#3「お泊り会」
金曜日。朝起きて一階に降りると、玄関でキャリーケースを引いた両親と二人を見送る姉――
たしか、今日から両親は出張でしばらく家を空けると言っていた。
ちょうど家を出るところだったのだろう。
「じゃあお母さんたち、行ってくるわね」
「うん、気を付けて」
髪をおさげに結わえ、ゆったりとしたルームウェアを着た花火が軽く手を振る。
玄関の扉が閉まると、花火は一瞬俺の寝ぼけ顔を一瞥したが、すぐに視線をそらして洗面台の方へと歩いていった。
いつもどおり。これが俺たち
別に仲が悪いというわけでもないが、普段からほとんど会話という会話がなかった。
まぁ、思春期の異性の姉弟(兄妹)なんてこんなものだろう。
そう思いながらトーストを焼いて、朝食を食べていたときだった。
学校に行く支度を済ませた花火がリビングに戻ってくる。
「
「え……?」
めずらしく花火に話しかけられて、思わず戸惑った反応を返してしまった。
花火は無表情のまま、業務連絡でもするように淡々と口にする。
「今日、友達が家に泊まりに来るから」
「……ふーん」
「じゃあ、それだけだから。もう行くわね」
トーストを口にくわえながらボーっとしていると、ガチャンという玄関の閉まる音がして部屋が静寂に包まれた。
そのまましばし時間が経過した後、ふと思い出す。
「え、友達が泊まりに来るって……?」
◆ ◆ ◆
学校が終わって帰宅した俺はおそるおそる玄関の扉を開ける。
扉の隙間から中を覗き込み、まだ花火が帰っていないことを確認すると、俺は「はぁ……」っと軽くため息を吐き出した。
――今日、友達が家に泊まりに来るから。
花火がわざわざそう言ってきたということは、もちろん同じ家に住む以上一応言っておこうという配慮もあるはずだが、要は部屋に籠って邪魔をするなということなのだろう。
たしかに、楽しいお泊り会に水を差すのも申し訳ないし、大人しくしておこう。
俺は部屋で私服に着替えると、キッチンへと向かう。
花火たちが帰ってくる前に晩飯の準備をしておく必要がある。
冷蔵庫の中身を確認しながらふと思う。
そういえば、花火たちは晩御飯はどうするのだろうか。
なにも連絡ないしな……。
まぁ念のため、いつもより多めに作っておくか。
そう思って、俺はテキパキとカレーを作り始める。
こうして母がいない時には俺が料理や家事をするのが暗黙の了解であった。
完璧超人な花火のことだから料理も家事も完璧にこなすと思われがちだが、実は花火は料理家事に関してはてんでダメだった。姉の唯一の欠点と言ってもいいだろう。
だから弁当は忙しい母に代わって、俺が姉の分も作っているし、この前の弁当の答え合わせは姉の手作りではなく、『自作』が正解である。
わざわざ花火の欠点を晒すようなことはないし、だからと言って姉の手作りだと嘘を吐くのも憚られたため適当にはぐらかしておいたが。
音楽でも聴きながら手を動かしていると、あっという間にカレーが完成する。
俺は少し早めの晩御飯を済ませると二階の自室に戻る。
花火たちが帰ってくるまで漫画を読んだり、ソシャゲをしたりしているうちにウトウトと睡魔に襲われ、いつの間にか寝落ちしてしまった。
◆ ◆ ◆
ふと目が覚めると、すでに夜の一〇時半を過ぎていた。
どうやら寝落ちしてしまったらしい。
遅くなる前に風呂に入ってしまおうと、着替えの服を抱えて風呂場に向かう。
体を洗っている間に風呂を沸かし、湯船に浸かった。
体の疲れが抜けていくような心地よさを感じながら、寝起きのせいかまたしてもウトウトとしてしまう。
学校では常に気を張っているせいか、疲れが溜まっているのかもしれない。
しばし目を閉じてボーっとしていた時だった。
「花火ちゃ~ん、タオルどこにあるのぉ~?」
ふと気が付けば、風呂場の扉を仕切った向こう側に人影があった。
そして、どこかで聞き覚えのあるような女性の声。
……え、女性の声?
と、そこで思い出す。
そういえば、花火の友達が泊まりに来ているんだった……!
寝起きですっかり忘れていた。
ど、どうしよ。風呂場に自分がいることを主張しなくては……と、あたふたしているうちに扉の向こうから衣擦れの音が聞こえてくる。
さらに扉の樹脂パネルごしに肌色の面積が増えていく。
や、ヤバい……早く言わないと! いや、もう手遅れなのか……⁉
俺の人生、ここで終わるのか……‼
軽くパニック状態になっているうちに浴室の扉がゆっくりと開く。
そして――。
「あ……」
風呂場に
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