第13話 人生逆転


「いっ、いつの間に!」


 ぶほっ……あんまりにもテンプレみたいなこと言うから笑いを堪えるのが必死だわ。


「テメェはもう少し、周りの被害を考えろ」


「ぶべっ──」


 俺は、加藤の頭を地に叩きつけると両手で埃を払う。


「「「「……」」」」


 教室中が静まった。

 加藤が負けた。それも、成績最下位の俺に。


 絶対的強者として好き勝手していた加藤を軽くあしらった俺は、騒ぎに駆けつけた教師に三馬鹿が悪いことを伝えて、何事もなかったように席につく。


「ちよ、お前……」


 悠大が信じられないといった風に俺をみて目を見開いている。


「俺、強くなったて、言ったろ?」


 そんな悠大に対して俺は、ハハ、と苦笑いして答えた。


 数日後、この学校で唯一中級探索者の称号を持っていた加藤がなすすべもなく俺にやられたことは、学校中に広まっていた。

 第四探索者学校ここは弱小も弱小の、「他校に比べたら」小さなボロ高校だ。

 噂が広まるのは一瞬だった。


 そのうち俺を取り巻く環境が風変わりする。


「ちよ君、お弁当食べようよー!」


「ちよ君、私おにぎり作ってきたんだけど……」


「ちよ君って可愛い名前だよね〜」


「ちよ君」


「ちょっと黙れ!! 押しかけてくんな帰れ!」


 あの後から、クラスの女子たちが群がってくるのだ。

 優秀な探索者の収入には、限りがない。今のうちに加藤よりも強いと思われる俺に取り入っておこうと言うことだろう。


 つい数日前まで加藤に同じことをしていたと言うのに……なんていうか、図太い奴らだ。ついには隣のクラスのやつまで来やがった。


「なんだ、ちよ。そんなこといいながら嬉しそうじゃねぇかヨォ」


「そりゃあねぇ!」


 だって魂胆が見えてたとしても、女子に持ち上げられるなんて、1ヶ月前まで只のキモ男だった俺が経験あるわけねぇだろ!

 あぁ、そういえばだが、魔力を吸えば吸うほど、ほんの少しだが顔が良くなる効果があるらしい。俺は門の中で大量の魔力を吸っている。だから、自分でも誰!? って思うほど……には程遠いが、中の上程度にはイメチェンできた自信があるんだが。それも関係あるかも。いや、あってほしい。ほら、普段キモい奴がイメチェンしたら……ってやつ。ないか。


 まあなんだ、同年代から褒められるとなんか大人の女性に褒められるのとは違うものがあるな。


「でも、流石に邪魔だ……加藤もずっと来ないしなすりつけれん」


 俺は悠大とご飯を食べながらそう独りごちる。

 俺にボコボコにされてから、加藤はずっと学校に来ていない。もう1週間になる。はよ立ち直れよな……


 ちなみに、取り巻きABこと三郎と竜二は普通に学校に来ている。

 今までは加藤という盾があったからこそ許されていた彼らも、今では後ろ指を刺される立場だ。


 ただ、この二人は心を一新していて、それも、後ろ指を刺されながらも俺に教えを乞うほどだ。

 周りから見ればどの面下げてんだ、って感じだが、俺からしてみればこういう奴らが強くなると思うのよ。

 俺も門の中の化け物に挑み、ボロボロにされ、教えを乞った側だからな。

 自分と重ねてしまうと、どうしても突っぱねることができなかった。


「兄貴! 昼からの模擬戦、相手してくださいませんか!」

「兄貴! 俺からもお願いします!!」


 ……噂をすればなんとやら。


「あー、今日5、6限は悠大と特訓するって約束してるんだ」


「なるほど! 岩田の兄貴っすか! なら俺たちはお時間の空いている時でいいので!!」


「え、俺もそんなずっと訓練するわけじゃないからさ、途中から変わるよ。ちよ、いいか?」


「ん、お前が言うならいいが……」


 こいつらは今や俺と悠大のことを兄貴と言って慕っていた。

 俺の人生の夢の一つ、兄貴と言われて慕われるが叶うとは思ってなかったし、学園対抗戦に向けてこいつらでも鍛え上げようかな、と考えてるくらいには、こいつらのことを許してしまっている自分がいる。


 こいつらには甘いって? 自分を“兄貴”って言ってくれる人だよ? 男なら甘くしちゃうのは仕方なくない?


 ま、特訓で甘くする気は一切ないけどな!!

 あと、加藤にもな。

























────────────────────


男なら人生で一度は兄貴って呼ばれてみたいですよね……((圧

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