第10話 出会い
「はぁ……なんとかなったか。学園長、めちゃ若かったな。30過ぎって聞いてたけど全然見えんわ。」
学園長、滝上由良が戦慄を覚えている間、ちよこと俺はそんな呑気なことを言っていた。
「しっかし、今の俺がどれだけ強くなったか測るいい方法ないかなぁ」
俺は一応、下級探索者だ。下級ダンジョンになら入ることができる。
だが今更下級ダンジョンに入ったとこでなんだと言うのだろうか。
いつも入っていたゴブスラダンジョン……ゴブリン系統とスライム系統しか確認されてないダンジョンに行こうとも、瞬殺して終わりだろう。
……だよな? ダンジョンのモンスターにも俺の力って通じるよな?
「ゴブスラダンジョン行っとこうかな?」
ゴブスラダンジョンすら懐かしい。……ん? なんか忘れてる気が……あ!!
「やべっ! 夏休み悠大とダンジョン行くって約束したじゃん!」
謝りに行かないと……どうやって事情を説明する? 家がダンジョンになって閉じ込められたとか?
ってか俺、悠大の家知らんな。とりあえずはL○NEで連絡しとくか。
「夏休み、今までダンジョンに閉じ込められてた。っと」
俺が送った瞬間既読がついた。
『お前っ! 何してんだよ!! どこのだよ!』
「うわっ! こっわ!!」
俺は誤魔化しながら説明する。
『家がダンジョンになって、巻き込まれたんだよ。更に閉じ込められたと来た。』
『はあ!?!? 信じられるか!!』
ですよねー。俺でも信じられんわ。
『マジなんだよな、それが。迷宮型ダンジョンだったよ。崩落したのはリビングだけだったんだがな』
『はー!? てかお前アパートじゃね? どう説明すんの?』
『クリアしたから、元に戻ったよ。』
『クリアしたぁ!?!? お前が!?』
画面越しに絶叫が聞こえてきそうだ。
『彷徨ってたら出口が見つかったんだよ。モンスターにバレないように移動すんの大変だったんだぞ。テーブルに缶詰置いてなかったら死んでたわ』
『いや出来すぎだろ! それだけで1ヶ月!?』
『まあ宝箱も生かしてな。落ちた時は俺の運ってクソだと思ったが、入ってみると豪運だったみたいだ。魔力値もかなり高くなったと思うぞ。』
『マジかよ……』
『……約束守れなくて悪い。俺にできることならいつでも、なんでも言ってくれ。絶対に命をかけて遂行するよ』
『遂行……? とにかく、せっかく助かったのにすぐ命かけるな!! はぁ……わかったよ、俺の方は大丈夫だから。また明日学校でな』
『ああ……ありがとう』
悠大……本当にいいやつだな。いいやつすぎて心配になるレベルだ。
やべ、外なのに涙止まらねぇ……
「……っ!」
「〜〜!」
「……あ?」
連絡を終えてゴブスラダンジョンに向かっている途中、何やら不穏な気配がしたのに気がつく。
あの地獄のような“ゲーム”で気配をものすごく感じられるようになった。そうでもしなきゃ、殺され続けてたのだ。
「なして! 離してって!」
「いけません、時間ですよ。早く行きましょう」」
気配のした方へ1キロほど行くと、黒の高級車に、嫌がる少女が乗せられそうになっていたのが見えた。
「っ!」
なんだ!? 誘拐か!?
人々が力を得てから、犯罪はとても増えた。
特殊警察が設立されたとはいえ、30年前に比べれば俄然犯罪率は高くなったと言える。
「うらああああああ!!」
「さあ! 早く──!?」
ドギャッ!!!!
俺は、無理やり乗せられそうになっている少女の瞳を見て……地を蹴り飛び蹴りを繰り出した!
200mも先から飛んだ俺の飛び蹴りは、一切威力を損なうことなくスーツの男に直撃し……明らかに人体が鳴らす音ではない音を立てて吹き飛んだ。
俺は、男が吹き飛んだ方を向いて、臨戦体制を整える。
そして、スキルの発動も視野に入れ、男が起き上がるのを待つ。
だが、待てども待てども男は起き上がらなかった。
「……大丈夫か?」
「っ! ……は、い。大丈夫、です」
涙を浮かべていた少女の瞳が、驚愕の色に変わっている。そりゃ人が数百mぶっ飛んだんだからな。探索者でないだろうこの子からしたらびっくりだろう。
俺は、様子を見ようと席を降りてきた運転手に向けて“殺気”を放って言った。
「テメェら……どう言うつもりだ? ア゛ァ゛!?」
「ふっ……」
運転手の男は気絶し、後ろに倒れた。
……え? 威圧しただけなんだが……頭打ったぞ、大丈夫か?
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