第10話 ペガサスに乗って逃亡
「それで、何をしに着た?」
王子も私の隣に座り、改めて話をすることにした。
「その様子だと、この子を紹介しに来たわけじゃないんだろ?」
先程のからかう様子とは違って魔女さんは真剣な顔をしている。
「さすがですね、師匠。実は……」
王子がこれまでの経緯を話し始めた。
婚約者として私がこの国に着たこと。そしてそれを王様に反対されていること。挙げ句の果てに、暗殺という手段まで取ろうとしていること。
改めて人の口から聞くと、妙なことになっているとは思う。
「と、まぁ、こんな経緯でここまで着たわけです」
「なるほどな……」
一通り話を聞いた魔女さんはちらっと私の方を見る。
「つまり、このまま二人で国を出て駆け落ちでもするつもりということか」
駆け落ち!そう言われてみればそういう状況かもしれない!
いや、でも今の私と王子は別にそういう関係とかじゃなくて……
心の中で言い訳をしていると。
「まぁ、そう言っても間違いじゃないかも?それでどう?」
否定しない王子にびっくりしている間にも二人の会話は続いていく。
「なるほどな、つまり、私の助けが必要だと」
「そういうことです。師匠なら国外に出るための方法だってあるでしょう?今のところ追手の気配はないですが、いつ来るかわからないですからね。早く国外脱出したいわけですよ」
王子の言葉に、魔女さんは悩む様子を見せる。
「うーむ、あるにはあるが……、あの方法は結構たいへんなんだがなぁ」
「頼みますよ。可愛い弟子を助けると思って」
「うーむ……」
王子が頼むけど、魔女さんは悩んでいる。
「二人を助けたとしても、私にメリットがなぁないんだよなぁ」
「それはそうですが……」
確かに、今の私達に差し出せるものは何もない。
やっぱり駄目だろうか、急にやってきて助けてくれなんてやっぱり虫が良すぎたかな?そう思ったけど。
「まぁ、冗談はこのくらいにしておこうか」
魔女さんが、急に悩むのをやめた。
「可愛い弟子の頼みだ、そのくらいの頼みは聞いてやるよ」
「さっすが、師匠。頼りになりますね」
王子もわかっていたように笑っている。あれ?ひょっとして今のやりとりもからかってた感じ?
「お前ら馬車には乗ってきただろうな?」
「はい」
「だったら、そいつに魔法をかけてやろう。そいつに乗っていけばすぐに逃げ出せるはずだ」
馬車を使うの?足が早くなったりする魔法とかかな?そんなのがあるのかは知らないけれど。
「しかし、まぁ、ひとまず明日にしよう。今日はもうなかなかいい時間だからな」
言われて外を見ればかなり暗くなってきている。元々深い森の中で光もわずかしか差さないばしょだけど、今は真っ暗だ。
「今日は泊まっていけ、なに、部屋ならあるから心配はいらない」
「ありがとうございます師匠」
「なんの、可愛い弟子の頼みだ。まぁ、礼を感じるなら夕食でも作ってくれればいい」
「はいはい。わかりましたよ」
やり取りを見守っていると王子がこちらを向く。
「というわけで、今日はここでお世話になることになったから」
事後報告だった。いや、まぁ、流れはずっと聞いていたから断るつもりとかはないけれど。
「わかりました」
「うん。それじゃあ、ぼくは夕飯を作ってくるから待っててね」
そう言って、王子はキッチンの方へ向かっていった。
「あいつの作る飯はうまいぞ」
魔女さんは嬉しそうにしている。
掃除もお茶も入れられる上に、料理までできるなんて、やっぱり王子は凄い人なんだなぁ。
王子の作ってくれたご飯を食べたあと、私たちは休んだ。
ご飯はとても美味しかったです。あと、部屋は当然別々でした。外から見るとそんなに部屋の数多くないように見えたけど、思ったよりも家の中は広かった。
その事を朝王子に話すと、
「魔法で空間を広げているんだよ」
とのこと。やっぱり魔法って凄い。
と、まぁ、そんなやりとりもしつつ、そろそろ出発しようということで、魔女さんの家を出た。
私達に続いて魔女さんも外に出てきた。
「よし、馬は……うむ、なかなかいい馬だな」
「でしょう?優秀な馬を用意してもらいましたから」
乗ってきた馬車の元に向かった私達、魔女さんが馬を撫でながら満足そうだ。
「これだったらこの魔法にも耐えられるだろう」
そう言って、魔女さんが馬に触れたまま、なにやらブツブツとつぶやき始めた。
これは噂に聞く魔法の詠唱だろうか?強い魔法を使う時は、それだけ詠唱が必要だって聞いたことがある。
王子が使っていた魔法は魔法名だけのものだったけど、それよりも強い魔法なことは間違いない。
「どちらかというと儀式に近いかな?師匠の得意分野だよ」
王子が捕捉してくれた。まぁ、よくわからないけど、過ごそうなことは伝わってきた。
魔女さんが詠唱を唱えていると、徐々に馬に変化が現れた。
馬の背中の辺りが光っている。光はそのまま形をつくっていく。
あの形は翼だろうか?
光が収まると、馬には、立派な翼が生えていた。その見た目はまさにペガサスだ。
魔女さんが詠唱をやめて目を開く。満足そうに、馬を見て頷いている。
「うむ、いい出来だ」
「さすがですね師匠。流石に僕じゃこんなことまでできませんから」
「これが一番の取り柄だからな、これだけはお前にも負けんよ」
「勝とうとすら思いませんて」
二人のやり取りを呆然に呆然としてしまう。
普通の馬をペガサスにするなんてとんでもないことだと思うんだけど!
「さぁ、もういいだろう。さっさと、こいつに乗っていけ。時間は有限だぞ」
魔女さんが、馬から離れて私達の背中を押す。
「ほら、キミも乗りな……と、そうだちょっと待て」
私も促されて馬の方に行こうと思ったら、魔女さんに呼び止められてしまった。
「これを渡しておく」
「これは?指輪ですか?」
魔女さんから渡されたのは指輪だった。特に装飾もない単なる銀の指輪だ。
「お守りみたいなものだ。私の念を込めていたから効くぞ」
魔女さんの念……確かに効きそう。
「ありがとうございます」
「ああ、なるべくつけておくといい。さぁ、乗りな」
再度、促されて馬車のそばに行く。先に馬に乗った王子が引き上げてくれた。
「師匠。色々とお世話になりました」
馬の上から王子が魔女さんにお礼を言う。あ、私も言わないと!
「あ、あのありがとうございます!」
「なに、気にすることはない。機会があったらまた来い」
魔女さんが、ひらひらと手を振って家の中に戻っていく。
その様子を見て、王子は笑っている。
「ふふっ、それじゃあ出発するよ」
捕まっててと言われたので、王子にしがみつく。
王子が紐を引っ張った瞬間。馬は浮き上がった。
「わっ!」
びっくりして、王子を掴む手が強くなってしまう。そんな私の頭を王子が撫でてくれた。
「自由都市までこれに乗っていくからね」
「はい!」
ふと、下を見ると、ずっと下の方で魔女さんがこちらを見ていた。
ぺこりと頭を下げておく。見えないとは思うけど、気持ちの問題だ。
「よし!空の旅の始まりだよ!」
王子がまた紐を引っ張ると、馬は翼をはためかせて前進を始めた。
こうして、私と王子はペガサスに乗って隣国へと向かった。
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