第9話 からかい上手の魔女さん
王子が一人掃除をしている中、私は魔女さんとテーブルについていた。
「……」
凄く気まずい。えっと、なにか話した方がいいのかな?いや、でも何を?
「そういえば……」
「は、はい!」
迷っていると、先に魔女さんが先に話しかけてきた。
「キミ、名前は何て言うんだ?」
「あ、私は、ローズって言います」
「うん?なんか聞いたことがある気がするな」
私の名前を聞いて魔女さんは首を捻っている。
「どこの出身なんだい?」
「……隣の国になります。ここから東の」
私の国、もう帰れないけど……
「東の……、ひょっとしてキミはあの国の姫か……?」
「姫……ではないと思いますけど、一応公爵の娘になります」
「それは、一般的には姫で合っていると思うが?」
「そうですか?……そうかもしれませんね」
「そうか、キミがあの……」
魔女さんの私を見る目が、変わった。どこか可哀想な人を見るような哀れみの視線に見える。
なんとなく居心地が悪い。
ひょっとして私の話ってこんなところまで伝わっているのかな?聞いてみたいけど……
「いや、悪かったな。ちょっと気になることがあっただけだ」
私が居心地悪そうにしているとわかったのか、魔女さんは目を反らした。
「それよりも、あいつがまさか女を連れてくるとは思わなかったぞ」
魔女さんの視線の先には王子が一人後片付けをしていた。
布で地面を拭いたり、倒れた物を直したりと凄く手慣れているように見える。
「あいつは、子供の頃から豆なやつでな。私がほら、こんな感じだろ?ああやって片付けとかお願いすることが多かったんだ」
そういう魔女さんはどこか優しげな表情をしている。
「王子は子供の頃から、ここに通っていたんですか?」
気になっていたので聞いてみることにした。
「ああ、もう何年前のことだったか、突然一人でここまでやってきてな。いきなり、魔法を教えて欲しいなんて言い出したんだ」
「一人でここまで来たんですか!」
「ああ。それも、今みたいに立派な男じゃない、まだ子供だった頃だ。流石の私もびっくりしたぞ」
子供がこの危険な森に入ってくる。そんなの想像できない。ましてや、それが王子だなんて。
「流石にわざわざ来た子供を追い返すほど私も鬼じゃないのでな。稽古をつけてやることにしたんだが、あいつには相当なセンスがあってな。メキメキ上達していったよ」
「そういえば、ここに来る途中にも魔物と遭遇しましたが、すぐに撃退していました」
「だろうな。この森の魔物程度だったらあいつの敵じゃないだろう」
こともなげに言う魔女さん。それがどのくらい凄いことなのかは私にはわからないけど、あの強さなら国の中でも相当高い方なんじゃないかな?そもそも、魔法が使えるというだけで凄いんだけど。
「まぁ、でもな。あいつは確かに優秀ではあるが、それでもやっぱり人の子だからな」
うん?なんだろう?まるで自分が人の子じゃないような言い方だけど。
「抜けているところもあるから、気をつけてやってくれよ」
頼んだぞ、と私にお願いしてくる魔女さん。
「わ、私に何ができるかはわかりませんが……」
「なに、難しいことはない、ただそばにいて支えてやってくれればいい。きっとそれがあいつの望みでもあるだろう」
「ドルン様の望み……?」
「ああ、なにせあいつは……」
魔女さんがいいかけたところで、
「うん?何?僕の話?」
王子が掃除を終えてこちらにやってきた。
えっ?もう終わったの?
「おおっ!早いな!助かったぞ!」
「まぁ、慣れていますし、それに魔法も使いましたから」
「それでも私にはできんからな」
「師匠、いいかげん掃除くらいできるようになってくださいよ……」
魔女さんとお話する王子だったが、こちらの方を見て話しかけてきた。
「ローズ、師匠からなにかされなかった?」
「へっ?なにか?」
「おいおい!失礼なやつだな!」
抗議する魔女さんだったけど、王子はどこ吹く風という感じだ。
「たまに、変なことや思わせぶりなこと言ってからかうでしょう。それで何度騙されたことか……」
「それは、お前がからかいがいがあるからだぞ」
「はぁ、そんなわけで、なにか言われたとしてもあんまり気にしないでいいからね」
なるほど?さっきの私の話もからかってたりしたのかな?
「ふん、まぁ、いい。お前がここに着たってことはなにか用事でもあるんだろう?話はきいてやるからお茶でも入れてこい」
「はいはい」
魔女さんに促されるままにテーブルから離れていく王子は振り返ると。
「ローズ、紅茶にするけど大丈夫かな?」
「あ、はい」
「おい!私には緑茶だぞ!」
「わかってますよ」
それだけ言って、王子は奥に消えていく。あっちにキッチンでもあるんだろうか?
なんともなしにそちらの方を見ていると。
「あいつの嫁は大変だぞ?なにせ、あいつ自身が家事とか完璧だからな」
「嫁!?」
「なんだ違うのか?てっきり既にそういう関係だと思ってたんだが」
「い、いえ違いますよ!私は……」
魔女さんになにか返そうと思ったけど、言葉が詰まってしまった。
私は王子の何なんだろう?わからない。
「ともかく、嫁とかじゃないですから!」
真っ赤になって否定する私を魔女さんは笑いながら見ていた。
ひょっとして、またからかわれた!
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