第12話 彼岸の花束①
「やっとついたぞ……」
書庫の大扉の前、ロエナは浮かびあがった光る紋様に腕のマギア端末をかざし、認証システムを解除。
マギア端末を足で踏みにじり破壊し、血生臭い暗闇の奥地へと足を踏み入れた――
暗闇を手のひらに浮かす炎球で照らした先は、全ての本が棚に整理整頓されている反面、棚や外壁の一部が黒く変色し、何らかの力によって捻じ曲がっている。
「若気の至りってレベルじゃないね」
思わずため息が漏れ、黒く変色した棚の木片を炎で燃やした。
……しかし木片に変化はなく、耐火魔法がかけられていることを知る。
「まぁ、キレたのが女の子の方じゃなくて良かったな」
そう言いこぼし、ロエナは物色を開始した。
『霧の森には願いを叶える精霊がいる』と言っていたアコナという少女の発言に、『霧の森で魔女を処刑しろ』との不自然な王の命令。
森は片道切符ではないという実態も浮き彫りになってきた。
霧の森に関するデータも全て、マギア端末のデータ上にアーカイブされていて、データを開く鍵となるアイテムが存在することも判明した。
あと少し、手の届きそうな所まで突き止めたのに、
肝心のアイテムとやらが見つからない。
「遅かったか……」
そう呟いた瞬間、背後から魔の手が襲いかかった。
「ホオズキ……‼ なんでお前がここに」
「貴様のアジトでは不覚だったが、今度はそうはいかんぞ赤髪」
不意に首を掴まれ地にひれ伏してしまう。
それでもなんとかホオズキを蹴り飛ばし、
書庫の内部を小虫のように逃げ回った。
「はぁ、はぁ。しつこい男は嫌われるよ‼」
自宅での一件から牢へとぶち込んだ恨みを買っていれば、
無表情で走ってくるのはホラーが過ぎる。
「きゃああああ‼」
背後の本棚から勢いよく大剣が生えてきた。
「出て来い」
「親に物を大事にしろって教わらなかったかバカタレ」
「貴様の目は節穴か。本は無事だ」
「一人とは随分余裕だな。かわいい部下たちはどうした?」
「これ以上、貴重な人員を減らすなとお達しが出ている。おかげで王は大変お怒りだ」
試しに炎で牽制をしてみるも、やはり銃で無効化されてしまった。
その後も、無数の魔法道具類を吹き飛ばし、執拗に追いかけてくるこの気迫……
ずっと無表情で何考えてるのか分からなかった政府の犬としての顔とはまるで違う。
人情など微塵もない、冷酷な人間だと思っていた彼は今――
「あー、やっば――」
「神妙に縄につけ‼ フリージアァァァァァ」
絶賛ブチギレ中である。
「全く大正解だよ…… 魔法使いの記憶を奪っちまうのは」
勉強は大好物だ。時間が許すなら、ここにある数千数万の魔導書類全てを網羅してやりたい。
数十秒のヒマさえ与えてくれるなら、一冊でもいいから不意を突ける新たな魔法が欲しいところ。
持ち合わせの呪文は、変身魔法“
大分こっちもムカついてはいるが、水系魔法は正直才がない。
「シオンの“権威の盾”だっけ。私にもそんな“
そして棚を探り、気になる一冊を手に取ろうとしたその時、背後からの手刀によって強引に眠らされた。
____________
次の日の朝、
「っ⁉」
「起きたか。シオン」
お城の頂上に位置する牢で鎖に繋がれていた私は、ドアの
すぐ隣で密接していたマキの姿はなく、牢の前には肉親の王がただ一人、哀し気に立っていた。
そして王は牢の内側へと侵入、私を鎖に繋いだまま口枷だけを外したのだった。
「手首は痛まぬか」
「マキは何処。ロエナは」
王は服越しに繋がれている手錠を見下ろした。
当然のご配慮に、殺意が湧いた。
「首のそれは青年のものか」
「だったら何」
ロエナから貰った大事な
要らぬ気使いに、殺意は積み上がる。
「まさか魔女と接触したのではなかろうな」
「錠を外してから質疑を問え臆病者‼」
頭突こうとして、空ぶった。
そうやって安全圏から、信頼を失ったペットに噛まれぬよう籠の外から話しかけてる時点で、遠く離れた言葉は決してこちらには届かない。
「お国のため、王家の純血思想のため、母の意志を継ぐ立派な王妃になって、好きでもない誰かを婿に迎えるまで楽しく学校生活しててねって? そんなの嬉しくなんかない。それがせめてもの配慮とでも言うの? どれだけ貧乏でも、ずっと好きな人と一緒に居られる方がよっぽど幸せだよ‼」
絶対王政を振りかざし、小さい頃みたく体罰に訴えれば良いものを、この男は日和ったせいで権威を失っている。
それは、失うものを無くせば何も奪われないことを知ってしまった私が悪かったのだろうか。
王妃でなくてはならない選ばれた者が自分だけであるという立場を利用した私が悪いのだろうか。
「でも王妃にはなるよ。覚悟はできてる」
そうだ。全部自分が悪い。
そして自責の念はこれからも続いていく。
人は、他人の重い話を受け取らない。
全部一人で乗り越える。
それが大人ってものであって――
「錠は外した。ただ、いち親子として約束して欲しい。二度とこのような非行は――」
それでも生まれた頃から、王家に生まれた以上は奴隷も同然。錠は外されも、本当の自由とは言えないような気がして、
マキと初めて出会ったあの時、彼の手を取り、二人で外の世界へと旅立っていたような世界線を妄想してしまった。
「マキは、どこ」
「そんなにあの賊を気に入ったか」
「気に入るも好きも愛してるも何もわかんないよ。マキを返して!!!」
思い切り頬をぶたれた。
「青年は処刑が決定した。二度と、お前が魔法などというあらぬ希望に振り回されぬようにな!!!」
書庫で初めて会った時、マキの手を取っておけばよかった。
そんな後悔が頭を駆け巡る。
「精々、青年の死に思いを馳せることだな」
そして王は再び手錠をかけようと、
こちらへ汚い手を伸ばすのだ。
そうだ。
こんな人は、本当の親ではない。
本当の愛のかけらもない。
そう分かったなら、これは大きな収穫。
あとは確かな怒りと自覚を
右手に込めて放つだけ――
「 ″
私はずっと、
この人のペットだったんだ。って
続く
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