第8話 計画
ベッドで忍の腕に抱かれながら2人でひとつのスマホを見つめる。
2人とも裸で、忍に触れる肌がまだ熱を持っていて少しくすぐったい。
「……教会かぁ……」
スマホに映された幸せそうな写真と記事を目で追う。
「前に調べた時…教会で式だけなら、思った程かからないんだって思ったんですよね」
「……そうなんだ……」
写真の花嫁さんがすげー幸せそうで……すげーキレイで……
もうグダグダ悩まないと…
『幸せだ』と言ってくれている忍を信じると決めたはずなのに、やっぱり胸が『チクリ』と痛む。
──これ……もし……男同士だったら…………
写真の幸せそうな2人を男同士だと想像すると……
やはり…………ちょっと………………
後ろから俺の身体にまわされた忍の腕をギュッと抱きしめた。
絶対……女の子にモテない訳ない……。
身長だって高いし、顔だって贔屓目無しに見たって決して悪くない。
それに……俺には無い気の長さと、我慢強さも持ち合わせている。
中堅大のうちの大学でだって……俺と違って忍は偏差値の高い学部にいる……。
現に…………知り合った時にはめちゃめちゃ可愛い彼女がいた……。
俺なんて…………男に告白されたことはあっても……女の子に告白された事なんて一度もない……。
別に、告白されたところで……付き合う訳じゃないから良いんだけどさ……。
なんて言うか…………
ステータスの違い……って言うか……
レベルの違い……って言うか……
ゲームで言ったら、忍は間違いなく勇者だし、俺は…………その辺を跳ね回ってるスライム程度かもしれない……。
───あ…………イヤ……1度だけあるッ!……
遥か昔の記憶が蘇る。
───小学校1年の時…………告白された……。
隣の席の女の子に……
「光流くんは私と結婚するんだよ」
そう言いきったのは…………
ジャイアンみたいな女の子だったな…………
「……はは…………俺もあったわ……」
その記憶に何故か余計切なくなった……。
「先輩……?何が“あった”んですか?」
忍は不思議そうに俺に声を掛けると、後ろから強く抱きしめた。
「───別に……なんでもねぇよ……」
そう言いながら、忍がこんな俺を選んでくれたことが嬉しくて
少しだけ……申し訳なくなる……。
「…………俺……ウェディングドレス……着ようかな…………」
懲りもしない俺の戯言に、忍が後ろから小さくため息を吐いた。
「…………着たいんですか?……ウェディングドレス」
「…………別に…………そうじゃねぇけど……」
「じゃぁ、どうしてそんな事言うんですか……」
困ったような忍の声に俺は口を噤んだ。
「先輩?」
それでも何も言わない俺の身体をベッドに倒し……優しい目が……俺を見下ろす。
「……先輩?」
いくらバカな俺だって分かる……。
「……………だって………」
以前……何故忍が結婚式のことを調べたのか……。
「……………………前にも……忍が結婚式の事……調べたくなるような……“なにか”があったんだろ……」
『俺の前にも…………そう思う相手がいた』ということで…………。
別に……俺と付き合う前のことまでどうこう言うつもりなんか無い。
けど……やっぱり『結婚』を考える程の相手がいたのか……と思うのは
少し……ショックだった。
そしてこんな俺が出来ることと言ったら…………精々女装くらいなもんで…………
つい責めるような言い方になってしまった俺を、忍のまん丸くなった瞳が見つめ、そして呆れたように笑った。
「本気でそんなこと思ったんですか……?」
そう言うと『はぁ~……』と……わざわざ大袈裟にため息を吐いた。
「さっき言った、同姓同士の結婚式を偶然見かけて……調べたんですよ……。先輩とも結婚式挙げられるのかなって……」
俺を腕の中に閉じ込め、呆れた様な声とは裏腹に嬉しそうな笑顔が俺を見つめる。
「……ヤキモチ妬いてたんですね」
「………ちげーし……」
「違わないですよね」
「………………ちげーし………妬いてねぇし……」
目を逸らし不貞腐れる俺をそれでも嬉しそうに見ている忍が……
こんな面倒臭い俺のことを……
そんな風に想っていてくれる忍が……
嬉しくて、余計素直になれなくさせる。
「まったく……先輩はすぐ不安になっちゃいますね」
それでも視線を合わせようとしない俺に痺れを切らしたのか「よいしょッ」と……自分の身体の上に軽々と俺を乗せた。
「───おいッ…」
否応なしに視線を合わせられ、ただでさえ熱い顔が余計熱をもつ。
「でも……ちょっとでも不安になったら、絶対言ってください。俺……必ずどうにかしますから……。先輩が安心して俺のそばにいられるように……必ずどうにかします」
俺の瞳を見つめ、俺だったら絶対言えないような言葉を……そしてそれ以上の愛情を注いでくれる忍が愛おしくて、嬉しくて………
「………別に…不安になんかなってねぇし……」
また目を逸らして強がる自分が……本当に嫌になる………。
そして忍はそんな俺にいつも“クスッ”と笑って
「そうですね。先輩は…妬いてもないし、不安にもなってないですね」
優しく抱きしめてくれる……。
「おれ、明日からばぁちゃんが来れる範囲で……結婚式挙げさせてくれそうな所当たってみます」
そしてまだ照れてる俺の耳元で告げた。
確かに同性同士の式は断られることもある……と、さっき見た記事にも書いてあった。
けどその時……俺に紅茶をご馳走してくれた男性の顔が頭を過った。
「……すぐには見つからないかもしれないけど………おれ、必ず見つけ───」
「───忍!」
まだ途中の言葉を遮り、俺は忍の身体の上に起き上がった。
「病院の──隣の教会!」
「え……?」
「もしかしたら……挙げさせてもらえるかも!」
「……そう言えば……すぐ隣にありましたね……小さな教会……」
あの日……『今までたくさんの恋人達を見てきた』そう言っていた。それは恐らく結婚式でってことで……。
もちろん断られるかもしれないが……当たってみるだけの価値はある。
「ダメもとで聞いてみよう!」
素っ裸なのをすっかり忘れ……つい興奮して忍の胸に手をつきその顔を見下ろす俺を……正確には『俺の腰』を忍の手が押さえつけた。
そこで腰にと言うか……尻にと言うか……後ろから“当たる硬い物体”に気付いた。
「……忍………?」
「……この角度から………先輩…見たの……久々で……」
微かに頬を染めて……今までと違う忍の瞳に見つめられる。
「……もう一回……しようか……?…光流……」
「……え………」
もう一回って……この体勢からってことは………もちろん……思い切り……下から突かれるヤツ……では……
「今度は“光流”が自分で挿れて……?…」
忍の色っぽい声に……そして想像通りの展開に……俺は『ゴクリ』と唾を飲み込んだ………。
タキシードで花束を 海花 @j-c4
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