第3話 王子と抜け道を抜けて
「ほら、ここ入って」
「は、はい……」
えっと、なんでだろう。
もう終わりかなぁなんて思ってたら、王子に手を引かれてます。
繋いだ手が暖かいです。
連れてこられたのは、私が軟禁されていた場所の反対側の塔だ。
さっき王子が指さしてた建物になる。
「えっと、確かこのあたりに……」
私の手を握ったまま、もう片方の手で王子がなにやら階段の付近を弄っている。
何をしているんだろう?
「……おっ、これだ」
ガチャっと音がしたと思ったら、王子がなにやら引っ張る。
壁だと思ったそこに通路が現れた。
「……抜け道、ですか?」
「そう、表から行くと止められちゃうからね」
そっか、私は降りることだけ考えてそこからどうするかなんて全然考えてなかった。
「この抜け道は僕しか知らないから安全に逃げられるよ」
さぁ、行こうという王子に相変わらず手を引かれたまま抜け道に入る。
入った扉は王子が閉じた。
中は真っ暗だ。
王子の握る手がなかったら怖くて進めなかったかもしれない。
「もうちょっとだからね」
そんな王子の言葉と暖かさを頼りに足を進めていく。
どのくらい歩いたか、ドキドキで時間が全然わからないけど、遠くに明りのようなものが見えた。
それは、かすかな、上から漏れる光だった。
「ごめん、ちょっと手を離すよ」
「えっ、……はい」
離れていく暖かさと共に、寂しさが襲ってきた。
「ごめんね、僕が先に上がるから、その後上がってきてね」
そう言い残すと、王子は梯子を登っていった。
そんなに高くないらしく、王子はすぐに登りきり、天井を押し上げるように開けた。
先程よりも大きな光が差し込んできた。ちょっと目が眩しい。
そのまま、天井に空いた穴に入っていった王子は、すぐにまた私の方に顔を出した。
「大丈夫だよ、上っておいで」
覗き込む王子を目指して、私は梯子に手をかける。
梯子なんて上るのは子供の時以来だ。ちょっと緊張してしまう。
それでも、覗き込む王子を目指して上る。
「手を貸して」
王子が手を伸ばしてくる。
普通に上がりきるだけでいけるだろうけど、なんだろう。
捕まらなきゃいけない気がした。
無意識にあの暖かさを求めていたんだと思う。
上がりきった先は狭い部屋だった。
明りだと思っていたそれは、窓から入ってくる月明かりだった。
「あっ、ちょっと明りつけるね」
暗い部屋で王子が魔道具に手を伸ばす、光が部屋に灯された。
部屋の中は整理もほとんどされていない、モノがいっぱいの部屋だった。
雑然としていて汚い印象だけど、埃は被っていない。
でも、明りを持つ王子を見ると凄く不釣りに見える。
「……ここはどこですか?」
誰ともなく聞く。答えてくれる相手は王子しかいないけど。
「ここかい?ここは、王都の北にあるスラム街の一軒家さ」
スラム街!危険なところだ!
そんなところにいて大丈夫なんだろうか。
「あ、安心して。スラム街って言っても、貧民街ってよりは裏町みたいな感じだから」
……全く安心できない。
「それに僕も知り合いがいるからね、流石に僕や連れを襲うようなやつはいないよ」
裏町に王子の知り合い?
「さっ、疲れただろう。流石に、今日はここで休むといい。あっちの部屋にベッドがあるからそこで寝ていいよ」
そう言って、王子は、私に背を向けた。
「それじゃあ、また明日の朝に迎えに来るからね」
王子が部屋にある扉に向かっていく。
「あ、あの!」
どこかへ行こうとする王子を無意識のうちに呼び止めようとしていた。
「あ、それから夜の間はここから出ない方がいいよ」
えっ?
「僕と一緒なら大丈夫だけど、女の人一人だとちょっかいくらいはかけられるかもしれないからね」
そんな言葉を残して王子は部屋から出ていってしまった。
一人になった途端、なんだか急に寒くなってきた気がする。
「……やっぱり危険なんじゃない」
何も安心できない、キョロキョロと周りを見回してしまう。
ワオーンという犬の鳴き声が急に聞こえてビクッとしてしまった。
でも、流石にここを出ていくわけには行かない。
「そういえば、ベッドがあるって言ってたっけ」
王子が出て行った方とは逆の扉を開けて隣の部屋に入った。
ちょっとした個室。ベッドが一つとタンスが一つ。
隣の部屋とは違ってちゃんと管理されている感じがする。
軽く触ってみると、埃一つつかなかった。
そういえば、王子は抜け道って言ってたっけ?
ひょっとして王族が逃げるための道と潜伏するための部屋だったりするのかな?
きっとそうだと思う。それだったら管理されているのも頷ける。
あれ?でも王子は自分しか知らないって言ってなかったっけ?
それだと、王子のお父様、王様も知ってるとは思うんだけど、わざわざ言わなかっただけかな?
「……はぁ」
ベッドを触ってみる、ふかふかだ。
今日はとても疲れた。飛び込みたい欲にかられてしまう。
けど、本当にいいんだろうか?いいよね?いいということにしよう。
私はそのままの姿でベッドに身を投げ出す。
触ってわかっていたけど、かなり寝心地がいい。
これだとすぐに寝てしまいそうだ。
王子は言っていた、ここはスラム街だと、そこで一人寝るなんて危険だ。王子がなんと言おうと危険であることは変わりない。
「だめ、寝たら……でも……無理……」
疲労に耐えられなかった私のまぶたはすぐに落ちてしまった。
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