第8話 魔女さんのお宅訪問
森の中には似つかわしくないレンガ積みの家。
あれが魔女の住む家……、これから魔女に会うって考えるとドキドキしてしまうよ。
私のそんな様子とは裏腹に、王子は家の入口をノックする。しかし、
「出てこないなぁ」
中からは返事もないし、誰かが出てくる気配はない。留守だろうか?
「うーん、いることは間違いないと思うんだけどなぁ。ほら、あれ」
王子に指を差された先を見ると、煙突が伸びている。さらにそこから黒い煙がもくもくと上がっている。
確かに、誰かいそうだ。
「この感じだと、多分、作業に集中しちゃってると思うんだよ」
王子が再びノックをするけど、やっぱり反応はない。
どうするのかと、様子を見ていると王子は何気なくドアノブをねじる。そのままドアを開けた。
えっ!?開いてるの!
「まぁ、結界があるからね」
そう言って、王子は中に入って私を手招きする。
いいのかな?そう思いながらも私も家の中に入った。
家の中はなんの変哲もない……ことはなかった。
中に入ってすぐのところに人がいた。
「ひひひひっ」
えぇ……、なんか女の人が笑いながら大鍋かき混ぜてるんだけど?この人が噂の魔女さんかな?鍋からは変な色の煙が上がっているし。えっ?これ良い魔女なの?
不安になって王子を見ると、私の視線に気がついたのか苦笑いをする。
「気持ちはわかるけど、これでも凄い人だから」
「……本当ですか?」
魔女さんは私達が後ろで会話をしているのに振り返ることすらしない。本当に気がついていないみたいだ。
そのうち、王子がため息をついて、声をかけた。
「師匠!……師匠!」
何度か声をかけて、ようやく魔女さんが反応した。振り返って王子の顔を確認すると、しかめっ面だったのが笑顔に変わった。
「おおおおっ!ドルンじゃないか!久しぶりだな!」
魔女さんは鍋をかき混ぜる棒を放り投げて、こちらに寄ってくる。そのまま、勢いよく王子の肩をたたき始めた。
「ほんとに久しぶりだな。10年くらいか?」
「そんなに経ってないですよ師匠、せいぜい2,3ヶ月くらいかと」
「そんなことはどうでもいい!久しぶりだという思うから久しぶりなんだ!」
なんだろう、会話が全然成立していないような?それでも、二人が仲良さそうなことはわかった。
と、魔女さんが私の存在に気がついた。
「おっ?そちらはどなたかな?」
「あ、わ、私は……」
「そうか、わかったぞ!ドルンの嫁だな!そうかそうか、ついにドルンも結婚か!」
「んなっ!?」
け、結婚!?いや、たしかに私たちは婚約者同士!
うん?婚約者、だった!?けどまだ結婚はしてないよ!
「そう恥ずかしがることはないぞ。ドルンはちょっと腹黒だが、悪いやつでは……」
「師匠!」
王子が魔女の言葉を遮った。魔女さんも王子の方を振り返る。
「なんだ?今お前のアピールをだなぁ」
「そんなことはいいですから!それよりも!」
王子が指を差す先にはさっきまで魔女さんがかき混ぜていた大鍋。そしてそこからはさっきよりも大量の真っ黒いモクモクが湧き出ている。
あれ?やばそう?
魔女さんもそれに気がつくと、すぐさま鍋に飛びついた。放り投げた棒を再び持って混ぜる。しかし、一向に自体は解決しない。それどころか、湧き出る煙は増えている気がする。
「いかんっ!伏せろっ!」
魔女さんが叫びその瞬間、私は王子に押し倒された。
「きゃっ!!」
思わず、声を上げたその瞬間。
ドッカーン!!!
王子の背中越しから凄い音をが聞こえてきた。
爆発!?何!何がどうなったの!
王子に押し倒されたまま、私は混乱するしかなかった。
しばらくして、
「大丈夫かい?」
王子が起き上がり、私に手を差し伸べてきた。
「は、はい……」
その手をつかんで、私も立ち上がる。
「うわぁぁ……」
思わず声が出てしまった。部屋の中が、ぐちゃぐちゃになっていた。大鍋なんか弾け飛んだみたいに転がっている。
王子も私の視線を追って、苦笑いをしている。
「師匠。大丈夫ですか?」
魔女さんも倒れていている。えっ?大丈夫なの?
そう思ったんだけど、魔女さんは何事もなかったかのように立ち上がった。
「いやぁ、失敗失敗。つい、嬉しくて目を離してしまったよ」
「はぁ……、急に来た僕たちも悪いですが、そんな危ない作業なら手を離さないでくださいよ」
「仕方ないだろう、久しぶりの弟子で嬉しくなったんだから」
王子の苦言もなんのその、魔女さんはカラカラと笑っている。
「しかし、良かったよ片付けを頼める弟子がいるところで失敗して」
うん?
「はぁ……師匠片付け苦手ですからね」
えっ?王子が片付けをするの?王子だよ?
驚いていると、王子は腕まくりをしている。そのまま、爆風によって飛ばされているテーブルと椅子を元の位置に戻した。
私も、手伝いをした方がいいのかな?そう思っていると、我先にと椅子に腰掛けた魔女さんが私を手招きする。
「お前もこっちにこい。大丈夫、こいつに任せておくのが一番だ」
魔女さんがもう一つの椅子を差し出して、私を手招きする。
えっ?いいの?
王子の方を見ると、
「ローズは座ってていいからね。片付けは僕に任せて」
そう言われた。
「いいんですか?」
「うん、大丈夫。慣れているから」
慣れてるんだ……
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