第4話 異変
戻ってきたシンを待っていたのは思いもかけない訃報だった。
レイはあの後
「疲れた・・・」
と一言つぶやくとシンと唇を重ねてシンの大脳の中に帰っていった。いま、シンの隣には代わって召喚されたサクラの
「痛くないことはない。だがそれが私の使命」
サクラはある意味、自分の立場をもっともよく把握している
シンが足を踏み入れると、いつも”教授”が面々を目の前に演説を行っているホールがざわつく人々でいっぱいになっている。
ちょうど、リモートで記録された戦闘ログが再生されているところだった。
『くそ、どうなっている、
すでに映像ログは切れており切れ切れに記録された音声ログだけが流れている。声の主はロビンだった。シンもよく知っているメンバーだ。シンには遠く及ばないにしても平均からはかなり上の技量の持ち主だったし、ロビンの
『だめだ、四回目を敢行する、すまない、スーザン』
ホールを埋め尽くしたメンバーの間に動揺が走った。四回目の召喚を行う、ということは、すでに召喚済みの
”教授”の声が響いた。
「現在、何が起きたのかは調査中だ。だが、すべての
ホールに集合した者の中に声を発するものはなかった。すべての
『くそ、もう、だめだ、みんなやられた残っているのは・・・』
プツリ、と通信の切断音がホールに響き渡った。ホールはしんと静まり返っている。誰一人、言葉を発する者はいなかった。
”教授”の声が響いた。
「これでほぼログはおしまいだ」
誰かが手を挙げて尋ねた。
「ロビンは、ロビンはどうなったのですか?」
「残念ながらインシデントの
再びざわめくホールのメンバーたち。多くの
「最後に意味不明の単語が一言受信された。現在、その意味を解析中だが」
誰かが訪ねる。
「なんという単語ですか?」
”教授”が答えた。その言葉を聞いてシンは頭をかち割られたような衝撃を受けた。
「デザイア、だ」
*
シンはゆっくりとドアを開けて中に入ると後ろ手にドアをしめた。メンバーたる少年たちは、個室をいくつか休憩室として使うことを許されている。ホールでの騒ぎの後、シンはさっそく一部屋を借りだすとサクラを具現させている素体とともにこの部屋に入った。これからやることを他人に見られるわけにはいかない。壁のパネルを操作して部屋の属性をプライベートに変更し、ログを停止した。これでこの部屋でこれから起きることは記録されない。それからサクラに向き合ってこう言った。
「デザイア、出て来いよ。お前は多分、出る順番を選べるんだろう?」
それからそっと唇を重ねる。唇を離した時にそこにいたのはサクラではなかった。ふてぶてしいとしか形容しようのない笑みを浮かべた少女。シンは一瞬でそれがシンの大脳に記録されているはずの六人の
「デザイア、お前なんだな?」
素体が頷いた。
「その通りだ、シン」
シンは極力冷静を装って尋ね返した。
「デザイア、お前は何者なんだ? てっきり”教授”が無断で書き込んだ
デザイアはかぶりを振った。
「それはどうでもよい、どうでもよいことだ、シン」
「いいわけがあるか!」
シンは思わず声を荒げた。ロビンとその
「いや、どうでもいい。どうでもよくないのはロビンに何が起きたか、だ」
シンは黙り込んだ。それからおもむろに言葉をつないだ。
「どういう意味だ?」
「シン、キミたちのシステムには致命的な欠陥がある」
「なんだと?」
「シン、キミは
「どうって、どういう意味だ?」
シンは戸惑った。可憐なフレイア、自由奔放なレイ、寡黙なサクラ、そしておどおどしたカノン。彼女たちは人間と見まごうばかりの
「・・・」
「意味が解らないようだな、シン。”教授”たちは巧妙にキミたちがそのことに気づかないようにしてきた。
そういう感情?どんな感情だ?こいつは何の話をしているんだ?
「だがな、シン。キミたちが
「何?」
シンは聞き返してからハッとした。まさか、そんな。
「キミは本当に全く何も理解していないようだな」
デザイアがため息をつきながらシンの方を眺めた。
「キミは
好意って。シンは一度もその可能性を考えたことが無い自分にショックを受けた。
「好意ってそんな。そんなことがあるわけは」
「あるわけが無いわけがないだろう、シン。現に
嘘だろう、とシンは思った。そんなことって。
「でも、俺はそんなこと聞いて」
「よく考えてみろ、シン。告白できるわけがあるか?告白してどうなる?そもそも、お前は
キスができない、というのは正しくない。ただ、キスした瞬間別の
「よくよく気を付けることだな、シン。ロビンの身に降りかかった災厄は
言い終わるか終わらないかのうちに、デザイアは唇を重ねてきた。
「ちょっと待・・・」
「大丈夫、シン?」
目の前に心配そうにシンをのぞき込む顔が見えた。その打って変わった優しそうな表情でシンはすぐに気づいた。フレイアだ。
「だ、大丈夫だ、なんでもない」
シンは慌ててフレイアに背を向けた。
自分に好意を持っている自我が複数個ある?だったらそれはフレイアかもしれない。そう思ったらもう、まともに顔を見ることさえできなくなってしまった。これがロビンの
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