第6話 岩田悠大
「連絡つかねぇな……大丈夫なのか?」
8月ももう10日。成績不振者の
「俺ももうそろそろ集め始めなきゃやばいのに……ちよ、大丈夫かな?」
悠大は、もしかしたら一人で勝手に行ったのかもしれないと思ったが、直ぐにそれは無いかと考え直す。
(ちよは決して人がいい訳でもないし、ちょっとひねくれてる所もあるけど……)
ちよは、約束を破るようなやつじゃない。
例えそれが初対面他人だったとしても、約束をすれば必ず守るのだ。
「はぁ……あの馬鹿、実家にでも帰らされたのか……?」
悠大は、連絡のつかないちよとのメッセージに、「もうやばいから先魔石集め行くぞ」と送って、ダンジョンに行く準備をする。
「……夏休み中に、3階層まで行こうかな」
ちよと悠大は、探索者成績、つまるところは能力値が最下位と下から2番目の生徒だ。
ただ、探索者高校に入ってる以上、9割を越える生徒がスキルや魔法を覚醒させている。
悠大も、ちよと違い、成績不振者ながらスキルホルダーの1人だった。
悠大はゴブスラダンジョンに向かい、受け付けを済ませて、ちよの姿を探す。
「まあ、居ない、よな……」
本当にどこに行ったんだか。家の場所聞いとけば良かったな。
悠大はダンジョンに入ると、真っ直ぐに走る。
その途中、カクンカクンと不自然に曲がる悠大を見て、他の探索者たちが訝しげな顔をするが、悠大は気にしない。
「っふぅ……」
悠大は息をつき、2階層への階段の前で十数個のスライムの魔石を袋に移す。
悠大の持つスキルは、【探索】。
悠大の魔力がまだまだ低いので、半径10Mにしか効果がないが、敵と味方の位置を感知できる、極めて優秀なスキルだ。
走りながらスライムを踏み潰し、魔石を回収する事など造作もない。
途中カクカク曲がっていたのは、スライムを踏み潰す為だった。
何故探知系のスキルという優秀なスキルを持ってして、成績が下から2番目なのか。
それは、悠大の魔力量に由来する。
探知系のスキルは、常時発動を常とすることが多いスキルであり、消費魔力こそ少ないが、長い間発動出来るかというと悠大の魔力では3分が限界なのだ。
一般的に、中級探索者に上がろうと思えば、探知系スキルは60分は連続発動出来なければ昇級出来ないとされている。
魔物を探知する能力なのに、時間が短ければ探索中に探知を切らしてしまうこととなり、意味が無いからだ。
身体能力も、魔力を取り込めば取り込むだけ強くなっていくため、悠大は低い。
(魔力……強い魔物を、倒せたら……)
悠大には、探索者にならねばいけない理由がある。
母子家庭で育った悠大だが、少し前に母が病床に伏してしまい、妹と2人で生活をしなくてはならないのだ。
母の病気の治療費は100万を越える。
小学生の妹も養わねばいけないのに100万という大金は、とてつもない重みとなって悠大にのしかかっていた。
(このことは誰にも、ちよにも言ってない……)
故に悠大は、平均年収1000万を越える中級探索者にならねばいけない。
探索者の8割は下級探索者。その年収は僅か100数十万程度。
中級探索者にならねば、探索者一筋で生きるのは厳しい。大学や普通の高校に行くお金ですら今は払えない悠大には、探索者になるしか道がなかった。
学校の方針としては、卒業までに中級探索者資格の取得を目標としているが、現在ちよと悠大は圧倒的魔力の低さから、1年一学期だと言うのにもう心配されている。
例年の1年一学期より5倍は成長が遅いらしい。
まだ全体が低いため、そこまでの差はないが……
このままだと留年、或いは退学まで一直線だ。
悠大は、密かに焦っていた。
「俺は……強くならなきゃいけないんだ……!」
一般的な公務員や高収入の仕事に就こうと思えば、大学を出ることは必須。
それでは遅く、探索者として成功するしか無い。
悠大は意を決して、ゴブリンの
「ちよ……お前も、諦めるなよ」
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今日は一挙3話更新!
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