二日目・夜
「…いた」
あの後、また夜遅くに昨日の場所にやってくる。すると、昨日座っていたあたりに、またそら君は座っていた。
「やあ、また会ったね」
そら君の一つ隣のテトラポッドに腰かける。そこからのぞき込む彼の顔は、明らか異様に整った顔立ち。なんてことのない、少し色白なだけの顔立ちだった。
「…こんにちは、何でそんなこっち見るの?恥ずかしい」
顔を赤らめながらそら君は言う。屈託のないその顔に、思わず胸の奥がときめく。
「いや、そら君かわいいなーって」
「何、いきなり、通報されたくなったの?」
「思ったより辛辣だね、君」
子供をからかう楽しさに少し目覚めそうになるが、すぐにその考えを振り払う。
もちろんあまり開いてはいけない扉だ、というのは無くはないが、それ以前にそもそもの話、昼の話から行くともしかするとこの子は、子供じゃないのかもしれないのだから。
…でも、心のどこかでは、嫌な予感を正しいと思っているからか。
目の前にいるそら君はそら君なのだから、別に何でもいいんじゃないか、そんな気持ちも出てきていた。
「まさかそら君が二日連続でいるとは思わなかったよ」
「僕も、まさか二日連続だとは。葵、天体観測とか、夜空とかが好きなの?」
「まあね。もしかしたら、そら君じゃいるんじゃないか、とも思ったし」
「…いよいよ危ない、葵。僕は、星が好きだから見に来てるの」
「へえ、望遠鏡があれば、家からでももっと遠くの空まで見れると思うけど、お母さんに望遠鏡は買ってもらわないの?」
「いや、僕の目で見えるから、大丈夫」
目で見える外のことを言ってるんだけど…と思ったが、そこを突っ込むと拗ねてしまうかもしれないのでやめておく。
「…私は、ここには思い出が詰まってるから。もちろん、この夜空も含めて」
「思い出、かあ…」
「うん。そんなことよりさ。そら君、彗星が近くに来てるってニュース知ってる?」
「知ってるよ、このあたりの上を通るんだよね」
「そう、それそれ!そら君は、何かしたい願い事とかあるの?」
「願い事、かあ。特に何もなく、このまま今の時間が続けばいいかな。というか、願い事をするのは、彗星じゃなくて流れ星だよ?」
「え、そうだっけ?それにしても、そら君無欲過ぎない?もっと、最新のゲームとか欲しくないの?」
「うん、今が本当に楽しいから、別にいらない。それに、彗星ってみんな言うけど、彗星の内容物はただの氷、後は少しのガスと、塵だけの、スペースデブリだよ?」
呆れの混じった表情でそら君は言う。何ていい子なんだ。言わされてるのかと思うほどに。それにしても、彗星に夢がないレベルで興味がないのに、星には興味があるなんて珍しい、と、普通に会話をしていたところで思い出す。こうもいい子だと少しやることが心苦しくなってきたが、反面違和感すら出てくる、そら君の正体を探らないと。
「それにしても、昨日から思ってたんだけどさ、そら君って凄く大人っぽいよね」
「どういうこと?」
「夜中にこんなところに来ちゃうし、全然わんぱくな感じじゃないし、好きなことが星を見ることなんでしょ?悪い意味じゃなく、子供っぽくないなって。それに、この村にはもう学校は無いし、そら君はどこから来たのかもわかんないから」
そこまで行って初めて気が付く。これでは、大人っぽくないという話題から徐々に切り詰めるはずだったのに、直接お前は誰だと疑うようなものじゃないか。
恐る恐るそら君のほうを向く。
…べしっ
額に何か小さなものが当たる。その当たったものは、何かわからないまま、海の中へと落ちていった。
「そら君、今何飛ばしたの!?びっくりした!」
「星屑。あまりに変なこと聞いてくるものだから。葵、僕じゃなきゃ今頃警察の人のお世話だよ?夜に小学生と二人きり、しかも、かわいいねどこから来たのなんて」
「かわいいねとは言ってない…」
楽しそうな顔でそら君は言う。確かに、知ろうとするだけ犯罪者に近づくことになるのか。
「まあ、僕も帰省みたいなものだよ。昔、ここから引っ越したから、小学校に上がるときだから、4年前」
嘘かほんとかわからないことを言うそら君。しかし、嘘としてしまうと確実にそら君が人でなくなってしまう手前、本当とするしかなかった。
「もう、食べ物で遊んだら駄目なんだよ。それが星なら尚更」
「星屑は本当なのに…はい、あげる」
「ん、ありがとう」
金平糖を手渡しで受けとる。気持ち、昨日より打ち解けている気がした。
「あ、もうこんな時間だ。僕帰らなきゃ」
帰る。その言葉を聞いてはっとする。
ここだ、そら君を探るのに一番いい場所。いつ消えるのかと、そら君を凝視する。
「…凄い見るじゃん。怖いよ?」
「気にしないで気にしないで、大丈夫大丈夫」
「えぇ…最初はグー、じゃんけん」
突然そら君がじゃんけんをする。慌てていたためグーしか出せず、パーを出したそら君に負けてしまった。
「あっち向いてほい」
よくわからないまま右を向く。しかしその先は何も聞こえない。
…前に向き直った時、そら君はもういなかった。嫌な予感は、ほぼ確信に変わった。
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