キャビネット4 「ぼくと蝶々」

 キャビネット4 「ぼくと蝶々」


 とても静かな夜、ぼくは気がついたら、誰もいない、どこか知らない場所にいた。


 行く先には、ぼんやりとした街灯だけがどこまでも並んでいる。ふと街灯の下で立ち止まると、三羽の蝶々がひらひらと舞っていた。


 ぼくの目の前で、一羽の蝶々がぽとりと落ちた。


 瞬く間、もう一羽の蝶々は姿を消した。


 最後に残った蝶々が言った。


「私は、〝未来〟……迷子なんです。〝現在〟は何も答えてくれないし、〝過去〟はどこかに行っちゃった……貴方、私の行く先を、教えてくれませんか?」


 ぼくは目の前の〝未来〟が、蝶なのか、蛾なのかも判らなかった。


 辺りは、墨を流したように暗くなった。


 ——ぼく達、迷子は、今もそこにいる。

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