#17「ファミレスにて(前編)」


 放課後、俺は双葉ふたば先輩と樹里じゅり先輩、凪紗なぎさ先輩の三人と駅前のファミレスに来ていた。


 店内に入り、店員さんに案内されたのは窓際にある四人掛けのテーブル席。


 俺の隣に双葉先輩が座り、向かい側に樹里先輩と凪紗先輩が腰を下ろした。


 すると、思ったよりも先輩たちとの距離が近くて、改めて上級生の女子に囲まれているというのを実感してしまった俺は居た堪れない気分で、肩を狭めながら居住まいを正す。


 なんだか、そわそわとして全然落ち着かなかった。


 席に着くなり、樹里先輩がメニューを手に取ってデザートのページを開くと、二人が覗き込むように身を乗り出し、メニューを指さしながら黄色い声を上げる。


「なぁ、このティラミス美味そうじゃないか?」

「こっちのストロベリーパフェも美味しそうですね」

「そうだねぇ~、迷っちゃうなぁ~」


 キャッキャウフフと女子特有の雰囲気に思わず気圧されてしまう。


 すると、隣に座る双葉先輩が俺にメニューを近付けてくれた。


あさひくんはもう決めたぁ~?」

「お、俺はドリンクバーで」

「え、なにも食べないのか?」


 樹里先輩が小首をかしげる。


 それに同調するように双葉先輩が言った。


「これから頭使うんだから、糖分は大事だよ~?」

「えーっと、じゃあこのプリンにしようかな……」

「わぁ~、プリン美味しそうだね~。お姉さんもこれにしようかな~」


 メニューを覗き込むように身を寄せてくる双葉先輩。


 ち、近い……。それになんかすごい良い匂いするし……。


 俺がドギマギしていると、向かいに座る二人も身を乗り出してメニューを覗き込んでくる。


「たしかにプリンも捨てがたいですね……」

「究極の選択だな……」


 真剣な顔でメニューを見つめる凪紗先輩と樹里先輩。


 俺は美人な先輩たちの顔が近くに接近し、体温が急激に上がったのを自覚した。


 しばらくして、全員分のメニューが決まり注文を終えると、通路側に座る双葉先輩と凪紗先輩が腰を上げる。


「旭くん、飲み物なにがいい?」

「あ、俺が取りに行きますよ」

「いいよ、旭くんは座ってて。お姉さんが取ってくるから」

「す、すいません。じゃあオレンジジュースを」

「うん、分かった~」


 むしろこの場から一旦離脱して心を休めたかったのだが、双葉先輩の厚意を無碍にするわけにもいかず、素直に厚意を受け取ることにした。


 その隣で、凪紗先輩が樹里先輩に視線を向ける。


「樹里はなにがいいですか?」

「そうだなー、んじゃメロンソーダで頼む」

「分かりました」


 こくんと頷いて、二人はドリンクバーの方へ歩いて行った。


 そしてテーブル席に俺と樹里先輩の二人きりになる。


「…………」

「…………」


 沈黙。


 さらに少しして、樹里先輩はスマホをいじり始めてしまった。


 自意識過剰かもしれないけれど、樹里先輩も先日のお泊り会での出来事が頭の隅に残っているのか、なんだか妙に気まずい雰囲気になってしまう。


 な、なんか喋った方がいいよな……。


 俺は必死に頭を悩ませ、その末に脳裏に浮かんだのはつい先ほどのキラキラとした目でメニューのデザートを眺める樹里先輩の姿だった。


 勝手なイメージだけど、樹里先輩が甘党なのは少しギャップを感じる。


「樹里先輩って、甘いもの好きなんですね」

「な、なんだよ。私が甘党だと悪いのかよ」

「そんなことないですよ。むしろ女の子らしくていいと思います」

「な、お前っ……また平気でそういうこと……っ!」

「え、なんか気に障ること言っちゃいましたか? すいません……」

「ふんっ、別になんでもねーよ……!」


 そう言いながらもやっぱり怒らせてしまったのか、樹里先輩が顔を赤くして睨み付けてくる。


 もしかしたら話題をミスってしまったのかもしれない……。


 なんだか申し訳ない気持ちになっていると、双葉先輩と凪紗先輩が飲み物を持って席に戻ってくる。


 そして、双葉先輩が俺の前にオレンジジュースを差し出してくれた。


「はい、どうぞ~」

「あ、ありがとうございます」

「樹里、メロンソーダです」

「お、おう。ありがとな……」


 向かい側で凪紗先輩がメロンソーダを差し出すと、なにか樹里先輩の異変にでも気が付いたのか、怪訝そうに首をかしげた。


「どうかしましたか、樹里?」

「な、なんでもねーよ」

「そうですか……?」


 凪紗先輩はなおも訝しむ顔をしていたが、これ以上追及しても押し問答になると思ったのか、大人しく引き下がりソファーに腰を下ろす。


 そして、注文したデザートを待たずして凪紗先輩がパンと手を叩いた。


「それでは、本題に入りましょうか」

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