#24「水着」
県内最大の大型プール施設――トロピカルウォーターランド。
広々としたプールはもちろん、子供に人気のある流れるプールや多種多様のウォータースライダーなどを完備した夏の定番レジャー施設である。
今が夏休みの真っ只中ということもあり、多くのカップルや家族連れ、友達同士で来ている人たちの楽し気な喧騒で賑わっていた。
入場ゲートを通った後、
しばらくすると、入り口の方からひと際人目を惹き付けるような見目麗しい四人組の女性がやって来る。
その中の一人、亜麻色の髪をルーズサイドテールに結わえた
「お~い、
俺が遠慮がちに手を振り返すと……周囲にあの美人な四人組の連れだと思われたせいか、妙に視線を集めてしまう。特に男性客からの視線が痛かった……。
双葉先輩は俺のところまで来ると、水着を見せ付けるようにくるりとターンした。
「これ新しい水着なの~、どうかなぁ?」
胸の辺りにフリルがあしらわれたビキニタイプの黒の水着。
露出度が高めで、双葉先輩の豊満な乳房が惜しげもなく晒されていた。
これは、俺にはちょっと刺激が強いかもしれない……。
「す、すごく綺麗です……」
思わず目を逸らしながら言うと、不意にじとーっと湿り気を帯びた目で俺を睨み付けている
「なにエロい目で見てんだよ」
「え、エロい目で見てません……」
逆に樹里先輩は双葉先輩とは対照的で、素肌を覆い隠すようにパーカータイプのラッシュガードを羽織っている。
水着が恥ずかしいのか、前のファスナーを一番上まで締め切っていた。
ふと、樹里先輩は俺の視線に気が付いたのか、顔を朱く染めながら脚を隠すようにラッシュガードの裾を引っ張る。
すると、その隣に立っていた
「樹里、どうして上着を着ているのですか?」
「べ、別にいいだろ……」
「えー、せっかく可愛い水着を買ったのに隠しちゃうなんてもったいないよ~」
「そうね、樹里はスタイルもいいし恥ずかしがる必要なんてないと思うけれど?」
双葉先輩の言葉に同調するように花火も声を掛ける。
しかし、樹里先輩は依然としてラッシュガードの裾を伸ばしていた。
「ほら、上着を脱いでください。そのままだと泳げませんよ?」
「う、うぅ……分かってるけど……」
「今日は目いっぱい遊ぶのでしょう? 昨日はあんなに楽しみにしていたじゃないですか」
「ほらほら~、樹里ちゃんの水着見せてよ~」
「や、やめろぉ~~~!」
双葉先輩と凪紗先輩にラッシュガードを剥ぎ取られる樹里先輩。
すると、樹里先輩は耳まで真っ赤に染めながら体を隠すように蹲ってしまった。
その様子を見ていた花火が二人を諭すように言う。
「双葉、凪紗。樹里が嫌がっているなら強制すべきじゃないわ」
「そ、そうだね。ごめんね、樹里ちゃん……」
「私もすいません。調子に乗りました……」
「べ、別に嫌ってわけじゃねーよ……」
そう言って、樹里先輩はしぶしぶ立ち上がって腕を背中の後ろで組んだ。
先輩が身に着けているのは鮮やかな色で彩られたワンピース型の水着。
女性の可愛らしさを前面に押し出したようなデザインだった。
ふと、樹里先輩が涙目で俺を睨み付けてくる。
「ど、どうだ……?」
「は、はい。すごく可愛いと思います」
「……あっそ」
樹里先輩はふいっと俺に背を向けると、そのまま歩き出してしまう。
「ア、アタシは先に行ってるからな……」
「あー、樹里ちゃんちょっと待ってよ~!」
双葉先輩も樹里先輩を追いかけてプールの方へ行ってしまった。
すると、隣に立っていた凪紗先輩がはぁ……とため息を吐く。
「まったく、樹里は素直じゃないですね」
「そうね、樹里は女の子扱いされるのが少し苦手みたいね」
「その割には可愛いものとかは好きみたいですけどね」
言って、二人は微笑ましいものでも見るように笑い合う。
少しして、笑いを抑えた凪紗先輩が俺の方に視線を向けてきた。
「私たちも行きましょうか」
その拍子に、ふと凪紗先輩の全身を視界に捉える。
凪紗先輩はところどころに花柄のデザインがあしらわれた、白を基調とした水着を身に着けており、純白さや清楚さと言った雰囲気が凪紗先輩に似合っていると思った。
「凪紗先輩の水着も素敵ですね」
「あ、ありがとうございます……」
言うと、いきなり過ぎて驚いたのか、凪紗先輩が俯いてしまう。
やべっ、双葉先輩と樹里先輩の流れで聞かれてもいないのについ水着の感想を言ってしまった。うわぁ、俺まじキモいよな……。
言ってから後悔してもすでに遅い。
俺は急激に地面に頭を叩きつけたい衝動に襲われた。
だが、凪紗先輩は顔を上げるといつも通りの調子で言う。
「行きましょうか」
「は、はい……」
そして凪紗先輩の後に続いて歩き出そうとしたとき。
不意に水着のポケットの辺りをついついと軽く引っ張られた。
振り向くと、不服そうな顔をした花火が俺の顔を見上げてくる。
なんの用だろうか……と首をかしげていると、花火がぽつりと呟いた。
「……私は?」
「え?」
「だから、私の水着に対して何か言うことはないのかしら……?」
そう言われて、花火の全身に視線を巡らせる。
フリルの付いたキャミソールっぽいトップスにスカート型のボトムス。
両方、黒で統一されており、露出度はそんなに高くないものの、肩が出ていたり黒の色合いだったりが女性らしい艶やかさを醸し出していた。
しかし、感想と言われてもな……。
「んー、泳ぎにくそう?」
「…………ふん」
言うと、花火はふいっと不機嫌そうに顔を背けて凪紗先輩の方に行ってしまったのだった。
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