第7話 帰還
現世で1ヶ月後。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
俺は、7つの扉全てをクリアし、7体の怪物と契約を結ぶことに成功した。
「やっと、だ」
扉の中と現実には、時間の差が生じている。中にいた奴らによると、時空間の風向きが違うとかなんとか……
俺は実に4年間、門の中で“試練”を受けていた。
最初に入ったのは「地獄の門」の言葉がお似合いの、黒炎渦巻く門だった。そこの試練を突破するのに、実に1年と3ヶ月の時を要した。
他の試練に比べて比較的シンプルなこの試練に時間がかかったのは、ひとえに最初の試練であったからだ。
後の試練では、前の試練で得た肉体や武具、力を使うことができるが、この時はまだ何もなかったからな。
地獄の門をクリアして出てきた後、急いで部屋に戻ってスマホを見た時に1週間しか経ってなかった時は、夢かとも思った。
次に入ったのは、7色で彩られた、目がチカチカする虹の門。
ここでは、“鬼ごっこ”をやったわけだが……もう2度とやりたくない。
ついで凶器の門、水の如く静寂の門、ハートの門と続き、最後は木の門と黄金の門をクリアして、俺は帰ってきた。
「肉体は……やっぱ4年で、4週間分しか経ってないな」
俺は、自分の体を確認する。門の中では成長しなかったが、こっちでも同じようだ。やはり1年が1週間となっている。
「じゃあ、今日から2学期か? なんとか間に合ったっぽいな……」
俺はコツ、コツと階段を上がっていく。
目の前の出口の光。何年待ち望んだだろうか。
俺は振り返って、閉ざされた7つの門に向かって頭を下げた。
「──ありがとう」
中の様子はわからないが、心の通じた7人が、それぞれ反応を返してくれたように感じて、俺は実に体感4年ぶり(実際には1ヶ月)に、地上へ出た。
カ────ッッ!!!!
再びあの時のような光が部屋に満ち……ダンジョンに通ずる階段は、完全に消滅していた。
本来ダンジョンは、攻略を禁じられている。ダンジョンは国の資源そのものだからだ。
最も、攻略されたダンジョンなどほとんどなく、そもそも最下層までいける探索者がほぼいない。
俺の家に発生したダンジョンは跡形もなく消えた。これで報告しなかっただのなんだのっていう厄介ごとには巻き込まれないようになるはずだ。
「えっと……!?」
俺は安堵の息を吐いて、時計を見て──固まった。
9/1、朝10時15分。
始業式は終わっているだろう。
「まっず!?」
俺は急いで支度して、学校に向かう。
卒業できなければ探索者にはなれない。まあ、下級探索者にならなれるが、それでは意味がない。
俺が目指すのは当然、極級探索者……いや、“王級”探索者だ。
だから、学校を退学になるわけにはいかない。
俺は全速力で学校へと走る。
「うおっ!」
ギュウンッ! と体が押し出される。常人では目に負えないほどのスピードだ。ちゃんと修行して培った身体能力はそのままのようだ。
……あの地獄も生ぬるい地獄が無駄だったらと思うと、死にたくなるわ。
本来自転車で30分の学校にも、たった1分でたどり着けた。
ほんとにバケモンみたいになってるな、俺。
「はぁ、はあ」
俺は急いで学長室に向かう。
門の中で、出た時用にもらった魔石を用意する。
まだ体育館で始業式はやってるらしい。
もう終わりのようだが。
急いで向かうと、学長室の前に大きな袋を持った、一人の先生を見つけた。
担任の鈴木だ。
生徒達から集めた8月分の魔石を持っているのだろう。
「学園長、失礼しま──」
「ちょっと待ったアアアアア!!」
「なっ!?」
俺は、なんとか鈴木が学園長室の扉を開ける瞬間、鈴木を止めることに成功した。
だが、勢い余ってそのまま……
ガシャアアアン!!
「「あ……」」
「騒がしいですよ! どうしたのです、か……」
学園長室の扉に突っ込んだ俺と鈴木先生は持っていた魔石を盛大にぶちまける。それを見た学園長の言葉が、小さくなってゆく……
やベェ。退学だけはなんとかして阻止せねば……!!
〜〜〜〜〜
「……おもしれぇ。あいつ、まさか全部の門を攻略するとはな」
ちよの力への渇望に、「俺」はフッと息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます