「すみません、これを……」


「はい、少々お待ち……!? し、失礼ですが第四探索者学園の生徒さんですかね……?」


 受付嬢の可愛い系お姉さんは、俺の差し出した封筒の差し出し人を見ると息を呑んで、そう俺に聞いてきた。


「ああ、はい、そうです。試験官の人に渡してくれって言われましたけど、お願いできますかね……?」


「は、はい……えっと、探索者カードはお持ちですか?」


「はい」


 俺は、階級や最近入場したダンジョンが記録されている探索者カードを取り出し、受付嬢のお姉さんに手渡した。

 営業スマイルが眩しい……。


(下級冒険者、入場履歴はゴブスラダンジョンのみ……? 新入生の子にお使い感覚で頼んだのかしら)


 人格者の滝上学園長なら、只の関係ない子に持って行かせるなんてことはせず自分で足を運んでくれていたはずなのだが……


 受付嬢の白川瑞樹しらかわみずきは、そう疑いながらも手紙に押された印鑑を見て本物だと理解させられる。


「では取り次いできますので少々お待ちください」


 白川さんはそう言って奥へと入っていった。


(この人疑ってたな……?)


 まぁ、下級探索者が第四とは言え学園長の手紙を持ってきたら偽物だろうと疑うだろうな。


 え? 第四学園にはそもそも下級探索者しかいないって?

 ……確かにな。


 大阪第四探索者学園は、確かに四学園のなかで最も落ちこぼれだ。

 学園長が他学園に惜しくも落とされた生徒ばかり拾ってくれてるんだから当たり前なのだが……


 しかし、それはこと学園間の話であって、そもそも学園に入っている時点で他の探索者よりもかなり優秀である。


 下級探索者が最も強さの層が広いと言われるのも第四、第三学園生の存在に起因すると言っても過言ではないしな。


「坊主。お前が学園長の言ってた昇給試験を受けたいやつなのか?」


「え、俺坊主じゃないんだけど……」


 『下級探索者』とはなんたるかという永遠の謎に思いを馳せていると、ようやく奥から一人の大男が現れた。


「こんなガキが絶対に度肝を抜くやつだから昇級試験を図ってくれだと……? まあ、学園長に頼まれたからにはやらないわけにもいかないけどよ……」


 試験官の大男がポツリ、と呟く。


 大量の魔素を取り込んで強化された俺の耳舐めんなよ! 全部聞こえてるっちゅうねん!

 鈍感系にはならないぜ!!


「お前、いいとこの子か? それ、アイテムボックスだよな?」


 俺の腰にある袋を指差して試験官が言う。


「あ? そうだけど……今って言ったのか? テメェ」


 だが、そんなことより、俺は試験官が言った言葉に怒りを覚えていた。


がいいとこってことか? 何も知らないのに──ふざけんのも大概にしとけよ」


「……っ!?」


 異常なまでの親への敵愾心にオロオロする受付嬢の前で、俺は正面から試験官に【死壊圧】を浴びせる。


「……つ、ついて、こい」


 その圧に只者じゃないと理解してくれたのか、試験官はもう何も言わずに奥へ入っていった。

 そのあとを、俺は【死壊圧】を停止してついていく。



 賑わっていた探索者協会は、一瞬にして静まり返っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る