第20話 大衆食堂サンライス

 このくに数年前すうねんまえまで、王国おうこく統治下とうちか安寧あんねい平和へいわ享受きょうじゅしていた。

 帝国ていこくぐん侵攻しんこうで、それはもろくもくずった。

 帝国は魔王まおう復活ふっかつさせ、魔王配下はいか魔物まものの力をり、圧倒的あっとうてきつよさで王国を征服せいふくした。国には魔物があふれ、秩序ちつじょうしなわれてしまった。

 魔物が見境みさかいなく人間にんげんおそい、人間はとりでみたいな町をつくってを守る、無法むほう世界せかいがここにはある。


   ◇


 あかかみの女にたすけられた美人びじん花屋はなやが、れいって足早あしばやる。

「ねえ! カッコイイ女の人! ちょっといい?」

 アタシは、りつつある人垣ひとがきしのけて、ハスキーボイスの女にこえをかけた。

 アタシはユウカ。まだ十六さい可憐かれんな少女で、両刃りょうば大斧おおおの白銀はくぎんのハーフプレートメイルを愛用あいようする魔物まものハンターだ。ピンクいろ長髪ちょうはつで、女にしてはが高く筋肉質きんにくしつむねがなく、『ピンクハリケーン』の二つ名でばれる。

 こえをかけた相手あいては、いま目のまえ一般人いっぱんじんから帝国ていこく軍人ぐんじんはらった女だ。あか短髪たんぱつの、緑色みどりいろのコートをた、たぶん魔物まものハンターだ。

 三十さい手前てまえくらいだとおもわれる。かざりっがなくて、まゆふと凛々りりしく、真面目まじめそうなかおをしている。

なにようか? しょうじょ……いや、女装じょそうか?」

だれがロング俎板まないたよ!」

 真顔まがおの女におもわずツッコミをれた。

「やはり、少女しょうじょだったか。まよってわるかった」

 真面目まじめ一辺倒いっぺんとう口調くちょうからして、冗談じょうだんとかではなさそうだ。それはそれで失礼しつれいだ。

 アタシは、笑顔えがおで右手をす。

「ま、まあ、にしないで、れてるし。それより、おひるまだなら、おごらせてよ。さっきの軍人ぐんじん横暴おうぼうめにはいりたくてもはいれなくてこまってて、アンタの勇気ゆうきある行動こうどう感謝かんしゃするわ」

きみたすける義務ぎむがあるわけでもなし、なに感謝かんしゃする必要ひつようがある。正義感せいぎかんつよ若者わかものだな」

 女が微笑びしょうして、アタシの握手あくしゅおうじた。

「それは、おたがさまよ」

 雰囲気ふんいきで、この女がつよいのがかる。ギルドのめたランクが分からなくても、かなりの実力者じつりょくしゃだとかんじる。握手あくしゅわして、手の感触かんしょく確信かくしんする。

「アタシは、魔物まものハンターのユウカ。二つ名は『ピンクハリケーン』よ。美味おいしい食堂しょくどうってるから、よかったら一緒いっしょにどう?」

わたしは、エレノアだ。最近さいきんまで北のはしほう魔物まものハンターをしていたから、世情せじょううとくてまない。食事しょくじけんよろこんで同席どうせきさせてもらおう」

 不可解ふかかいなのは、武器ぶき普通ふつうのサイズだということだ。大きくない。きらびやかでもない、地味じみさやはいったけんだ。

 金属きんぞくつかかれたかわが、使つかまれてれている。さやには大小のきずがある。

 中身なかみは、たぶん、普通ふつうのロングソードである。大きくない。魔力付与エンチャントかんじもない。

 実力じつりょくはあっても、ランクはたかくないのだろうか。いやいやいや、実力があれば大きな武器ぶきちたくなるものじゃないのか? それがハンターのさがってやつじゃないのか?

 軍属ぐんぞくから転向てんこうしてきた可能性かのうせいもある。ぐん支給しきゅう装備そうび使つかっていたもと軍人ぐんじんのハンターは、あつかいやすく使つかてやすい廉価品れんかひんこのむ、といたことがある。

 帝国ていこくほろぼされて数年すうねんもと王国おうこく軍人のハンターはたくさんいるにちがいない。このつよさなら騎士きし階級かいきゅうだろう。もと王国騎士きしが、帝国ていこく軍人にレジスタンスの嫌疑けんぎをかけられた一般人いっぱんじんたすける、なんて如何いかにもなシチュエーションだ。

 問題もんだいは、大砦おおとりでちかくの小砦しょうとりでで、帝国ていこく軍人ぐんじんもと王国騎士きし、レジスタンスの単語たんご綺麗きれいならんでしまったことか。東の大砦をおさめる将軍しょうぐんが、レジスタンス討伐とうばつかかげ、大軍たいぐんひきいてたりすると面倒めんどうがする。

「……」

 アタシは、一瞬いっしゅんだけかんがえて、まあどうでもいいか、と結論けつろんした。考えるのは苦手にがてだ。

はや魔物まもの調査ちょうさかいたいところですけれど、あなたのような勇気ゆうきある女性じょせいたたえますためでしたら、さき昼食ちゅうしょくをいただきますのに異論いろんはございませんわ」

 フェトも、エレノアと握手あくしゅわした。

 フェトは、ロリ巨乳きょにゅう魔物まもの研究者けんきゅうしゃである。見た目は女の子で、小柄こがら華奢きゃしゃ普段着ふだんぎの上に白衣はくいて、なが金髪きんぱつ上品じょうひんんで、ほそ銀縁ぎんぶち丸眼鏡まるめがねをかけ、薄化粧うすげしょう小綺麗こぎれいにして、むねが大きい。

「なるほど、こちらは、ユウカ殿どのれのかたか。可愛かわいらしく礼儀れいぎただしい、おじょうさ……ん、だな?」

 エレノアが、ハスキーボイスで、くびかしげつつ微笑びしょうした。フェトのロリ巨乳きょにゅうを見つめて、戸惑とまどっていた。


   ◇


 フェトとエレノアをれて、ってる食堂しょくどうはいった。店名てんめいは『サンライス』、ちょっとふるいレンガづくりの、手頃てごろ大衆たいしゅう食堂だ。

 にぎわっている。やすくてりょうおおくて美味おいしいから、きゃくわかくて体格たいかくのいい男がおおい。魔物まものハンターりつたかい。

 きテーブルにく。四人けの木のまるテーブルである。アタシとフェトとエレノアの三人なので、一席いっせきあまる。

「エレノアは、一人なの? ソロハンター?」

「いいや。少年しょうねんと、いや、いま青年せいねんうべきか、と二人で魔物まものハンターをしていた。ここでは、人をさがしている」

「ふぅん。人捜ひとさがしか」

 余計よけい詮索せんさく無粋ぶすいがする。人には人の事情じじょうがある。

「ご注文ちゅうもんはおまりですか?」

 メイドふく姿すがたのウェイトレスがテーブルにた。このみせ店員てんいん制服せいふくで、人気にんき理由りゆうの一つだ。一番いちばん人気にんきのウェイトレスは、水色みずいろがみ笑顔えがおのカワイイだ。

「えっと、これと、これと、これと、これと、これと」

 木板きいたのメニューを片手かたてに、ゆびさしながら注文ちゅうもんする。定食ていしょくと、にくわせと、肉の単品たんぴん料理りょうり複数ふくすうみ合わせる。デザートは、また食後しょくごに注文しよう。

「フェトも、エレノアもきに注文していいわよ。ここはアタシのおごりだから。あ、でも、アタシのぶんけてあげないわよ?」

「そんなに、お一人でおべになりますおつもりですの!?」

 フェトが、しんじられない、とかおしておどろいた。

成長期せいちょうきなのよ。食べないと成長せいちょうしないのよ」

 アタシは真顔まがお力説りきせつした。

たしかに、成長期だ。成長するといいな」

 エレノアが、アタシのたいらなむねを見ながら微笑びしょうした。


   ◇


「ご注文ちゅうもんしなは、以上いじょうでよろしかったでしょうか?」

「オッケー。ありがと」

 料理りょうりはこんできたと、満面まんめん笑顔えがおでやりりした。

 四人けのまるテーブルに、所狭ところせましと大皿おおざら肉料理にくりょうりならぶ。すみもうわけ程度ていどに、さかな野菜やさいった小皿こざらがある。

「そんな小皿でいいの、フェト? 遠慮えんりょはいらないのよ?」

「小皿ではなくて、普通ふつうさらでしてよ。大食おおぐらいのユウカさんと一緒いっしょにしないでいただけますかしら?」

 大量たいりょう料理りょうりまえに、フェトが、しんじられない、とかおした。

ふぁふぇトロールフォフォーフふぉんふぁよ」

 アタシは口いっぱいににく頬張ほおばりながら、フェトにツッコミをれた。

「まぁ! はしたない! テーブルマナーはおしえてさしあげましたでしょう」

 フェトがアタシにツッコミかえした。

 おしえてもらったテーブルマナーは、わすれた。というか、おぼえられなかった。勉強べんきょう苦手にがてだ。

 むしろ、たったそれだけの食事しょくじで、どうしてそんな巨乳きょにゅうになるのか、りたい。そっちをおしえてしい。

 エレノアが、こちらのやりりを微笑ほほえましげにながめつつ、ボサボサどり野菜やさいのシチューを口にはこぶ。

「これは、なかなか美味うまい」

「でしょ! いろんな小砦しょうとりでまわったけど、ここが一番いちばんだから!」

 アタシは自信じしん満々まんまんした。

「この町にいるあいだは、可能かのう範囲はんいかようのもわるくない」

「それがいいわよ。ここをっちゃうと、ほかみせりょうあじ値段ねだん不満ふまんかんじちゃうのよね」

 唐突とうとつに、とびらはげしいおとひらいた。

 店員てんいんきゃくも、全員ぜんいんが音のほうを見る。男がり口のとびら乱暴らんぼうけた、と見てかる。男は帝国軍ていこくぐんくろいプレートメイルをて、こしにロングソードを帯剣たいけんする。

「おい! ここに、帝国軍の公務こうむ妨害ぼうがいした女がいるはずだ! 大人おとなしく名乗なのろ!」

 男が、恫喝どうかつする口調くちょう宣告せんこくした。

 店内てんない騒然そうぜんとする。おおくが狼狽ろうばいして、漠然ばくぜん犯人はんにんさがすように、キョロキョロと見まわす。

 帝国ていこく軍人ぐんじんだ。とびらけた一人と、まどから見えるみせそとには十人以上いじょうがいるようだ。

かずたよらねばわたしまえにもてんとは、きしにまさ腰抜こしぬぞろいだな。いま帝国ていこくぐんは、小心者しょうしんものしか採用さいようしないのか?」

 エレノアが、あきれたいきをついて、立ちあがった。はたいていておどろくほどの、口のわるさだった。



帝国ていこく征服せいふくされて魔物まもの蔓延はびこくにで女だてらに魔物ハンターやってます

第20話 大衆たいしゅう食堂しょくどうサンライス/END

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