第5話 謎の存在と門との邂逅
「……案外広いな」
「おう、来たか」
階段を全て降りると、横向きに座っている男が、こっちを向いて座るように促してきた。当然のように、男の椅子は玉座で、俺の椅子も玉座だった。
何故に玉座。
こんな話がある。
シンガポールに出来たダンジョン、通称ゴールドダンジョン。
そこには、本来いるはずの魔物が居らず、大量の宝箱とアイテムがあったらしい。
やがてそこは神の宝物庫だとも言われ、産出された強力な装備を得た元シンガポールは一気にダンジョン大国の地位を得た。
で、現在。
奥にある黄金の扉。一体しか居ない魔物? 人間?
これはそのゴールドダンジョンに近いものなのではないだろうかと推測される。
「ま、座れよ千縁」
「っ!?」
王冠の男は、俺の名前を呼ぶとコップに入った飲み物を飲んだ。あれ、メロンソーダじゃね?
「なんで、俺の名前を……」
「あぁ、最初にそれか?」
一体しか魔物? がいないことからも、こいつが相当に強い魔物だと分かる。
だが話し合いが出来るということは、交渉次第で何か譲ってもらえたり、生きて帰して貰える……かもしれない。
「はい。全く礼儀なんて知らずに誠に申し訳無いのですが、宜しければ教えていただけないでしょうか」
「……敬語やめようか」
「いえ、しかし……」
「だって俺は──お前だ」
王冠の男はおもむろにそう言うと、片手を上に向けた。
その手から、巨大な火球が生み出される。
「っ!? 俺……?」
「ああ。まぁ、お前のコピーってとこかな」
王冠の男……俺(?)は火球を上に飛ばして、遊び始める。
にしてもすげえな。あんなレベルの火球、何級だ……? 極級くらいあるんじゃないか??
火球が分裂し、色とりどりに変化した小火球が元の火球の周りを衛星の如く回っている。
こんな芸当が片手間で、尚且つ喋りながら無詠唱でできる人間がいるだろうか。
もしいたら、王級か、人の皮を被った化け物だろうな。
……いや、よく見ると足がない。この変な形の下半身……
(石、像……か?)
「
俺が俺に、そう問う。
「俺は……」
俺はなんというか迷うが……こいつは俺の名前を知っていたし、恐らく記憶もコピーされているだろう。取り敢えず今正直に思っていることを言った。
「何かお宝でもあるのかと思って入ってみたんですよ」
「違うな」
違うなってなんやねん!
ノータイムで否定されたわ。
「違うって……」
「まぁ、確かに今はそう思ってるかもしれねぇけどな。このダンジョンが現れた時、入ってくる時、何を思って入ってきたんだって」
ダンジョンができた時……?
「……強くなりたい?」
「そうだ」
俺が強くなりたいって願ったから出来たって……? んな都合のいい話が……
いや、でも、強くなりたいなんて日頃からずっと願って来たことだ。それならなぜ今になって急に……
「お前がやっと、本気になったからだよ」
……うん、心くらい読むんだろうなって思ってたよ。
にしても本気か……
俺は今まで、本気で強くなりたいと願って無かったってか……?
だからといって、なんで願ったらダンジョンが出てくるんだよ。
「まあ、時が来たって考えてくれたらいい」
俺はそういうと立ち上がり、両手を広げて見せた。宙の火球が爆散する。
「俺は
突如として、莫大な威圧感が発生する。
「──!?」
それを受けた俺は、無意識のうちに吐いていた。気づけば視界が床で埋まっている。
「……ハッ」
「そうだ。今のお前は弱い。身体能力も低ければスキルも何も無い。だから……」
俺から威圧感が消える。
「好きな門を選べ。そこの奴に気に入られれば、力を貸してくれる筈だ」
「門……」
俺は7つの門を見回してみる。
それぞれが特徴的な、形の無い門だ。
「
「【憑依】……?」
……ほんとだ。いつの間にか、スキルが解放されてる……!
「だが──代償も危険も無しに強くなるなんて不可能だ」
「っ!」
俺は、俺に挑発的な目を向け、鼻を鳴らした。
「その門の試練をクリアしたら……道は開く。ただ──生半可な根性では不可能だ」
そういうと、
「それでも力が欲しければ……」
「あっ! ちょっ、待っ──」
「命を賭けて、試してみろよ」
シュッ!
「命を……賭けて……!!」
「さあ……門を一つ、選ぶといい」
後に残ったのは、不吉に騒めく、7つの門だけだった。
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