Chris
俺は彼女から連絡が来ないかチラチラと携帯をチェックしていた。
「なぁそんなに好きなら告ればいいのに、」
そうとなりでよく分からない度数強めに酒を飲んでいる海野に言われた。確かに。と言いたいとこだがぶっちゃけもう告白しているも同然じゃないかと思う自分がいる。
「まぁしてることはしてんだけどね。」
「え、もしかしてもう付き合ってる?」
「わかんない。」
「なんだよそれ。」
と言って海野は酒をのみ干した。
「でも珍しいね。」
「え?」
「髙地がそんなに執着してんの久々に見た。」
確かに俺はあいつに執着しているのかもしれない。あいつのことだけは逃さない。逃がしたくない。そう思ってしまう。自分自身でもおかしいと思う。だけどこの気持ちは止まることを知らない。そんな自分が嫌になる。あいつを苦しめることだけはしたくない。だけど自分だけのものにしたい。そう思ってしまう。どうすれば、この気持ちに終止符を打てるのだろうか。
「まぁほどほどにしろよな。」
そう言って海野は俺の肩をぽんっと叩いた。
俺は残りの一口をのみほし海野とその場をあとにした。
そしていつもとどこか違う日曜日をすごし気だるい月曜日。結果的にあれから彼女からの連絡はひと言もない。かといって俺からもしていない。いったい何を送ればいいのかが分からないというのが本心だ。それは彼女も一緒なのかもしれない。そう思うと心なしかとても楽だった。彼女に連絡はしなくとも位置情報を見るのはもう癖のようになっていた。なぜそんな風になったのかと聞かれるとそれは彼女のことを愛しすぎてしまっているから。これが結果だろう。
「おはよございまーす」
なんて適当の挨拶をして自席につく。
「おはようございます!」
いきなりとなりから元気よく挨拶されたもんだから俺はびっくりした。
「あはは!そんなにびっくりします?」
「お前は声がでけぇんだよ。」
「そうですか?」
「あぁ。」
といつも通り適当に里中の対応をした。朝礼まで少し時間がある。俺はスマホをとりだしこの2日間で習慣になってしまった位置情報アプリを開く。
彼女はとあるビルの中にいるようだった。
「うわ、またやってるよ。」
「うぉ!びっくりした。いきなり声かけんなよ!」
「なに付き合えたの?よかったじゃん。」
「え、髙地さん彼女できたんですか?」
そうなぜだか先走っているふたりに頭がまわらなかった。
「いや、できてはない。」
「はぁ!だったらなんで位置zy」
「おまえ、バカかそんなでかい声で言うな!」
そう立ち上がり戸田の口を押さえるとさらに目立ってしまったようで回りの音が一瞬止まった。(ように感じただけかもしれないが)
「よし、朝礼はじめるぞ。」
そう言う課長の声で俺たちの気まずさはなんとか消え去った。
そのあとは各々の業務をこなしさてお昼の休憩。予想通り戸田に昼飯に誘われ、なぜかそれに里中も入ってきた。
「へぇこんなとこにいつも来ているんですね。」
「まぁな。てか、おまえどう言うことか聞かせてもらおうか。」
「だろうな。」
「俺も聞きたいです!」
「なんでおまえはそんなに興味津々なんだよ!」
「だって面白そうなんですもん。」
俺は少ししょげたようにそんなことを言う里中にため息をついた。
「とにかくなんで付き合ってもないのに位置情報なんて」
と小声で戸田は早速問いかけてきた。
「連絡先交換した時勝手にいれた」
「はぁ!?」
「おまえはいちいち声がでかい。」
「相手は知っているんだろうな?」
「あーどうだろう。」
「おいおい、うそだろ、」
そんな北斗が絶望しているときに「お待たせしました~」と明るい声とともに頼んだものが運ばれてきた。もう里中は俺の話なんかどうでもいいようで「これ美味しい」なんて言ってばくばく食べている。
「お前さそればれたらどうすんの?」
「どうするって?」
「いや、ばれたら引かれて終わりだろう。」
「そんときはそんときだろう。」
「付き合いたいんじゃないの?」
「こんなことで振られるなら付き合いたくない。ひとりでいい。」
俺はさばの塩焼きを食べながらそういった。
「お前さ、もう26だよ。あと4年で30だよ?もう俺らアラサーだよ?」
「俺はべつに結婚したい訳じゃない。」
俺は戸田の顔を見てそう言ってまた下を向いて飯を食べ始めた。
「じゃあその子がほかの男に取られたらどうすんの?」
そこで俺の箸は止まった。彼女が誰のものでもないことには納得がいく。だけど彼女が誰かのものになるのは嫌だった。
「いやなんでしょ。」
「そうならさっさと告白すればいいのに。」
急にそう口一杯に米を詰め込んでいる里中にそう言われた。
「告白してるちゃしてるんだけどな。」
「はぁ?もぉどういうこと?」
北斗はもうなぜかキレぎみでとろろ汁をすする。
俺はもう仕方がないと思いここまでややこしくなってしまった経緯をこと細かく話した。話していけば話していくほど自分でもややこしいななんて思いながら話していた。
「うーんややこしいですね。」
「だから毎回困ってんだよ。」
「てか、もう休憩終わる!」
その戸田の声で時間を見るともう店を出ていなくてはいけない時間帯だった。俺らは残りを急いで食べて会計を済ませ店を出た。
なんとか走んなくても戻れそうだったから俺らは歩いて戻ることにした。やはりそこでも話しは続くもので
「てか、最後あったのが合コンって。」
「仕方ないだろ騙されたんだから。」
「それでもさ、気づいたら帰ればよかったじゃん。」
「帰ったら完璧嫌なやつだろ。」
「嫌なやつでもいいだろ。」
という俺と戸田のコントみたいな掛け合いをしながら歩く。
「でも連絡先持っているなら連絡すればいいのに。」
という里中の声を聞いて俺は
「まぁそーなんだけどね。」
といいながら彼女とのトーク画面を開く。
最後にあるのは彼女からの『ビートゥインザシーツ』の文字。
「びーとぅいんざしーつ?」
「お前勝手に見んなよ。」
「いや、見えたんで。なんですかそれ。」
「わかんない、これが送られてきて以来なにも送られてきていない。」
「それってカクテルの名前じゃなかったけ?」
と隣からまた違う声が聞こえた。
「え?」
「ちょっとまって。」
そう言って戸田は立ち止まり携帯をとりだしてなにか調べ始めた。
「ほら、これ」
そう言って見せてきたのはきいろぽいカクテルの写真を見せてきた。
するとなぜだか興味津々の里中は戸田のとなりへと言った。
「わーおいしそう。あーでも結構これ度数高いんですね。てか、カクテル言葉なんてあるんですね。」
カクテル言葉。。
『カクテル言葉で伝えようとして強いの頼んで結果的に戻しちゃうんです』
俺はマスターの言葉を思い出した。
俺はもしかしたら彼女からのメッセージかもしれないと思いカクテル言葉が知りたかったが俺からは見えなかった。
「ちなみにカクテル言葉なに?」
俺は食いぎみで里中に聞いた。
「えーっと。あなたと夜を過ごしたいですらしいです。」
俺はもうその場で崩れ落ちたかった。
しかしこいつらが歩いているからさすがに崩れ落ちたら変なやつだ。いや、たぶんもうそれは手遅れなのかもしれない。顔が死ぬほどにやついているのが自分でもわかった。
「もしかしてこれを伝えたかったてこと?」
「それだったら」
という戸田と里中にむかって
「ほらはやくいくぞ!」
と俺は照れ隠しでそう言って早歩きで歩いた。
だがしかし、
いや、まてよ?
え、じゃあなんで連絡がないんだ?
普通そう言う関係になりたいのであればもっと連絡するのでは?
もしかしてセフレか?
俺は彼女のセフレ予備軍としてみられているのか?
いくら考えても彼女の行動の意味がわからない。
こうなったらもうむきになってあのバーにいってみるのもありかもしれない。
だけど冷静に考えて今日は月曜日だ。彼女がいる可能性はすごく低い。となると彼女がいない状態でひとりでモヤモヤした気持ちのまんま酒を飲むことになる。そうなると20代後半の男がひとり悲しくバーで飲んで酔っぱらうということになる。さてそれはどうなのだろうか?
俺はこの仕事が終わったらどうするかを考えながら事務作業を進めていく。
今日、行くか行かないか。
いや、彼女に連絡をいれるか?
別にそこまでする必要はないのでは?
「先輩。帰らないんですか?」
「え?」
周りをみるともう人は数えるほどしかおらず薄暗くなっていた。
「あぁ、これ終わったら帰るわ。」
俺は残りの文字を入力してパソコンを閉じた。
「よし。帰ろ。」
「先輩。今日は一緒に帰りましょ。」
「え?」
なんでだ。
俺の頭のなかはクエッションマークしかない。
「べつにどこかよってもいいですよ。」
そんな俺に対して平然と話を進める里中。
「え、まぁよるとこあるっちゃあるけど。」
「どこ行くんですか。」
「いや、べつに今日行かなくてもいいというか。」
「でも行く気だったんですよね?」
なんでこんなにこいつは詰め寄ってくるんだ?
「まぁ。」
「じゃあ行きましょう。どこいくんですか?」
「駅前のバー。」
俺がそう呟くと里中の顔が一瞬曇った気がした。だけどすぐいつも通りの明るい笑顔で
「じゃあ行きましょう。」
そう言って里中は歩き始めた。
そして町役場をでると里中は止まって、
「どこですか。」
と笑った。
「わかってなかったのかよ。」
「そりゃあ俺バーなんて行きませんもん。」
確かに社会人1年目でバーなんて行かないか。
「こっち」
俺はそう言ってそのまんまバーへと歩き始めた。
そのまんま歩き始めて10分ほど
「ここ。」
俺はそう言って目の前の木製のドアを開けた。
「いらっしゃいませ。」
俺はそのまんまいつもの席に座った。
里中は隣の席に座った。
「先輩いつもこんなおしゃれなとこにきているんですか?」
「つい最近見つけただけだよ。」
俺はそう言った。
「なにになさいますか?」
「あービートゥインザシーツもらえますか。」
「かしこまりました。」
「お前は何にするの。」
「先輩と同じので。」
里中は悩むことなくあっさりそう言った。
「かしこまりました。」
そうマスターは言って作り始めた。
今日は月曜日だから彼女が来ることはない。だからこいつがいようがいまいがあまり変わらない。なんならこういう日は里中みたいなやつがいた方がいいのかもしれない。
「どうぞ。」
そう言って出されたのは今日写真でみたような小さいグラスに入った黄色の酒。
俺はすこし会釈して口に含んだ。するとアルコールの苦味がすぐ感じられた。
「度数強いですね。これ」
「そうだな。」
俺は少し顔をしかめて言った。
「初っぱなからこんなの頼むなんて先輩結構お酒強いんですね。」
「別にそんなわけでもねぇけど。」
「じゃあなんでこれを?」
「気になったから。」
俺は少し濡れて始めているグラスをみてそう答えた。
「それってあの女のことですか?」
その言葉で俺の顔も心も曇ったのは確実だった。
「まぁ、」
俺は携帯を取り出しれいの位置情報アプリを開く。すると横から手が出てきた。
「先輩。いまは俺のことをみてください。」
そう言って里中は俺の携帯を取りテーブルの上に伏せて置いた。
俺は言葉がでなかった。正しく言うと里中の言っている意味がわからなかった。
俺は伏せられた携帯を見つめることしかできなかった。
「先輩。そろそろ気付いてくださいよ。」
里中はそう切なさそうに言った。
「なにに?」
俺はあえてわからない振りをしてそう聞いた。
「俺、先輩のこと好きです。本気で。」
「俺も好きだよ。」
そう里中をはぐらかした。
「それは後輩としてじゃないんですか?」
「もちろん後輩としてに決まってんだろ。」
「俺は先輩と恋人になりたいんです。」
俺はビートゥインザシーツを飲む手を止めた。はっきり言われると人ってこんなに固まるものなんだなと思った。
俺は黙ることしかできなかった。
別に里中に対して引いているとかそんなんじゃなくて。だけど里中の気持ちにこたえることはできなくて。だけどいまの俺には誰かと一緒になる予定もない。どうしようか答えるべきか悩んでいると。
「答えはすぐじゃなくていいです。だけどひとつ言えるのはこんな人より俺の方が先輩を愛せる自信があります。」
そう俺の携帯をもって里中は言った。
『先輩を愛せる自信があります』
俺はこの言葉が引っかかってしまった。
いま彼女に夢中になったところで彼女が愛してくれる訳がない。だったら愛してくれるという確証が持ってている里中と付き合ってみるのもひとつのてかもしれない。
だけど俺がこいつのことを好きになれるのだろうか。
「じゃあ。お試しで付き合ってみる?」
最低としか言えないこの発言。だけど隣の里中はなぜか嬉しそうに「はい。」と言った。
「はぁ!?お前バカなの?」
そう目の前のバカ(戸田)が大声で言った。まぁいつもの定食屋なのだが。
「おまえ、いちいちうるさい。」
「いや、だってお試しで付き合うとかないだろ。」
「いや、なんかねぇ、」
「なんかねぇ、じゃねぇよ!」
わかっている。自分でもわかっている。こんなことしても満たされないって。だけど愛されることを求めてしまう。愛されたい。どうしてもそう思ってしまう。
「ねぇそれ、里中がかわいそうとか思わないの?」
「まぁ、思わなくはないというかなんというか、」
「てか、俺と飯なんて食べていいの?」
「いや、それはいいだろう」
「じゃあその子が他の男と飲んでいたら?」
そう言われた瞬間に俺の箸は止まった。
「お前さ、付き合うことにしたならさちゃんとしろよ」
確かに戸田の言っていることはごもっともだ。
「てか、里中も里中だよな。」
「なにが?」
「なんでお前なんかみたいなやつを好きになっちゃうかね。あいつは、」
本当にその通りだ。本当になんであいつは俺なんかを好きになったのだろう。
「先輩。先輩!」
「あぁ。ごめん、どうした?」
「ここわからなくて。」
「あぁ、ここはこうすればいける。はい。」
「ありがとうございます。先輩って今日夜空いてますか?」
これは、なんだ。なんの誘いだ?まぁ空いていることは空いている。なぜなら今日は水曜日だ。無理矢理にでもこの曜日は予定を作りないように癖付いていた。今日もいつも通り飲みに行くか悩んでいたところだった。しかしちょうどいいのかもしれない。俺にはもう愛してくれる人がいる。だったら彼女のこともきれいさっぱり忘れるのが一番いいだろう。
「うん。いいよ。どこか行く?」
「あのバーにもう1回行きたいです。」
「あー。。」
俺は思わず言葉を失ってしまった。さすがに今日あそこに行くわけにはいかない。いってしまったら彼女に付き合っていることがばれてしまう。いや、ばれた方がいいのかもしれないけど俺の心は全然固まんなかった。
「今日はそこじゃなくてさ温泉いかない?俺結構好きでさ。里中と一緒に行きたいな~って場所リストアップしてんだけどどう?」
嘘だ。これは真っ赤な嘘。本当はただの趣味だ。だがしかしあのバー以外の場所となると飲みに行くのはさすがにおかしいようにも感じるし、かといって自分や里中の家に行くのもなんか違う。そこでちょうどいい嘘がつけるのがこれなだけだった。
「いいですね。行きたいです!そのついでになんかお酒のみたいです。」
「あぁいいね。」
「じゃあ俺これから休憩なんでプラン考えときます。どこの温泉行きますか?」
俺はとりあえずここから30分ぐらいで行ける温泉施設を知っていたので今日はそこに行くことにした。そこは商業施設の中にあるというからそこで飯にすれば里中も文句を言ってくることはないだろう。
「ここなんてどう?隣にショッピングモールもあるし。」
「めっちゃいいですね!じゃあ俺休憩中に飯食うとこ探しときます。」
「おう。任せた。」
そう里中に笑いかけると里中も嬉しそうに笑顔を浮かべ「じゃあ休憩いただきます。」そう言って部署をあとにした。
「しっかり彼氏してんだな。」
そう書類をもって現れた戸田にさらりと言われた。
「付き合うならそれなりにちゃんとするよ。俺だって。」
そう。そういうとこはしっかりする。たとえ好きじゃなくても。愛がなくても。だけどしっかり壁は作る。そこはちゃんとしとかないと人間誰しもいつ裏切るかなんて分からない。そうだ。そうだった。危ない危ない。
「そうですか。」
そう言って戸田は自分の席へと戻った。
ピコン
隣においておいた携帯から通知がきた。
『テキーラサンセット』
ん?、なんだこれは。
彼女からきた謎のメッセージ。前回のビートゥインザシーツといいなにといい彼女からこれ以上続けて送られてくることはない。
もしかして、と思い俺は検索をかける。
するとやはりそれはカクテルの名前だった。カクテル言葉は『慰めて』
俺はそのページをみたまんま固まってしまった。
「おい。」
そう言って頭を叩かれた。
「いった。」
振り返ると戸田が書類を持っていた。
「またあの女か、」
心のなかではすこし安心をした。里中だったらどうしようと思っていたからだ。(里中がこんなことをするわけではないのだけど)
「まぁ。」
「慰めて、か。でも今日は行かないだろ。」
「うん。まぁ。」
「とりあえず仕事に集中しろよ。」
そう言って戸田は課長に書類を出しに行った。
俺もこれはダメだと思い、携帯を伏せ仕事へと戻った。
「先輩。俺終わりました。帰りましょ。」
「うん。俺も終わった。」
俺はパソコンを閉じ帰る準備を始めた。そして里中もそんな俺の姿を見て帰る準備を始めた。俺たちは互いに準備が終わると揃ってお疲れ様ですと言って市役所を出た。
俺たちはそのあと少し人が多い中バス停まで歩いて少し人が多いバスに乗って電車を降りて、少し歩いた。その間俺たちは自然と手を繋いでいた。そしてその手を離そうとはなぜかふたりともがしなかった。唯一改札を通る時だけその手が離れた。その時は心なしか少し悲しくなった。そのあと目的の温泉施設にいってチケットをかってふたりで堅苦しいスーツを脱いで、ふたりで風呂にはいって多和いもない話をした。そして俺たちはあまり人目のつかないところでお互いに髪を乾かしあった。もちろん里中の提案だ。そのあとは里中が調べてくれた店に行った。
「お前センスいいんだか悪いんだかわかんないな。」
「それ誉めてます?」
「一応誉めているけど、」
里中が決めた店はイタリアンだった。里中はグラタンを。俺はオムライスを頼んだ。その前にサラダを大きい方で頼みふたりで分けた。
正直里中のことだから居酒屋とか焼き肉とかを好き好むタイプだとかってに思っていた。
だけどその店は高級イタリアンと言うわけでもなく家族でもきやすそうな感じの店だった。
「イタリアン嫌いでした?」
「いや、好き。」
「じゃあよかったです。」
そう言ってグラタンを食べた。
ピコン
携帯がなった。俺はスプーンをおいて携帯を見た。
『今日はいないの?』
俺は固まってしまった。
「どうしたんですか?」
「いや、高校の友達からLINEきただけ。」
俺はとっさにそう嘘をついた。なぜ嘘をついたかは自分でも分からない。俺はそのメッセージに既読をつけずに携帯を閉じた。
その時のなんとも言えない空気を俺は感じていない振りをした。
ごはんを食べ終わって里中とバスに乗った。俺たちはふたりがけの席にとなり通しで座った。少し厚苦しくも感じるがなぜだか心地よかった。俺たちはなにか話すことはなかった。お互いスマホをいじったり窓のそとを眺めたりした。だけど手だけはずっと繋がったまんまだった。俺は途中のバス停で降りるので途中でボタンを押した。そして彼に「じゃあ、明日」と別れを告げてバスを降りた。するとまた携帯がなった。
『付き合ったんだね。おめでとう。』
たった2文。俺はその2文に心を苦めた。なぜだか心の奥底がつめたく冷えているように感じる。
『いまから会いに行ってもいい?』
『相手いるんじゃないの?』
『いるけどいないよ』
『なにそれ』
『ねぇ?いい?』
『やだ。』
俺は無理矢理にでも行こうかと悩んでいると続けて
『でも電話ならいいよ』
と送られてきた。
俺はすぐさま彼女とのトーク画面の右上にある受話器のボタンを押して音声通話を押した。
「もしもし?」
「マジでしてくる人いるんだ。」
「あぁ、いるよここに。」
俺は右耳に携帯を当てながら目の前にきたバスに乗り混んだ。
「ねぇもしかしていまバスか電車?」
「あたり。よく分かったね。」
「ダメだよ公共交通機関で電話しちゃ」
「べつにいいよ。人少ないし」
現にいま乗っているバスには俺以外に運転手とヘッドホンをつけた大学生らしき人とシャツに長ズボンをはいてる中年のおじさんしかいない。
「そういえばさ、」
「うん」
「たまに送ってくる変なやつってカクテルの名前?」
「そうじゃないって言ったらどうする?」
彼女はそうなにか吹っ切れたような声で俺に聞いてきた。
「謎が深まるな」
「それ答えになっていなくない?」
次に彼女はそう笑った。そして
「合ってるよ。大正解。」
「じゃあ、カクテル言葉で俺になにかを伝えようとしていた?」
「それも大正解」
俺が次になんて言うべきか考えていると
「でももうしない。」
そう彼女は言った。
「なんで?」
「あなたの愛される人にはなれなかったから」
そう彼女は笑っていた。そしてなにか飲み物を飲む音がした。
俺はここである問いを投げ掛けた。
「じゃあいまからでも俺の愛する人になってくれる?」
「もう相手いるでしょ。」
そう言って電話はきられた。
俺は迷った挙げ句乗ったバス停の次のバス停で降りて歩いて帰った。
そこで見つけたきれいな月の写真と共に俺は彼女にこんなメッセージを送った。
『クリス』
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