#19「修羅場……?」
「――あっ、
「「……え?」」
その瞬間、場の空気が凍り付いた。
災いは突然やってくる、とはまさにこのこと。
俺はぽかんと口を開けたまま、爆弾を投下した張本人である
テーブルの向かい側に座る二人も機能を失ったように動きを止めて、瞬きすらしていない。
まるで、俺たちは周囲の喧騒から切り離されたような静寂に包み込まれていた。
少しして、双葉先輩はようやく自分の失言に気が付いたのか、慌てて両手で口を塞ぐ。
「ちょ、ちょっと双葉先輩っ!?」
「ご、ごめんね。秘密にしておくつもりだったんだけど、うっかり……」
双葉先輩が天然っぽいのは知っていたが、まさかここまでとは思わなかった。
俺たちがひそひそと話していると、不意に向かいから圧力のようなものを感じる。
「一体どういうことですか、旭さん……?」
「場合によっちゃ話し合いでは済まないかもな……」
「ちょ、二人とも落ち着きましょ? 話せば分かりますから……!」
氷のように冷たい
俺は慌てて二人を宥めようとするが、その怒りは収まるどころか、むしろ膨らむ一方だっただった。
「否定しないってことはホントに双葉と風呂に入ったんだな……」
「へっ!? いや、たしかに事実ではありますけど、あれは事故というか……」
「じ、事後!? ふ、二人はいつからそのような関係に……」
「事故! 事故ですよ、じ・こ!」
そこだけは絶対に間違えちゃいけないところだ。
話がややこしくなってしまうし、なにより双葉先輩に迷惑を掛けてしまう。
すると、樹里先輩が目をうるうるとさせながら睨み付けてくる。
「旭、お前……アタシだけじゃなく……双葉にまで……」
「じゅ、樹里……? ど、どういうことですか……」
「あ、いや……アタシは別に……」
なぜか頬を赤らめて視線を逸らす樹里先輩。
その様子に凪紗先輩の目が数段冷たくなったような気がした。
「やはりなにかあったのですね。正直に白状してください、樹里……」
凪紗先輩に問い詰められる樹里先輩。
しかし、あんな出来事……口にするのも憚られるのか、樹里先輩は頑なに話そうとはしなかった。そんな樹里先輩に愛想を尽かしたのか、凪紗先輩は今度はこちらに視線を向けてくる。
「旭さん……正直に話してくれますよね……?」
「いや、これも単なる事故と言いますか……」
「話してくれますよね?」
「は、はい……」
話がややこしくなるのを避けるため、出来ればこの件は濁したかったのだが……。
俺は凪紗先輩の圧力に完全敗北し、正直にありのままを話すことにした。
「えーっと、その……樹里先輩に裸を見られました……」
「は、裸……⁉ 裸って……そ、その……下もですか……?」
「はい。全部見られました……」
「ちょ、おまっ! なんかアタシが変態みたいじゃねーか! 見せてきたのはそっちだろ!」
「ちょっと、その言い方も語弊がありますって……!」
俺が必死に弁明しようとすると、樹里先輩も納得してくれたのか難しい顔をする。
「た、たしかにそうだな……」
「ええ、そうですよ。だから凪紗先輩、これは本当に事故としか言いようがなくて――」
「もういいです」
「凪紗聞いてくれ、ホントにただの事故なんだよ……!」
「だから、そんな言い訳なんてもう聞きたくありません」
感情の感じられない声音。
そこには底冷えするほど冷たい響きがあった。
どうやら、俺は凪紗先輩を本気で怒らせてしまったらしい。
それもそうだろう。たとえ事故だったとはいえ、凪紗先輩の大切な友人にセクハラまがいなことをしてしまったのだ。
友人がそんな目に遭ったと知れば怒るのは当然のことだろう。
どんな事情があれ、それが事実であることには変わりないのだから。
だからこそ、先輩の憤りをちゃんと受け止めたうえで誤解を解くべきだと思った。
自分に非がないかと言われれば完全には否定できない。
少なからず俺にも非があって、そこはしっかりと反省すべきだ。
俺は自分の軽率さを反省しながら、ちゃんと凪紗先輩のお叱りと受けようと覚悟を決めていた、のだが……。
「わ、私だって……」
「え?」
凪紗先輩の口から出た言葉は思っていた雰囲気とは違って。
てっきり、怒られるのだと思っていた俺は拍子抜けした。
そしてさらに、とんでもない発言が飛び出す――。
「私だって、旭さんに抱かれました……」
「はっ、ちょ……なに言って……」
凪紗先輩のまさかの暴露にその場の雰囲気は絶対零度の域にまで到達した。
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