10年前に魔王を討伐した報酬でFIREしました~異世界で早期引退した俺が未だに最強らしいけど、そんなことは心底どうでもいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!~
第20話 帝国だってあせるんじゃああああああああああああ
第20話 帝国だってあせるんじゃああああああああああああ
◆◆
延々と続く一本道に周囲には木々が生い茂る林道――
王国と帝国の国境周辺に広がる【ヴァウォヴェエジャの森】は、国を繋ぐ肝要な道途として重要地域として指定されており、多くの民が安心安全に交通ができる様に整備されている。
だが、物流や運搬、交通の重要通路という側面だけでなく、【ヴァウォヴェエジャの森】に残っている自然は、もっとも重要かつ意義深い自然生息地を含んでいる。ここには科学上または保全上の観点から、すぐれて普遍的価値を持つ絶滅の恐れのある種の生息地などが確認されており、希少な植物が生殖している点から自然保全に注力されている数少ない森林である。
しかし、その一方で、環境を守っている故に極端な食物連鎖の拮抗を崩す事が禁じられている為、道途に出現した敵対するモンスター以外の捕獲、駆除は禁じる。指定された道途以外の森林内の侵入は許可のある者以外は禁ずるとのルールがある。
その為、【ヴァウォヴェエジャの森】はモンスターの人為的削減が少なく、中級と下級モンスターの巣窟として知られている。強大な力を持つモンスターがいない事は幸いであり、甚大な被害が通行人に出たという話は稀有であるが、それでも、襲撃を受けて軽度の被害は他の森林と比較して件数が多いのは、それだけこの道を使う人間が多い故であると思われる。本来であれば、通行人が多いこの道に、昨日と同様に人通りが少ない、いや、俺たち以外にいないのは、依然としてカントン平野に出現したモンスターの影響である事は明白であろう。と、エグレが噛んで含む様に教えてくれた。
「――今日の目的地は?」
俺がエグレにそう訊いたのは、依然として朝の涼し気な風がくすぐる、出立から一時間ほどが経過した頃だった。
「今日は帝国の検問所まで行く予定。帝国を越えれば、検問所の周辺には宿場もあるから。それに、そこで約束をしている人もいるから」
「約束?」
そんな話は聞いていない。共に旅をした十年前は、報連相は重要であると口を酸っぱくして言い聞かしたつもりであったが―――いや、言って事はないか。そんな、中小企業のワンマン社長の様な事を。
「わたしもあなたも帝国には土地勘がないでしょ。だから、案内をしてくれる人が必要なのよ。それに、今の帝国はあまり治安がよくないから」
「へえ、どうして?」
「……本当に時事に関して何も知らないのね。帝国は今、公国との戦争の最中なのよ。だから、街を守る護衛兵も少なくて犯罪件数が増加傾向にあるそうよ。それに、
が近づいている場所って、人の目がどこか血走っているというか、死に急いでいるというか……」
「なんだか、きな臭い話だな」
「きな臭いっていうか、もう戦火の炎は燃え上がっているのだけどね」
「一応、確認なのだが、俺たちが目指す帝国の街は戦場と化していないんだろうな?」
「ええ、まだ大丈夫なはずよ」
まだと言う事はいずれは戦地となるのだろう。
「そんな、物騒な時にわざわざ行かなくても……」
「いいえ、今が好機なのよ。誰だって住み慣れた街を離れるのは嫌でしょ。でも、自分の身に危険が迫っていれば、そんな事も言っていられないでしょ」
「つまりは、避難したいと考えているエルフがいるであろう、このタイミングをわざと見計らっていたという事か」
「ええ、その通り」
なんて言うか、性格が悪いというか、目的の為なら手段を選ばない奴になったのだとしみじみと痛感する。十年前のエグレは復讐心だけが行動原理だった。それよりは、マシなのかもしれないが、
女性というのは、種族に関係なく計算高い生き物なのだろうか? 例えば……いや、そんなことをおいそれと言えばすぐにバッシングされる世の中だ。やめておこう。
そんなことよりも他の話題をしよう。例えば――
「そういえば、よく俺の居場所がわかったね」
急に気になった疑問を口に出してしまう。
エグレも脈絡もない俺の疑問文に、随分と怪訝な表情を浮かべる。
「――何の話?」
「いや、誰にも気付かれずに、ひっそりと生きているつもりだったんだけど、君は俺の家の場所までよく分かったなと思って。それも、探知能力のお陰?」
「それは……わたし以上に探知能力に長けている人間がこの世にはいるのよ」
エグレはなにかを含んだ様に曖昧な言葉で謙遜する様に言う。その言葉にはこれ以上は踏み込んで欲しくないという意思が感じられた。
◆◆
月に一度四日間に渡り開催される各行政機関の省長、副省長と終身任期を持つ十一名の貴族院議員による、閣僚会議は各省の報告と帝国の短期的な政治的対策の決定を目標とする定例会議であり、帝国のすべてはこの会議で決定すると言っても過言ではない。それは、依然として帝国は一部の貴族の力が強く、民主化の波に乗り遅れていいる証拠でもあった。
そんな帝国にとって重要な会議の初日である今日は特筆して、早期の解決と今後の改善が求められる議題に関して議論が行われる。
そして、直近の最重要課題である公国との紛争に関する軍政省による進捗報告と議論は終わり、時刻は正午を回ろうとしている時に、会議は新たな議題へと移行している。
「――えー、次の議題ですが、王国との国境付近に存在するカントン平野にて
本会議での司会を務める、帝国主席補佐官のオークス公爵は予定通り、そう議題を提起した。
すると一斉に意見が飛び交う。それは収拾がつかないほど、全員が議論の段取りなど無視する様に好き勝手に喋り出す。
「ああ、交易にも支障が出ているとはいえ、王国の問題ですからね。帝国としてはなにもできませんよ」
「いやいや、商会からも経営の悪化と売上の減少が報告されています。迅速な協力と駆除は必要不可欠かと」
「それに、今はカントン平野に住み着いていますが、縄張りが帝国まで広がる可能性を示唆する論文も提出されています」
「やはり、迅速に討伐をする様に圧力を強めるべきでは?」
「これを機会に軍事提供や、武具を売り付けるというのはどうでしょうか?」
「確かに、武器は金になりますもんね」
「いやいや、友好国とはいえ、軍事に関する情報の開示を他国にするのは、如何なものでしょうか?」
その意見の大半が楽観的なところがこの国の現状を表している気がしてならない。
依然として帝国内でも王国に出現した
そんな時に、思わぬ方向から声が飛んで来た。
「あのーー、よろしいでしょうか?」
恐る恐る挙手をしながら、発言の許可を求めているのは、外務省副省長第三補佐官であるローネンド・キュースであった。本来であれば、補佐官は閣僚会議での発言権は認められていない。その為、発言を希望する際はその都度、本会議の司会を務める帝国主席補佐官であるオークス公爵への許可が必要となる。
「外務省副省長第三補佐官の発言を許可します」
「有難うございます。俄かには信じ難いのですが、本日、王国から
「本当か!」
「王国の軍事力で討伐できるとは思わないのだが?」
「これで国交が正常になる」
「いやいや、誤報に違いない」
室内には思い思いに歓喜と疑念の言葉が交互に飛び交う。
「静粛に願います。まずは、外務省副省長第三補佐官による只今の発言の真偽を確認する必要があります。王国大使に発言の許可を与えます。本件について王国からは何か報告はありますか?」
「はい、特に王国からの報告は受けておりません。ですが、本件に関しては軍政省の管轄であると認識しております」
「そうですか。では、軍政省ロートレック省長、本件についての軍政省の把握している状況の報告をお願いいたします」
「その件については、副省長が担当しておりますので」
「では、副省長のポールランダ副省長、報告をお願いいたします」
「申し訳ありませんが、わたくしも公国との紛争で手一杯でして、補佐官に一任しております」
「では、軍政省ノーコウカ副省長第一補佐官、発言を許可します。報告を――」
「ポールランダ副省長の誤認だと思われますが、本件の担当はわたくしではなく、軍政省副省長第四補佐官であります」
「……はあ、では、軍政省副省長第四補佐官である、えーーと、第四補佐官の発言を許可する」
「はい。現在、偵察兵を向かわせて、事実確認を急いでいる所です」
「――そうですか。それで、偵察兵はいつ頃の帰還予定ですか?」
「…………」
「軍政省副省長第四補佐官の発言を許可する」
「はい。事実確認を終えてから帰還いたします」
「軍政省副省長第四補佐官の発言を許可する。それが、どれくらいの時間を要するかを知りたいのですが?」
「はい。現時点では分かりかねます」
「……そうですか。では、本件に関する真偽について、現状における軍政省の見解をお聞かせ願えますか?」
「「…………」」
室内には沈黙が流れる。
「誰でも結構です。軍政省で王国の軍事状況に見識のある方の私見を伺いたいのですが?」
「「…………」」
「王国の軍備や軍事力に関する情報の収集を担当されている方はいらっしゃらないのでしょうか?」
「お言葉ですが、王国は現在、良好な関係を築いており、友好国という位置付けであります。特に我が省庁で王国に関する軍備に関する情報を収集はしておりません」
「……そうですか。では、閣僚会議開催期間内に偵察兵が帰還した場合は即時情報の開示をお願いします。また、開催後の偵察兵が帰還した場合は、帰還次第、真偽の報告と対策に関する臨時会合を決定いたします。また、本議題は真偽が不明なまま進行はできかねますので、ここまでとさせて頂きます」
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