第6話 旅立ちの日いいいいいいいいいいいいいいいいいい

 ◆◆


 読者諸君――6話にいるということは、おじさんのモーニングルーティーンなんて、読むに堪えない文字列を突破してきたのだろう。そして、「もういいや」と、見切りを付けずに続きを読んで頂けることに心から感謝の言葉を贈ろう。


 多忙を強いられ、時間が貴重な現代社会、無料で楽しむことができる娯楽で溢れた中で、素人の書いた稚拙な文章を一万五千字という、四百文字原稿用紙で言えば四十枚近い量をここまで読んでこられた奇特な皆さんなら、唐突に始まるこのくだりにもそろそろ慣れて来られただろう。


 さて、思い返して欲しい。ここまでの道中を――


 やりたい放題の第1話から、いきなりおじさんのオナニーで始まり、おじさんによる状況説明と、おじさんによる回顧、おじさんのモーニングルーティーン! さらに筆者の偏見と独断に満ちた持論を展開する痛々しい自分語り――物語の大半をおじさんが占め、時折見せる筆者の悪癖に顔を幾度と引きずったことだろう。読者の置いてきぼりも辞さない、荒唐無稽の展開に幾度となく呆れた事だろう。


 理由は追々話すが読者諸君には、「どうしてここまで読み進めたんだ」と、自問して欲しい。果たして、貴重な時間を割いてまで読むに値するものだろうか? まあ、面白いと思っていたなら、有意義な時間だと感じていたら、その、まあ、何て言うか……嬉しいけど!!!!


 さて、俺は好んでYouTubeを見るが、動画内で過剰にコメントを書くように要求するユーチューバーが嫌いである。そして、動画の最後にはお決まりのように、「高評価・チャンネル登録よろしくお願いします」で〆られるテンプレートに疑問を呈している。なんか、「そうして欲しい」と頼まれると嫌なんだよなーーーと、そんな捻くれた俺の意見に賛同してくれる人がどれくらいいるだろうか。


 だが、こうして執筆を通して不特定多数の方に見られると、彼らの気持ちの一端が理解することができた。俺も執筆した本作を読み返してみると、面白い気がするけど、なんかクセが強くてなーーー、途中で読む気が失せると言うか、この筆者は絶対にプライベートで仲良くできないだろうなーーー、という印象を抱いた。


 長々とダラダラと言い訳じみた事を滔々と語ってみたが、つまり、なにが言いたいかといえば、コメントくれると嬉しいな!(ハート)

 正直、どこがいいのか、なにが悪いのか、そもそもこの作品は面白いのか? 書いたはいいものの面白いかこれ? てか、この方向性で合っているのか? そろそろ主人公を部屋から出せよ! まだ、便所しか行ってねえぞコイツ!!


 俺はそんな心情にいます。ここまで読み進めて頂いた奇特な方々、是非ともご教授いただけますと幸いです。


 まあ、こんなこと読者諸君にお願いしておいてなんだが、コメントに対して俺が返信をしなくても悪しからず。


 ――ゴホン!

 さて、とうとう、長かった道なりを経て、やっと主人公が部屋から出ます。ようやく部屋から出ます。とうとう、部屋から出すことができます!!!!


 俺だって書いてて思ったよ。こいつずっと部屋にいるなって。


 主人公の名前も明かされます。最強とタイトルに付いてるのだから、きっと戦いもするのでしょう。そして、帝国にもエルフの遊郭にも行くのでしょう!


 さあ、物語はようやく動き出した。と、言うよりもスタートラインに立ったって感じだ!!!!


 読者諸君のこれからの人生と、主人公である彼らの旅に幸運がある事を願って、下記へどうぞーーーー!!!!!



 ◆◆



 ――扉を開くとそこには黒く大きなバックパックを背負った若い女性のエルフがいた。髪は金色をしており、長くつり上がった耳は人間種のそれとは随分と異なり、彼女がエルフであることは如実に表していた。だが、そんな偏見を物ともしないほど、彼女は美しい美貌を有していた。だが、そんな女性らしい顔つきとは対照的に、この国の女性では珍しいことにズボンを着用している。それは、彼女が異国から来た事と、旅人であることの何よりもの証拠である。だが、最も特筆すべきは胸部であろう。開かれたその胸元には、はっきりと谷間が露見されていた。そして、でかい! デカすぎるだろ!!


 こんなナイスボディの美女でわざわざ我が家に訪ねて来てくれる女性にはひとりしかいない。


 ――ジョセフ・エグレ

 数日前に再開して、今日から共に旅をするかつての仲間が、これからの仲間がそこには立っていた。だが、来ることは分かっていたが、少々面を喰らっている。エグレが現れたのは約束の時間よりも三十分ほど早くのことであった。別に遅刻されるよりは早い分に越したことはない。俺だって既に出立の用意はできているのだから。


 だが、エグレの神妙な面持ちに、なんだか嫌な予感がしていた。


「――おはよう」


「おはようさん。随分と、早いな」


「行く前に少し、相談したい事があるんだけど……」


「……相談? 誰かに聞かれたら不味い内容か?」


「ええ、まあ……」


 エグレは歯切れ悪くそう答える。


「じゃあ、部屋で茶でも飲むか? ゆっくり聞こうじゃないか」


「ええ、ありがとう。じゃあ、あがらせて頂いてもいい?」


「もちろん」


 俺はエグレを室内に迎え入れた…………。


 ――いいや、部屋から出ないんかーーーーーーーーい!!!!!!


 と、読者諸君に代わって作中でツッコんでおきました。

 いやはや、我ながら今のツッコミは決まったなー! え? お前の匙加減だろって? いい加減にしろって? 

 皆様の憤慨する気持ちも分かります。是非、手に持った出刃包丁は収めてほしい。そして、家に出刃包丁を持っている理由を教えて欲しい。ついでにアジフライをご馳走して欲しい!! 因みにだが、アジフライに何を掛けるかは、タルタルソースの一強である訳だが、それ以外だと中濃ソースか醤油で意見が分かれる所であるが、俺はわさび醤油派である。勘違いをして頂きたくないのは、タルタルソースがあればタルタルソースであるという点だ。だが、家でタルタルソースを作るというのも骨が折れる。そもそも、アジを捌いて、揚げるという時点で相当な手間が掛かっているというのに、さらにはタルタルソースまで用意するなんて、どれだけの労力か読者諸君は理解しているだろうか? アジフライに何を掛けるか論争は一端、タルタルソースがあったらタルタルソースだけど……で、議論を始めるべきではないだろうか? ああ、また随分と話が逸れた。そもそも、何の話をしていたんだっけか? 


 依然として部屋から出ない事に対してツッコミを入れた所だ。そして、この展開に憤慨しているのでは? と、俺は危惧しいている所存でございます。


 それとも、ここまでの展開を読んで、この作者が易々と主人公を部屋から出すとは思えなかったと察していた御方がいれば、きっと俺と気が合うのでしょう。多分、プライベートで友だちがいないでしょ? 当たってる?


 そして、もし、クスっと笑って下さっていれば、これ以上の喜びはありません。



 ◆◆



 テーブルを介して向かい合うふたりの男女。恋の予感は……していない。

 卓上に置かれた二つのコップからは、ゆらゆらと湯気が踊っている。


 さてさて、時間に限りがある。いきなり本題から入るべきだろう。エグレは相談と言った。確かに自身の悩みや不満を他者に共有して、解決策を見つけ出すことは合理的かつ有効であろう。だが、問題はその相手である。例えば、料理のアドバイスを銀行員に尋ねても、その問題を解決することは困難だろう。出店における融資のアドバイスはくれるかもしれないが。だが、相談とはしっかりと相手を精査して慎重に判断する必要がある。


 では、三十五歳ニートのおじさんが、人間でいえば思春期頃であろう、若いお姉ちゃんの悩みを解決することができるのだろうか。


 ――答えは否だ。


 まあ、俺に関して言えば、誰の悩みも解決する自信がない。解決どころか、有効なアドバイスも助言もできないだろう。ただ、朗らかの表情でうん、うんと頷いて、相談者に共感して気持ちよくなってもらうくらいしかできない。その程度の悩みならいいのだが、三十五歳でここまで浅薄、菲才、未熟な人間だ。もっと素晴らしい人生があったのではないだろうか。そんな後悔が込み上げてくるが、臭い物に蓋をするをするように、今までも非生産的な人生を忘れるように、俺はエグレのおっぱいを注視する。

 ああ、おっぱいは素晴らしい。嫌なこと、苦しいこと、悲しいこと、すべてを忘れさせてくれる。脳内はおっぱいだけになる。ああ、おっぱい。


 いずれにせよ。ろくなアドバイスはできないんだ。せめて、どんな内容であれ、親身に共感してあげよう。なんだか、娘のご機嫌を取る父親の様な気持ちだ。


「――で、悩みというのは何かな?」


 エグレは逡巡する。相談を打ち明けることに躊躇しているのだろう。確かにかつて共に旅をした仲間であっても十年近く会っていなければかつての様な親密な関係は若干、いやかなり薄らいでいる。

 今の俺たちの関係は知人以上、友人未満といったところだろう。


「実は、この前話した通りエルフって純潔と純血を守る種族じゃない。わたしもかつて種族の長だった父の娘として育てられて、誰よりもエルフの文化、教えを守っていきたいの」


「それは素晴らしい心掛けじゃないか」


 その気持ちに嘘はない。だが、他の者が遊郭で勤しみ、純潔も純血も守っていない事には然して関心を抱いていないことに、なんだかダブルスタンダードだなとも思う。まあ、紹介してくれるのなら行くけどね。


「……でも、かつての魔族からの迫害によってエルフは各国に逃げて種族間の繋がりは失った。魔王を討伐した後、王国に逃げ延びていたエルフたちをわたしは保護して、相互補助ができるように集落を作ったの。でも、かつての戦争で多くの男が戦場で命を落とした影響でエルフは今、女ばかりなの」


「それは、まあ、いろいろと大変そうだな」


「実は今回の帝国への遠征もエルフが集団で暮らしているエルフ街があるって噂で聞いて真相を確かめに行くの。要するにエルフの男が全然、王国にいないの」


「それは、まあ、大変そうだな。色々と(取り合いになって)」


「つまり、わたしの番いつがになってくれるエルフがいないの」


「要するに、相談と言うのは……」


「そろそろ繁殖して子孫を残していかないといけない。わたしの旦那になれるエルフを探しに協力してくれない?」


 結婚も出産も本来であれば愛し愛される者同士が、結ばれることは喜ばしいことであり、祝福すべき事象であろう。そんな二人に実りがあるのなら、なおも人々はふたりを、いや、三人の幸せに歓喜することだろう。


 だが、エグレの言葉は随分と義務的で使命感に苛まれている。

 そう、それは子孫を残す事だけが目的であり、それ以上もそれ以下も望んでいないようだ。エルフと人間では価値観が違うことは当然であろう。だが、エグレの言う結婚観や出産観は野性的であり、極めて文化レベルの低い主張であると感じるのは俺だけだろうか?


 そして、なによりも相談する相手を間違えている。俺には無理だ。


「どうして、俺に? 他に頼れる人がいないのか?」


「まあ、何て言うか、その、実はあなたが働いていないって聞いたから……」


(つまり、俺のことを暇だと思っているのだろう)


「探すって言っても世界中を探し回る必要があるだろ? どこにいるかも分からないのなら探しようがないというか、砂漠で金貨を探すようなものではないか?」


「あなたって昔は誰彼構わずに矢鱈目ったら困った人を助けていた正義感の塊みたいな人間だったのに……どうしたの?」


 どうしたと問われてもどうもしていない。俺は端からこの程度の男である。


「――まあ、検討しておくよ」


 お願いを承諾したくない時は有耶無耶にする。これが大人のやり方だよ、お嬢さん!

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