第6話

「遼太郎、ゲームは楽しい?」

夜、実家の手伝いのバイトが終わって、母親が聞いてきた。

「ん〜、やり始めたばかりだから、なんとも言えないけど、早速友達が出来たよ。」

夜食を食べながらそんな話をしている。遼太郎の父親は、現在も料理の下拵えをしていて不在だが、遼太郎は母親とこうして仕事終わりに話すのが好きだった。

「お母さん達はゲームはしないから解らないけど、楽しいなら良いわ。」

「有難う。」

そう話して遼太郎は部屋に戻って勉強をして、眠気が来たので眠った。


翌日、遼太郎は朝6時から起きてメギドラムオンラインを起動した。


昨日ログアウトした場所から、少し歩いて、露店街へと移動する。露店街とは、まだ店を持つことの出来ないプレイヤー達が集まり、露店を開いているエリアの事だ。勿論NPCの店はあるので、そちらに売ることも可能だが、生産系スキルを所持しているプレイヤーは、素材の確保のために他のプレイヤーから素材を買って、それを元に新たな装備や道具を生み出す。その装備や道具の性能は、NPCの店売りの比ではない高性能になったりする。勿論、低性能になることもあるが…遼太郎は現在持っているゴブリンの布や魔石をどうしようか悩んでいた。と、露店街の一角、橋の上に来たときに声がした。

「あれ、木崎君?」

名字で呼ばれてその方向を見ると、大学の…同じ学科の生徒と似た顔の女性がそこにはいた。似た顔というのは…耳が尖っており、髪が赤くなっているから。よく書籍等に登場するエルフそっくりだったから。

「えっと…紺野さん…?」

「そうだよ。あっ、ごめん。このゲームだとアスカって呼んで欲しいな。」

「そうだね。俺も遼太郎って呼んでくれ。」

そう挨拶しながら、遼太郎はアスカの露店を見る。どうやら武器、防具を取り扱っているらしく、服や盾の他に短剣等が並んでいた。

「まさか…徹夜したのか?」

「うん。楽しみにしてたゲームだし、商品作ってたら朝になってた。遼太郎君は?」

「俺はさっきログインしてきたんだ。…そうだ、アスカさん、ゴブリンの布や魔石を買い取れるかな?」

「良いの?ゴブリンの布は1枚5Gだけど?」

「そんなものか…100枚買い取ってくれるか?」

「へ…?」

アイテムボックスから遼太郎はゴブリンの布を取り出し、アスカに見せる。アスカはその数に驚いたが、すぐに500G払ってくれた。そして魔石も売ろうと思ったが、アスカの荷物に入らないと言われた。

「アイテムボックスなんて何処で手に入れたの?」

「最初の職業選択で貰ったんだ。」

「?」

「皆持ってないのか?」

「そりゃそうよ。私だって最大で持てるのは200のアイテムが限界なんだよ?因みに私はデザイナーっていう、装備を作るのに特化した職業だよ。遼太郎君は?」

「オールラウンダー。」

「…聞いたことないね?」

「なんか特別な職業だって説明されたけど。」

「そうなんだ。あっ、フレンド登録しても良い?」

「そうだな、装備を作って貰う時に頼みやすいし。」

お互いフレンド登録し終えた時に、アスカが言う。

「遼太郎君、お願いがあるんだ。出来ればこれからも私の所で売買して欲しいんだ。」

「…?」

「実は生産系スキルは物の売り買い、装備の制作でレベルが上がるんだよ。でも、戦闘能力はそんなに無いから…」

「今のこの商品は?」

「私が作ったんだけど、もうそんなにお金もないし、遼太郎君は値切ったりしなさそうだから、信用できる友達が欲しいんだよ。」

「そういうことか。なら、俺だけじゃなくてあと2人紹介できるけど?」

「本当!?出来ればその人達と連絡とって説明してほしいんだ。私も誠心誠意装備を作るから!」

「解った。2人はログインしてないから、確認してみるよ。」

「有難う!あっ、お礼として、今はこれしかないけど…」

そういうとアスカは店売りの短剣を遼太郎にくれた。

「いいのか?」

「うん、これからもご贔屓に!」

そう話して2人は別れた。遼太郎は取り敢えず次の街へ急ごうと考えず、この街でもう少しレベルとアイテムを稼ごうと思いながら、昨日の串焼き屋で串焼きを買って街の外へ出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る