第1話 嫁いで来たら軟禁されました
思い返してみれば、最初から妙な話だったように思う。
話したことどころか、会ったことすらない隣国の王子が私との結婚を望んでいるとのこと。
幸いにして、私の立場は公爵の令嬢だから立場的にはギリギリ釣り合っていると言える。
そもそも、私の国は弱国で、隣国とは今でこそ仲良くしているけれど、歴史的には隣国の属国だった時代もあったりして、今でも立場的には横並びにはいない。
まぁ、何を言いたいのかと言うと、
「私に選択肢はない」
そんなことはわかりきっていた。
嫁ぎに行けと言われたら行くしかない。
俗にいうところの政略結婚というやつだ。
まぁ、これでも貴族として育ってきたし、政略の道具として使われるのも、まぁ、しょうがない。
例え、相手の情報が一切なかったとしても。私には選択肢がない。
……王子(脂ぎったおじさん)でないことを祈ることくらいは許されるだろう
なんて、悲壮な覚悟と僅かな祈りを携えて一人隣国に嫁いできたのは、もう1ヶ月も前の話になる。
「暇ね……」
あの覚悟はどこへやら。
私は完全に暇をしていた。
一人で隣国に着いて、王様に挨拶するや否や、すぐさま今いる部屋に案内された。
そして、王子が挨拶に来るまでこの部屋から出ないようにと言われ……
放置されているわけだ。
食事を届けてくれる侍女はいるけど、
「王子はまだですか?」
と聞こうが、
「王子は只今準備中です。今しばらくお待ち下さい」
としか答えてくれない。
ちなみに、
「部屋から出てよいですか?」
と聞いても、
「王子は只今準備中です。今しばらくお待ち下さい」
としか答えてくれない。
なんだろう、人形を相手にしている気分だ。
つまるところ、私は、
隣国に嫁ぎに着て、相手にも会わせてもらえず、軟禁されているわけだ。
最初の頃、軟禁されたと気が付いたときは、それはもう慌てたものだった。
軟禁!?なんで!?
正直、理由が全くわからないのだ。
皆目検討もつかないとはまさにこのこと。
私一人を軟禁してなんの意味があるだろうか?
意味……ないなぁ。
祖国への見せしめ?にしては軟禁されている以外は割りと自由だし。
そもそも、祖国は弱国であってこちらの国からすれば吹いて飛ぶようなものだ。
それに、私自身も祖国の中でさほど重要な立ち位置ではなかった。むしろ邪魔者扱いされていたと言ってもいい。
結婚という話が立ち上がったときも、
「えっ?姫じゃなくて公爵の娘?なにかの間違いではないですか?」
と王が混乱したという。
そこから即お嫁に出されたのだから、私の国での立場がわかるくらいだ。
そんな私を一人ここに軟禁しても祖国はまるで気にしないだろう。
数年後には、ああ、そんな娘がいたなぁ、くらいですまされそう。
そんな感じで意味もわからず、軟禁されること1月弱。
「はぁ……」
私はもう考えるのやめていた。
いくら考えてもわからないものはわからない。
とりあえず、食事は与えられているし、最低限の娯楽は与えられている。
その最低限の娯楽、小説本をベッドに投げる。
行儀は良くないけれど、誰かが見ているわけじゃないしね。
そのまま椅子から立ち上がって、窓の外を覗く。
窓の外は、中庭になっている。
2階のこの部屋からはあまり遠くは見れないけれど、なかなかに綺麗な中庭だと思う。
まぁ、その中を歩いたことはないわけだけど。
流石にそろそろ部屋に引きこもるのも飽きてきちゃったなぁ。
身体もあまり動かしていないから鈍っていそう。
一人でダンスの練習でもしようかしら。
窓の外を見ながらとりとめもなく考えていると、
「~~~~~~~~~~~~」
なにやら声が聞こえた気がした。
どこからだろう?
外からであることは確かだけれど、上かな?
なんとか聞こえないかと耳を済ませてみる。
そうした意味は特にない。単に暇なだけだったのに。
「~~~~~あの女性~~王子~~~~」
今、王子って言った?
王子って私のお相手の王子かしら?
「王~~結婚~~~~反対~~~~」
「~~~~派閥~~~~~~暗殺~~」
言葉が聞こえた瞬間、慌てて窓から顔を引っ込めた。
そして、開いていた窓をなるべく音がならないように閉じる。
窓を背によりかかり、先程聞こえた言葉を反芻する。
暗殺?暗殺って言ってたよね?
それに聞こえてきたのは、王子というキーワードと結婚、反対という言葉。
それが意味するところは……
…………
「ひょっとして私……結婚反対された挙げ句に暗殺される?」
なにかの間違いだと、そう思いたいけれど。
正直、今の状況だとありえそうと思えてしまう。
つまり、
・私と王子の結婚は何者かに反対されている
・王って言葉があったからひょっとしたらこっちの王様から反対されている(のかも)
・そしてどこかの派閥が邪魔な私のことを暗殺しようとしている
こう考えると、いつまで経っても王子と会えないのも納得が行く。
皆から反対されているんじゃ会えるわけないよね。
世話係の侍女が何も話してくれないのも、そもそも結婚に反対だからということ。
私の今置かれている状況と先程の推理が一致している。
その最終結果が、先程の暗殺につながるというわけか。
……
なんだろう、混乱はしている。
自分の命の危機だから当然だ。でも、それ以上に別の感情が湧き上がってきている。
まずは悲しみだ。
政略結婚に嫁いできた相手を、その相手に合わせずに軟禁した挙げ句に暗殺?流石にあんまり過ぎじゃないだろうか?
ちょっと笑ってしまうくらいに不遇の扱いだ。
しかし、これが自分のことなのだから笑えるに笑えない。
ちょっと笑ってしまった後に、感じる虚無感。
どうしてわたしばかりがこんな目に。
大抵の場合、こういう台詞を言うのは、心当たりがある悪役だったりするけれど、生憎と私には理由が皆目検討もつかない。
知らないうちにやらかしていたらわからないけれど、そもそも、出会ってすらいないのだから、やらかしているもなにもないわけだ。
虚無感の後、冷静になった私に浮かび上がってきた最後の感情は、怒りだった。
生まれてこの方、感じたことのないほどの怒り。
向かう相手は、この世界そのものだ。
いいでしょう。
そこまで私のことを不遇の女として扱いたいのならそうしなさい。
だけど、私はそれをそのまま受け入れるなんてことはしてやらない。
とりあえず、今は、
「ここから逃げなきゃ!」
大人しく暗殺なんてされてやらないんだから!
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