Between the Sheets
どすん、となにかが落ちた音で俺は目を覚ました。このとき俺は一体何が起こったかは全くわかっていなかった。だけど次々と聞こえてくるバタバタした音でだんだんと意識がはっきりしてくる。
俺はとりあえず起き上がり立とうとするとドアが開いた。開けた正体は昨日のスーツのまんまの彼女だった。
「何であんたがここにいるの?」
どうやら昨日の記憶は彼女にはないらしい。
「そりゃあ、俺の家だからな。」
「てか。今何時。」
「えっと、8時。」
「まって。やば仕事遅れんだけど。あれにもつどこだっけ?携帯は?」
彼女は急にそう言いながら慌て始めた。俺はとりあえず冷静に彼女の荷物の場所を教えた。
「そこにまとめておいてあるよ」
「あ、本当だ。ありがとう」
というかそもそも土曜日も仕事があるなんて地方公務員の俺にとっては珍しいことだった。
「てか土曜日なのに仕事なんだ。」
「うん。ってえ?今なんて言った?」
「え、だから土曜日なのに仕事なんだ。」
「え、今日土曜日?」
「うん」
「じゃあ仕事ないわ。うわぁーあせる必要なかったじゃん」
と彼女は安堵したのかその場に座り込んだ。
「おいおい、そこだとお尻いたくなるよ。ここ座りな」
俺はそう言ってソファの隣の空いているを叩く。
すると彼女は立ち上がってとぼとぼ歩いてきておとなしくそこに座った。そして彼女は一気に充電がなくなったかのようにぼーっと1点を見つめている。
「朝御飯食べる?」
「パンがいい」
「わかった」
あれ?これってもう恋人ってことでよろしい?この会話完璧に恋人だよね?そう考えるとなんだか嬉しくてにやけを止めるのに必死だった。
とりあえずキッチンへと行きポップアップトースターに食パンをいれて、レバーを下げる。その間に冷蔵庫から卵をふたつ出して簡単なスクランブルエッグを作り皿を二つ取り出し盛り付ける。そして冷蔵庫に余っていたレタスとミニトマトを出し洗って盛り付ける。ちょうどその時パンが出来上がったのでそれも皿に盛り付ける。俺は両手に皿を持ち彼女に
「はい、できたよ。こっちおいで」
と声をかける。すると彼女は黙ったまんま立ち上がり椅子に座った。この様子じゃ彼女は朝が弱いようだ。
「いただきます」
俺は椅子に座ってそう言い手を合わせた。彼女はというと俺の声を聞いてやっと意識が正常になったのかゆっくり「いただきます」と小さく呟いてそしてまたゆっくり手を合わせて食べはじめた。正直めちゃくちゃ可愛かった。ぽあぽあした状態で俺が作ったご飯を目の前にしていただきますと言っているその姿が。もうだれにも見せたくない。閉じ込めておきたい。だけど俺の愛で彼女のことを傷つけたくないとも思った。いままで何人の人をそれで傷つけたのだろうか。
「なんで、」
「え?」
「なんで悲しそうな顔してんの?」
彼女はスクランブルエッグを箸で食べながら言った。そんなにも顔に出ていただろうか。
「別になんにもないけど」
「そっか」
彼女はこれ以上俺に深いれはしてこなかった。沈黙が続いた。だけどしばらくして
「なんか、恋人みたいだね」
彼女がそう呟いた。俺は箸を止めて彼女を見つめてしまった。
彼女はなんも言わずそのまま食べ進めていた。俺はとりあえずいつも通りにならなければと思い箸を動かしはじめた。
「そういえばこの後どうするの?」
「あぁこれ食べたら帰ろうかな。特にいくところないし。」
「そっか。」
これでまた俺と彼女の会話は終わった。
そこから食べ終わった後、彼女はすぐに帰る用意をはじめた。
「じゃあ帰るね。」
「うん。」
「さみしい?」
「なんで?」
本当はさみしい。だけど強がってしまう。ここでさみしいなんて言う男はいないと思う。
「いや、そんな顔してたから。」
「どんな顔だよ。」
そう言うと彼女は少し笑って「じゃあ一晩お世話になりました。」そう俺に頭を下げて俺の家から出ていった。
毎週来る土曜日。そしてこのシーズンには少し珍しいなにも考えなくていい落ち着いた休み。一体何をすればいいのだろうか。俺は閉められたドアを見つめ考えていた。正直これは嘘なのかもしれない。何をすればいいか。ではなくどうしたら彼女が俺のもとに来るか。そっちのほうを考えていたように感じる。すると急に携帯の着信音が鳴った。
俺は急いでポケットのなかにある携帯を取り出し誰なのか確認せずに出た。
「もしもし?」
「あ、髙地ー今暇~?」
出るんじゃなかった。携帯から聞こえた音はとても聞き覚えのある声で、あまり聞きたくない声でもあった。
「なに?」
「それよりも暇~?てか電話出ているぐらいだし暇だよね!?」
こうやって誰かにラフに連絡できるからあいつはモテるし愛されるんだろうとしみじみに感じる。そんなこいつに抜け出せなくなった女を俺は一体何人見てきたことだろう。
「お前に構うほど暇じゃない。」
「嘘つけ~とりあえず久しぶりに飲も?」
「飲むとか言っても合コンだろ。どうせ」
「違うよ。久しぶりにさしで飲みたいじゃん。」
確かにこいつとは高校からの付き合いで俺のなかでは1番関係が続いている。だからなんといえばいいか分からないがこいつとは縁を切ろうと思ってもなぜか切れない。それは案外こいつは優しい信用できるから。たぶんこいつによって来る女も同じ理由だろう。俺は悩みに悩みまくった結果
「ほんとうに、さしなんだな?」
「ほんとほんと、てかやっぱりお前暇なんじゃねぇのかよ」
「別に暇な訳じゃねぇよ本当は出掛けようと思ってたし」
なんて大嘘をついたところでこいつはそんなことは気にしない。
「じゃあ、後で場所送るから18:00に来て」
そう言って電話を一方的に切られた。そしてその5分後すぐさま位置情報が送られてきた。そこはまぁまぁしゃれているのに値段はリーズナブルなレストランだった。最悪だ。これははめられた。これはいつもの合コンだ。またあの香水臭い女達に囲まれよく分からないことを次々に聞かれ愛想笑いを貫き通す。そしてあいつを連れて2軒目に行き「あの人はあーだった」とか「あの人は無理だ。」とか言い合いながら酒を飲む。そこまでの未来がもう、すぐ目の前まで見えている。だけどさすがに断ると更に面倒なことになりそうだと俺は思い俺はスマホをもったまんまソファに勢いよく座った。「後で場所送るから」もうその言葉で勘づいていた。というかあいつから電話が来たときから。だけどあいつといると楽しいし。何よりあいつは良いやつだということを知っているからなんだかんだ言っていつも行ってしまう俺も俺だと思う。
やってきてしまった。ただいまの時刻は17:00そろそろ準備しないと遅れてしまう。俺はとにかくいかなければと思いずっと座っていたソファから体を剥がす。さぁ今回はあいつに何をおごってもらおうか。そんなことを考えながら準備をすることにした。かといってもそこまで服にこだわりを持っていない俺はただ家にあったセットアップに適当にベルトとバングルを身に付けた。そして仕上げとして仕事では絶対に使わない香水を軽くふりかけ俺は家を出た。
とりあえず駅まで行かないと話しにならないので携帯開きながら駅へと向かった。そして駅に着き電車を待っている間俺は何となく位置情報のアプリを開き彼女がいまどこにいるのかを確認した。
「え、」
俺はその場で固まった。彼女は外にいた。それも俺が今行く店の近くに。
『ねぇいまどこにいるの』
俺は急いでチャットアプリに画面を切り替えて彼女にメッセージを送った。するとすぐに既読が着いた。
『普通にご飯食べに行っているだけだけど』
『遅くならないうちに帰りなよ』
『無理、今から合コン』
『は?』
俺はまだ恋人でもないやつになぜキレているのだろうか。
『友達の人数合わせ』
『酒飲むなよ。飲まれんだから』
そんな文字をうち終わるとタイミングよく電車が来た。俺は携帯の画面を一回閉じ電車に乗り込んだ。
あと15分、あと15分ほどで着く。彼女の居場所
示す赤い針はまだ同じような場所にいる。俺はなぜか内心イライラしていた。
それは自分に対してなのか彼女に対しての怒りなのかは分かりなかった。とにかく流れる景色を目でおっていた。
そんな時間をぼーっと過ごすと目的の駅へと着いた。俺は改札を通り目的地へ向かう。
すると珍しくあいつが先にいた。
「おつかれ」
「あ、おつかれ。そうだ言い忘れてたけど」
「どうせ女も来るとか言うんだろう」
「さっすがー」
「言っとくけど俺は誰も興味ないからな」
「はいはい、分かってますよ。でも今日のメンツまっじでかわいいから」
俺のなかで彼女以上にかわいい人なんていないから適当に流す。
「へ~そうなんだー」
「というかさっさと入るぞ」
「え?」
「もう中にいるみたいだからさ」
「待たせてんのかよ」
「はやくいくぞー」
そう言ってあいつは歩き出した。
そしてあいつが色々と店員さんとやり取りして案内されたまま進んだ。
するとそこにはいかにも男を落とす気満々の女がふたりいた。
「初めまして。今日はよろしくね。」と海野は言って座った。女の方はもう目星をつけているらしく「よろしくお願いします」と甘えてくる子猫のように高い声で挨拶をしてきた。俺はいつも通り会釈だけして海野の隣に座る。
「今日これで全員?」
「いや、まだ来るよ」
「後何人来るの?」
そう小声で俺が言うと
「男の方も女の方も後ふたりだよ」
「いつくんの」
「あ、いま着いただって」
そう言う海野の声と共に男女ふたりずつが店のなかに入ってきた。
「え、」
俺は声を失った。なんで、こいつがいるんだよ。
後から来た男女4人は空いている席へと座った。
「なに、タイプでもいた」
そんな海野の声は俺には届いていなかった。目の前には俺が今現在愛してやまない人がいた。まぁ一方的な愛なんだろうけど。しかし俺と彼女はちょうど対角線のところになってしまった。
「じゃあ、全員揃ったことだし1人づつ挨拶していきましょうか」
と海野が言った。
「じゃあ男子軍からやっていて次に女子って言う感じで大丈夫ですかね?」
その海野の声に批判などなかった。こいつはなんでこんなに周りをうまくまとめられるんだろうと所々で感じる。
「じゃあ男子からいきましょうかじゃあ髙地から」
「え?そこはお前からじゃないのかよ」
「だってお前一番端じゃん」
「え、俺から横に流れていく感じ?」
と聞くと海野はうんと頷く
「だったらお前からでもたいして順番変わんないじゃねぇかよ」
「まぁまぁはい、自己紹介」
俺はそう海野の圧に負けて渋々自己紹介をし始めた。
「えーと髙地誠です。一応近くの草津町役場で働いています。年は31です。よろしくお願いします。」
「お前なんか、普通だな、」
「自己紹介なんてこんなもんだろてか、お前も早くやれよ」
俺がそう言うと目の前の女が少し笑っていた。思わずなんだろうかとみてしまう。すると
「おふたりってなかがいいんですね」
海野は「まぁ、」と言いながら自己紹介を始めた。少し盛り上がっているとき彼女の顔にはなんの表情もなかった。
「じゃあ次俺いきますー、えっと海野諒です。えっとこんな見た目しながら児童養護施設の管理栄養士と調理師やってます。ちなみに年齢、名前ともにこいつと一緒なんで名字で読んでくれると嬉しいです。まぁ今日一日お願いします」
そこから順々に自己紹介を済ませ、最後は彼女だった。
「えっと行京 結弦です。えっとMRっていう医薬品を売るみたいな仕事をしています。年はめいと同じく24です。よろしくお願いします。」
彼女はそんな簡単な自己紹介を済ませるとすぐさま座った。
どうやら彼女も友達の付き添いのようだ。そこからは各々が食べたいものを頼み食べるというごく一般的な流れとなった。しかし残念ながら俺と彼女がいる場所は対角線上のため話すことはなかった。
さてこの合コンといわれる地獄が始まってやく2時間、彼女はとても綺麗だから誰かもよくわからないやつがずっと彼女と話していた。
「おい、おまえどうした?」
「あ?」
「めっちゃ怖い顔してるけど」
俺は海野のその声で自分が彼女に嫉妬心を抱いていたことを自覚した。
「別になんでもない」
俺はそう言って目の前の白ワインを飲み干した。
「おいおい、あんまのみすぎんなよ」
彼女が頼んで飲んでるのはジャスミン茶。まだ酒は飲んでいない。
「ねぇ結弦ちゃん。お酒とか飲まないの?」
「うーん、あんま飲めないから」
「これだったら飲めるんじゃない?」
おい、ふざけんな。思わずそう言いだしてしまいそうになったがそんなことを言える立場でもない。俺はスマホを手にとった。しかしその瞬間。「髙地さんって休みの日は何してるんですか?」とタイミング悪く聞かれてしまった。俺は「あー温泉めぐりかな」というと「え、いいですね。なんかおすすめのとこありますか?」と相手のペースにどんどん引き込まれていってしまった。俺は話ながらチラッと彼女のほうを見ると見事に圧に負け酒を頼まれ飲んでいた。しかし彼女が飲んでいたのは男が提案していたものではなかった。俺はとりあえず目の前の女と適当に話したあと彼女が席を立つのをみて俺も少しして席を立った。
彼女が向かった場所は紛れもなくトイレだろう。俺は目の前のドアが開くのを待つついでに彼女に連絡をいれた。
『大丈夫?』
既読はつかなかった。そして目の前のドアが開いた。
彼女は驚いた様子で俺のことをみた。
「言ったよね。酒飲むなって」
「だけど弱いやつだもん」
「弱いやつでもこうなっているのはどこの誰?」
たぶん今の俺はどれがどうみても怖いだろう。鏡でみているわけではないから正しくは分からないが目はたぶん死んでいるし、たぶん雰囲気から死んでいると思う。そしてドスが効いた声とにかく恐怖以外なにものでもないと思う。
俺はそんな自分に気がつきとりあえず自我を取り戻す。「とにかく戻ったら水飲みな俺は少ししてから戻るから」俺はそう言って男子トイレに入っていった。
少しして戻ると
「おまえ。珍しく酔った?」
なんて海野は聞いてくるもんだから
「、んなわけねぇよ」と否定した。
しかしまわりを見るともうだんだんと出来上がっている奴が数名いた。彼女もどうにかまだ持ちこたえているというかんじだった。
「じゃあそろそろお開きにしますか」そういう海野の声で今回は終了となった。
それぞれから海野がお金を徴収して会計を済ませ一緒に外に出た。そして彼女を捕まえようとまわりをみてみると彼女の姿はどこにもなかった。仕方なく彼女の友達らしき人に
「ねぇ、結弦ってもう帰った?」
「あーさっき遥斗さんとどっか行っちゃったんじゃないですかね。たぶん。」
と明るく返されてしまった。
「そう、わかった。ありがとう。」
俺はぎこちない笑顔を浮かべてそう返した。なんで、なんで、俺はこんなに焦っているんだ。別に恋人な訳じゃないのに。
「おい、髙地今日どこ行く?」
「飲み足りないから俺の好きなとこでいい?」
俺は真顔でそう言った。
「いいよ」
海野がそう言うから俺はそのまんまあのバーへと足を運んだ。
店にはいった瞬間彼女がいるのではないかなんて少し期待を寄せていた自分が馬鹿だったと思った。彼女の姿どこにもなかった。俺はとりあえずいつもの席へとすわりGPSアプリで見てみるとここから歩いて30分ぐらいのマンションにいた。それが彼女の家なのかはたまた持ち帰られた奴の家なのかはわからなかった。俺はそれを見てため息をついた。
「なに?どうした?」
「べつに、なんにもない。」
そう言って俺は携帯をしまって彼女があの日飲んでいたシャンディーガフを一気に体に流し込んだ。なぜシャンディーガフを頼んだかは自分でもわからない。特別美味しいわけでもないしビールやジンジャーエールが好きなわけでもないのだ。俺は飲み終わるとひとつため息をついた。
「ねぇ、お前今日どうした?」
「べつに、」
「結弦ちゃんだっけ?そんなによかったの?」
なぜだか俺の口以外から彼女の名前が出てくるのが心にざわつきときいうかイラつきを感じた。
「べつに、」
「おまえは、べつに、しか話せなくなったのか」
俺はそう言われて黙ってしまった。
「連絡先ぐらい交換しとけばよかったのに」
「もう持ってる」
「え?」
戸惑いを隠せていない海野を横に俺はシャンディーガフを体にいれた。
そしてその時ポケットに入っている鉄の塊が震えた。俺は携帯とりだし見てみると彼女からだった。
『今日はごめんなさい』
と一文が送られてきた。
『べつに、恋人でもないくせに俺もごめん』
『今日ねあの人に飲まされたときクロンダイクハイボール頼んだんだ。』
『そして、持ち帰られそうになったから意味調べてねって言って帰ってきた』
そう彼女から続けて送られてきた。
俺はいみを調べた瞬間にやけてしまった。
「おまえ、どうした」
そんな海野の声は俺には届いていなかった。
『ねぇ、いまどこにいるの?』
そう彼女から続けてメッセージが来た。
『いつものとこ』
俺はそう返した。
『そっか』
『ビトゥイーンザシーツ』
そのあと彼女から連絡が来ることはなかった。
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