第3話 転変


「……ちよ」


 下校中、俺達がカースト上位勢に目をつけられないようヒソヒソと話していると、幼馴染の金城玲奈かなしろれなに声を掛けられる。


「……なに?」


 俺は珍しいな、と思いながら、嫌々返事をする。


「……邪魔に決まってんじゃん。どいてくれる?」


 玲奈はそういって、俺たちを蔑むような目で見ながら後ろを通る。


「全く昔っから鈍臭くて馬鹿なんだから。救いようがないくらい弱い癖に探索者なんて。こんなのと幼馴染だとか……」


 玲奈はこうやって、偶に会ったかと思えば俺の悪口を呟いて行く。まぁ偶発的バッドイベントみたいな存在だ。これでも昔はよく遊んだんだがな……。


「……んだよあいつ。久しぶりに会ったかと思えばまた文句かよ」


「ちよ……気にするな。あんな言葉、無視して早く帰ろう」


「ああ……そうだな」


 そんな俺に、悠大は優しく促してくれる。本当に良い奴だ。

 ……てかほんと、なんだったんだ? いちいち呼び止める必要あったか?


「はぁ……」


 俺はボロアパートに帰って、開口一番大きなため息をつく。



 幼馴染でありたいと、願ったことなどない。弱くてもいい等と思ったこともない。


 だが、世の中は理不尽だ。そんなことは“言い訳”に過ぎない。


 全てのものに公平に、不公平がある。


 自慢じゃないが、人一倍スライムを倒した。特訓した。休みの日は一日中ダンジョンに潜った。


 でも俺には、才能が無かった。


 スキルは未覚醒、身体能力も低い。

 頭がいい訳でもなく、顔も下の上くらい。


 俺は、心のどこかで諦めていたんだと思う。

 いつからかそれを、考えないようにしながら、我武者羅に魔物を倒した。


「でももう、無理なのかもな……」


 小さなテレビを点けると、日本の極級探索者が出ていた。


『えー昨日、遂に鯨ダンジョン37階層に到達したということでしたが、どうすればそこまで強くなれるのかを教えて下さい』


『うーん、そうですね……無理して強い魔物を倒して強くなろうとする探索者も多いのですが、私からすれば無理をするのは本末転倒と言えるでしょう。多少の無茶は必要ですが、必要以上に無理をしすぎると、死んでしまいます。死んでは元も子もないですからね』


『なるほど……しかし多少の無茶は必要、と』


『そうですね。自分より格下の魔物じゃ魔力が全然上がらないので、無理もせずに強くなろうなんてのは土台無理な話ですよね。多少の無理でいけるかどうか、それを見極める“眼”というものが必要でしょう。また、それを可能にするのがパーティという訳です。』


「……」


 パーティ。こんな弱くてキモイ俺が入ることなんて一生ないだろう。


 俺は下級探索者だ。

 探索者ランクは下級、中級、上級、超級、極級とあって、極にもなると日本に3人しかいないレベルの化け物だ。

 一応、その上に王級といった、世界に5人の最強の存在が居るわけだが……


 俺がこのまま卒業しても、一生下級探索者のままだろう。


「多少の無茶、か……」


 このままじゃ、いられない。

 今度、今度と言ってはいられない。

 無茶しないままではいつまで経っても強くなれない。


 俺は、ふと、呟いた。


「強く、なりてぇなぁ」


 その時だった。


 カッ────!!!!


「な──」


 俺の住むボロアパート、101号室が光に埋め尽くされたのは。


 俺は慌てて、手探りで玄関まで行き、外に避難する。


「これって……」


 光が収まった部屋のリビングには、1つの階段があった。


 先の見えない暗黒の階段。


 それが、俺の人生を変えるであることは、未だ誰も知らない。

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