六日目・夜
その日は、今までのニュースの通り、彗星の浮かんだ、綺麗な
”じゃあ、明日。いつもと同じ時間に、あの海沿いに来て”
そう昨日告げられ、向かう海沿い。しかし、そこには誰も見つからない。
「そら君、もう帰っちゃったのかな」
そんな言葉を口にする。正直、目の前であんなことをされてしまっては、帰るのなんて一瞬だろう、とは思う、大方、どこかで隠れているのだろう。
そのまま周りを見回して数分。突然後ろから
「僕はここだよ?」
と声がする。振り向いた先には、………体の透けかかったそら君が立っていた。
「そら君、どういうこと、何で体が透けてるの!?」
「へへ、時間が近いんだ」
「時間って、何?そら君のことに関係あるよね」
「そう急かさないで、と言ってももう消えるから、急かないとなんだけど。
葵の気になってることを教えてあげるよ。僕はね、あそこにある彗星。あれの化身さ。精霊、と言っても正しいかもしれないね」
「え?」
あまりに突飛な発言に、思わず聞き返してしまう。でも、確かにあの彗星はあそこにあるじゃないか。
「葵の言いたいことは分かる。…葵、生命って、どこにまであると思う?」
「え?…地球の上にいる生物、じゃないの?」
「いいや、違う。生命体は地球以外にも多くの星にいる。そして、君たちがいるこの地球を初めとする、有象無象の惑星、彗星、流れ星。それら”星”にも、等しく命はあるんだ。命があるという事は、感覚がある。心がある。…ここまでは分かるね?」
「…う、ん」
理解が追い付かないところは多すぎるが、とりあえず言っていることは理解できる。
「でも、星。特に自分の星に生命体を持たない星は、君たちの生きているよりずっと長い時間、独りなんだよ。会話を聞くことすらできずにね、当然、僕だって例外じゃない。どれだけ命が長かろうと、1秒の持つ長さは等しいんだ」
「僕は、時々宇宙を彷徨って見つかる星しか、話相手はいない。それで、そこでも感じるんだ。僕は、孤独にしかならないって。ゴミと氷でしか出来てない上超高速で移動する僕に、生命体は出来ようがないって」
「それで、僕はもう消えつつある。彗星の、僕の永かった一生の終わりさ。そこで、ふと死に際に気になったんだ。…僕がみんな、みんなの星の生命体からどう思われてるかって。ゴミから作られている僕をどう思っているかって。だから、この村にやって来た。地球に僕の体の入物を土から作ってもらうよう頼んで、僕の心をそこに入れた」
「君が来ることは分かってたよ。制御僕の身体能力は彗星の時のままだ。簡単に来る人なんて見える。それに、長い間生きて彷徨う中でほかの星を見てきたから、君が来ることも予想出来てた。」
「内心僕は不安だったけど、アオイは優しかった。彗星を綺麗だって褒めてくれた」
「それに、何日も一緒にいてくれた。途中で僕がいなくなっても、それでもまだ待っててくれた」
そこまで聞いて、やっぱりふと疑問が出る。
「なんであの二日間、君は来なかったの?」
「それは、少し怖かったんだよ。これまで何もなく、楽しみなく生きてきた僕が、最後の最後にヨロコビを知って、朽ちるのが怖くなるんじゃないかって」
「デも、僕は結局戻ってきてしまった。そして今、凄くカナしいよ。こんな数日、君たちで言うところの刹那の時間だけ僕にヨロコビを与えて、それで僕が消えることになるなンて。これなら、知らないまま普通に朽ちたほうがよかった。…いや、僕のことをアオイは認めてくれた。彗星としての僕を、だケドね。どうなんだろ、これは、正解だったのかな」
「まあイいヤ、もうスウジつしたら僕は完全にシぬ。もうジキこの意識もなクナる」
「ボクは、あそこのかエる」
「あそこ…?」
そう言ってそら君は彗星を指差す。空に見える彗星が、随分と弱弱しく動いているように見えた。
「なるほどね…わかんないけど、悲しいこと、ってだけわかるよ」
そら君の体を抱きしめる。
…その体は、握っている感触はあるはずなのに、どこか実態感がないというか。温かいのに、無機質で、変だった。
「…たノしかったよ。葵」
最後にそう言い残し、腕の中に残る感触は、何もなくなった。
「何これ…手紙?」
空には、満天の星と月に、ゆっくり動く彗星。そら君のいたところには、一枚の手紙が残っていた。
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