第5話 接吻
―――――X年前――――
「諸君」
"教授"が講義室一杯に席を埋める候補生に向かって声を張り上げた。
「諸君は選ばれた。人類に対するインシデントの脅威を排除する先兵として、だ。候補生としての課程を修了したのち、君たちの大脳には生成系AIによって作成された複数の
シンは緊張しながら”教授”の居室のドアをノックした。”教授”の姿は毎日目にしているが一対一で話すのは初めてだった。
「入り給え」
中から声がしてシンはドアを開け中に入った。反対側の壁沿いに机に座った”教授”の姿が見えた。
「その、質問があります」
「ああ、わかっている。だが、次のミーティングまで10分しかなくてね。シン、君の質問は10分で答えらえるようなものかね?」
「はい、多分」
「よろしい、どんな質問かな?」
”教授”は笑みを浮かべている。だが、皆が言っているように目が笑っていない。人の心の奥底まで見通すような冷たい目線。
「その、召喚の方法をあんなふうに設定したのはなぜですか?」
”教授”はそっとため息をついてからこういった。
「そのことかね。毎年、必ず誰かがそれを聞きに来る」
今日の講義で初めて、召喚のトリガーの具体的な方法が説明されたのだ。教室に動揺が走った。なんでよりによってこんな方法なのか?
「召喚のトリガーを、唇と唇の接触、つまり君たちがキス、と呼ぶ動作にした理由かね?」
シンは頷いた。
「その理由は単純だ。召喚ができなくなる事態は極力避けたかった。その意味でなんらかの外部デバイスを使う案は却下された。デバイスを無くしたり破壊されたら召喚ができなくなるのは問題外だからな。遠隔操作もその観点から否定された。電波が届かない場所に行く場合もあるからな。だから、キミたちと素体が身一つで実行可能な動作が、それも二人そろって可能な動作が望ましいということになった」
「だが、誤発動は避けたい。特に日に三回が限度の召喚を事故で行ってしまうことは避けたかった。握手や抱擁などは誤発動の危険があり、問題外だ」
「だから、唇と唇の接触が選ばれた。偶然では起きにくく、意図的にしかできず、かつ、素早く実行できる肉体的な接触。それが唇と唇の接触。君たちがキスと呼ぶ行為だ。わかったかね?」
シンは候補生時代のことを思い返していた。その時は”教授”の説明は妥当な気がした。その行為に変な意味を持ってしまう自分のセンスがおかしいと思わされた。だが、違う。そうではなかったのだ。日常的に恋愛感情と無関係に唇同士を接触する動作を行っている相手に恋愛感情を持つのは逆に難しくなるだろう。この行為はメンバーの男子が
いま、目の前にはきまずそうな表情のフレイアがいる。
「フレイア」
「なんでしょう、シン」
「キミは僕のことが好きなのか?」
「答えなくてはいけませんか?シン」
フレイアが俯きながら言った。フレイアが何も答えない、ということ自体が明白は答えだった。そんな可能性は一度も考えたことがなかった。シンにとって
なのに、向こうは、
「誰と誰が、僕にそういう気持ちを持っているんだ?フレイア?」
「私の口からそれを申し上げることはできません、シン」
シンは思った。少なからぬ人数の
「フレイア、それは僕たちの戦闘に支障をきたすのか?」
「はい、多分」
シンは天を仰いだ。なんてこった。シンは
シンは部屋をでた。行先は一か所しかかった。
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