第9話 学園長の戦慄


「いえ、学園長、150kgは、舐めすぎですよ」


「……!?」


「俺、300kg出せるんで!」


「わ、わかった。すまない。復学を許可する。明日からまた来なさい」


「……! 復学させてくださってありがとうございました!!!!」


 失礼しました!


 千縁……通称ちよはそう言って帰って行った。


〜〜〜〜〜


 私は大阪第4探索者高校の学園長、滝上由良たきがみゆら。10年前、超級探索者となり開校権限を手に入れてから、他校に落とされた子も取って育ててきた。


 あの子は確か、うちでも最下位だった子だ。

 魔力値0.00000302、だっけか? とにかくスライムしか倒せないとわかるような魔力値だった子だ。実際、あと一人志望者がいたら落としていただろう。


 なのに……


「グリフォン、中級探索者が狩る、躓きやすい敵……」


 空を飛ぶグリフォンに、中級探索者になったからと言って返り討ちにされるパーティは後を立たない。

 そして……


「レッサードラゴン……上級探索者が10人ほどのパーティを組んで倒す魔物の魔石……」


 最初にグリフォンの魔石を持ってきた時には、臓器でも売って違法パワーレベリングでもしたかと思っていた。

 パワーレベリングは全世界で違法となっている。最も、魔力値はダメージを多く与えたものが多くもらえるのでとどめだけ刺しても大した魔力値の増加は見込めないが。


 ただ、レッサードラゴンの魔石をほいとだしたのを見て、私は何年振りかの戦慄を覚えた。

 レッサーと言っても、れっきとした竜だ。


 こんなものをパワーレベリング対象にして倒すことなどできないだろう。そもそも臓器なんかじゃ圧倒的に足らない対価が必要だろう。


 てことは知り合いに超級以上の探索者が?

 でも、超級探索者は何かと目立つ。動向もほぼ監視状態だし、そんな交流をしていたら噂になってるはずだ。

 1ヶ月の間噂にもならずに倒すことなどできない。


 私は彼を復学させる……いや、復学してもらうことを決めた。

 どう言うわけか下手に出まくっている彼を見て、パワーレベリングしたから弱気なのか、いやしかし……ということだけが頭に浮かんでいた。

 しかし、そうしているうちに何やらメチャクチャなことを言い出したので慌てて、感じ取られないように止める。

 そして、彼を納得させるためと、彼の実力を知るために、握力測定器と称してダンジョン鉄の塊を形だけ変えたものを渡してみた。


 これは、ただの塊だから可動部はなく、引っ張れるはずもない。これができなければ、無難にカカシとシャドーをやるのを見るという入試と同じことをやろうと思っていた。


「ん……がっ学園長!? あいつは……!?」


 鈴木先生が目を覚ました。盗んだんじゃないかという鈴木先生に私は、起きたことを正直に話した。

 信じられないと言った感じだが、彼も私と同じくパワーレベリングにしては無理があると言う結論に至った。


「で……ダンジョン鉄の塊を渡したんですか?」


「そうよ」


「で、んですか?」


 私は、床に落ちているを指差した。


「──ん? ん?? んぁ」


「気をしっかりしなさい!」


 また倒れられても面倒なので頭を叩いて鈴木先生を現世に復帰させる。


「……ハッ! こ、これって……」


「ええ。彼はこともなげにわ」


 そう、彼……ちよは、握力測定器の形にしたダンジョン鉄の塊を握り潰したのだ。ダンジョン鉄を片手で砕こうと思えば、握力800はいるだろう。


「そして彼、なんと言ったと思う?」


 私は震えそうになる体をなんとか落ち着かせて、告げた。


「── 舐めすぎですよ」


「はぁ!?!?」


 彼はこれが150kgの物だと思っていたようだ。握力300kgと言っていたのには、何か理由があると思うのだが……実際には800kgの測定器を片手で破壊できると言うわけだ。

 それもあんな、こともなげに。


 彼はきっと、この学校のになりうるだろう。


 私は、なぜあんなが誕生したのか、彼の経歴を全て探ってみることに決めた。




────宝晶 千縁 魔力値……不明。

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