第19話 復讐の青年

 このくに数年前すうねんまえまで、王国おうこく統治下とうちか安寧あんねい平和へいわ享受きょうじゅしていた。

 帝国ていこくぐん侵攻しんこうで、それはもろくもくずった。

 帝国は魔王まおう復活ふっかつさせ、魔王配下はいか魔物まものの力をり、圧倒的あっとうてきつよさで王国を征服せいふくした。国には魔物があふれ、秩序ちつじょうしなわれてしまった。

 魔物が見境みさかいなく人間にんげんおそい、人間はとりでみたいな町をつくってを守る、無法むほう世界せかいがここにはある。


   ◇


「なるほど……ん? ちかくのむら子供こどもか? まずいところを見られたな」

 ハスキーな女のこえこえた。

王国側おうこくがわにバレるとマズい極秘ごくひ作戦さくせんっすからねえ」

 お道化どけるような男のこえこえた。

 少年しょうねんは、恐怖きょうふふるえる。

 少女しょうじょが少年をかばい、まえつ。少女のかたも、少年同様どうよう小刻こきざみにふるえる。

「なっ、なによ、あなたたち!? こんな森の中で何してるのよ!?」

 少女は、少年の幼馴染おさななじみである。世話焼せわやきで、しっかりもので、つよい。

 ここは、少年たちがらすむらの、ちかくの森にある洞穴ほらあなである。いえ一軒いっけんほどのひろさの洞穴に、由来ゆらいすら不詳ふしょうふるほこらがある。

 ほこらは、いわを木のはこかこっただけの、簡素かんそつくりをしている。手入ていれするものもなく、ボロボロで、おそなえも、蝋燭ろうそくの一本もありはしない。

 このほこらには、満月まんげつよるひかる、といううわさがある。たして、満月の今夜こんやくら洞穴ほらあなを祠かられるひかりほのかにらす。光源こうげんなんてないのに、不思議ふしぎ神秘的しんぴてき光景こうけいである。

 そんな洞穴ほらあなに、得体えたいれない、見知みしらぬ大人おとなが二人もはいってきた。魔物まものよるの森をとおって、だ。普通ふつうは、ありない。

「こりゃあ、皇帝こうてい陛下へいかのため、帝国ていこくのため、かしてかえすわけにはいかないっしょ」

 薄緑うすみどり短髪たんぱつ眼帯がんたいの男が、お道化どけるようにわらった。少年のおやよりはわかい、二十代にじゅうだいくらいだろうか。

 男は薄汚うすよごれた軽装けいそうで、りきれたあかいスカーフをいて、野盗やとうみたいな格好かっこうをしている。こしのベルトのショートソードとダガーも、いかにも野盗のこのみそうな武器ぶきである。

「ま、て。まだ子供こどもだ。ころさずとも、ほか手段しゅだんがあるだろう?」

 ハスキーボイスの、あかかみの大人の女が、動揺どうよう気味ぎみに男にこえをかけた。こちらも、二十代くらいだろう。

 女は、緑色みどりいろのコートを羽織はおって、長旅ながたび途中とちゅう旅人たびびとみたいな格好かっこうである。でも、コートにかくれた長剣ちょうけんさやが、すそから先端せんたん金具かなぐのぞかせる。

 少年には、なにきたのかからなかった。きっと少女も、おなじだった。

 少年も少女も、普通ふつうむららす普通の子供こどもだ。満月まんげつよるほこらひかる、とのうわさを二人でたしかめにきただけだ。

「それはまあ、そうっすね。じゃあ、封印ふういん解除かいじょするっす」

 男がちかづいてくる。ほこらかって、祠のまえにいる二人に向かって、あるいてくる。かおは、ニヤニヤとわらっている。

 唐突とうとつに、男がこしのショートソードをいた。りあげ、振りおろした。

「きゃぁっ?!」

「プリシアっ?!」

 男のショートソードが、幼馴染おさななじみの少女、プリシアをった。プリシアがたおれて、洞穴ほらあな地面じめんあかいろひろがった。

「シュッツ将軍しょうぐん! 貴殿きでんなにをっ?!」

わるいな、ガキども。作戦さくせん成功せいこうのためにんでくれ。皇帝こうてい陛下へいかのためなら手段しゅだんえらばない、ってめてるんでなあ」

 男が、お道化どけるようにわらった。

 少年には、なにきたのかからなかった。ただ、たおれてうごかないプリシアを、呆然ぼうぜんと見つめていた。

「うわぁっ?!」

 少年もられた。

 く。激痛げきつうはしる。後方こうほうへとたおれ、地面じめんいたあなへとちる。

 地下ちか水脈すいみゃくつながるあなだと、プリシアがっていた。思考しこううすれ、視界しかいうつろにゆがんだ。ぼんやりとあかるい穴のり口から、だれかがんでくるのが見えたがした。


   ◇


 青年せいねんは目をけた。

「また、あのときのゆめか……」

 真上まうえくもぞらひろがる。いつのにか、ねむってしまったらしい。

 かみ茶色ちゃいろ視界しかい上端うえはしはいる。右手で、目にかかる前髪まえがみきあげる。

 プリシアのかたき日々ひびで、すっかりかみびた。一度いちどは追いめたとおもったのに、ヤツはそこにいすらしなかった。

「シュッツめ、どこにきやがった……」

 青年は歯噛はがみした。無意味むいみだとかっていて、苛立いらだちをおさえられなかった。

 帝国ていこくぐん幼馴染おさななじみのプリシアをころされ、いえむらかれ、すべてをうしなった。

 自身じしんいのちすくわれて、帝国ていこくへの復讐ふくしゅうちかった。つよくなるために、数年すうねん魔物まものハンターとしてごした。

 偶然ぐうぜんにも、ほろんだ王国おうこく王女おうじょ魔物まものからたすけた。色々いろいろあって、レジスタンスにはいることになった。蜂起ほうきし、帝国ていこく反旗はんきひるがえし、シュッツのおさめる北の大砦おおとりでった。

 いよいよめたとおもったが、そこにシュッツはいなかった。こともあろうか北の大砦おおとりでかべあなけて、逃亡とうぼうしたのだ。

 げたシュッツを追って、この町に辿たどいた。

 シュッツは、手段しゅだんえらばない卑怯ひきょうな男だ。

 魔境まきょう帝都ていと周辺しゅうへんにはちかづけない。西の大砦おおとりでおさめるコルトル将軍しょうぐん厳格げんかく軍人ぐんじんだから、めば敵前てきぜん逃亡とうぼう処罰しょばつされかねない。北はレジスタンスの勢力圏せいりょくけんになりつつあるから、消去法しょうきょほうで東の大砦を治めるハーシャ将軍をたよるしかない。

 エレノアの情報じょうほうによるエレノアの推理すいりだ。

 そのさきは、南にげられると候補地こうほちおおくて厄介やっかいだ、とっていた。ここまで見つけられず、ここでも見つけられなければ、東の大砦おおとりでにいることをいのるしかない。

かならず、見つける。プリシアのかたきを、る」

 くためにいきをはき、状況じょうきょうおもす。小砦しょうとりでステンイの、ハンターギルドの建物たてもの屋上おくじょうにいる。大通おおどおりをはさんで正面しょうめんにある、帝国ていこく役所やくしょ見張みはっている。

 役所は、敷地しきちひろ豪邸ごうていだ。たか税金ぜいきん無駄遣むだづかいだ。

 ハンターギルドは対照的たいしょうてきに、万一まんいち魔物まもの襲撃しゅうげきそなえて、高く頑丈がんじょうつくられる。ここまでの危険きけん地帯ちたいとなれば、堅牢けんろうとう倉庫そうこ様相ようそうていする。

「ちゃんと見張みはらないと、エレノアさんにまたおこられるな」

 青年は屋上おくじょうせて、ふちからかおした。役所やくしょ正門せいもんに、帝国ていこく軍人ぐんじんあつまっていた。

 四十人ほどいる。ほぼ全員ぜんいんくろいプレートメイルをて、こしにロングソードを帯剣たいけんする。街中まちなかなにかトラブルでもあったのかもれない。

 かべそとで何かあっても、ここの帝国ていこくぐんうごかない、といた。周辺しゅうへんつよ魔物まものおおく、腰抜こしぬ軍人ぐんじんが百人あつまっても勝負しょうぶにならない、ともいた。情報源じょうほうげんは、ステンイを拠点きょてん活動かつどうするヒゲオヤジハンターだ。

 こういうことは、魔物まものハンターがくわしい。ハンターの情報じょうほうネットワークがたよりになる。

「アイツら、どこにくんだ?」

 プレートメイル四十人がうごした。ざつ隊列たいれつで、ガチャガチャと大通おおどおりのドなかを、がものがお大行進だいこうしんだ。

 はしへとける町の人たちの視線しせんが、さぞつめたいことだろう。尊敬そんけい畏怖いふみちゆずってるわけじゃない。横暴おうぼう集団しゅうだんからまれるのをきらって、忌避きひしてるだけだ。

尾行びこうしてみるか」

 青年はちあがって、こしけん確認かくにんした。あかいマントにかくした。

「まさか、エレノアさん、のわけないよな。でも、あの人、みょう生真面目きまじめ融通ゆうづうかないところあるからなあ」

 青年のこえは、たのしげであかるかった。かわのブーツの靴音くつおとが、軽快けいかいたかかった。



帝国ていこく征服せいふくされて魔物まもの蔓延はびこくにで女だてらに魔物ハンターやってます

第19話 復讐ふくしゅう青年せいねん/END

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