第15話 第一回活動報告

 このくに数年前すうねんまえまで、王国おうこく統治下とうちか安寧あんねい平和へいわ享受きょうじゅしていた。

 帝国ていこくぐん侵攻しんこうで、それはもろくもくずった。

 帝国は魔王まおう復活ふっかつさせ、魔王配下はいか魔物まものの力をり、圧倒的あっとうてきつよさで王国を征服せいふくした。国には魔物があふれ、秩序ちつじょうしなわれてしまった。

 魔物が見境みさかいなく人間にんげんおそい、人間はとりでみたいな町をつくってを守る、無法むほう世界せかいがここにはある。


   ◇


 小砦しょうとりでワーツの自警団じけいだんた。保存食ほぞんしょくあつか食料品店しょくりょうひんてんだ。

「こんちはー」

「らっしゃい。おっ! ピンクハリケーンさん、ひさしぶりだね」

 カウンターにひまそうにすわっていた青年せいねん店主てんしゅが、あかるい表情ひょうじょうかおをあげた。

 ここは、自警団じけいだん事務所じむしょの一つで、個人こじん経営けいえい食料品店しょくりょうひんてんでもある。自警団が町人の有志ゆうしあつまりであるから、だれかのいえが事務所わりもめずらしくない。感覚的かんかくてきには町内会ちょうないかいちかい。

 アタシは、カウンターよこたなならにく一袋ひとふくろって、カウンターにく。

「これ、うわ。ついでに、見張みはやぐらにあがりたいんだけど、許可きょかもらえる?」

毎度まいどあり! 見張みはやぐらくらい、きにあがってもらっていいよ。ピンクハリケーンさんなら、かおパスだ」

 店主てんしゅ笑顔えがおこたえた。

 ここの店主は、自力じりきけものってにく加工かこうしていそうな、体格たいかくのいい青年せいねんだ。恰幅かっぷくもよくてうでふとい、肉切にくき包丁ぼうちょう似合にあ典型的てんけいてき肉屋にくやだ。

「えっとね、今日きょうは、この子が見張みはやぐらにあがりたいのよ。ハンターギルドの護衛ごえい依頼いらいけた、魔物まもの研究者けんきゅうしゃさんなの」

 ひく位置いちにあるフェトのあたまに、ポンとかるく手をく。

 フェトが緊張きんちょう気味ぎみあたまをさげる。

「ふぇ、フェトシャールともうします。小砦しょうとりで周辺しゅうへん魔物まもの調査ちょうさのために、見張みはやぐらにあがります許可きょかをいただけませんでしょうか」

 店主てんしゅがフェトを見て、笑顔えがおうなずく。

かまわないよ。ギルドの仲介ちゅうかいなら身元みもとたしかだろうし。ゲストカードをくから、ちょっとってて」

「あっ、ありがとうございます」

 フェトがうれしそうに、ふたたあたまをさげた。


   ◇


 アタシはユウカ。まだ十六さい可憐かれんな少女のでありながら、ハンターギルドに所属しょぞくし、魔物まもの討伐とうばつ生業なりわいとする。

 武器ぶきは、両刃りょうば大斧おおおの愛用あいようする。防具ぼうぐは、急所きゅうしょ関節かんせつ金属鎧きんぞくよろいで守る、白銀はくぎんのハーフプレートである。

 女にしてはが高く、女にしては筋肉質きんにくしつで、パワータイプの近接きんせつ戦士せんしである。むねはない。ピンクいろ長髪ちょうはつ大斧おおおのりまわすたたかかたから、『ピンクハリケーン』の二つ名でばれる。

「おじゃましまーす!」

 見張みはやぐらいた。見張りのオジサンに元気げんきよく挨拶あいさつした。

「これはこれは! ピンクハリケーンさんじゃないですか! いらっしゃいませ!」

 オジサンがたかいテンションで、両手りょうてひろげて歓迎かんげいした。小洒落こじゃれたインテリアショップの店員てんいんで、ちょっとひん言動げんどうをする人だ。

 この見張みはやぐらは、町をかこかべの上に増設ぞうせつしたタイプだ。たか壁面へきめんをジグザグにあがる木製もくせい階段かいだんをのぼってきた。簡易的かんいてきな階段できしんで、隙間すきまから下がよく見えて、高さがかりやすかった。

「わ、わた、わたくし、まも、魔物まもの研究者けんきゅうしゃのフェトシャールともうします」

 フェトがさおかおで、お辞儀じぎする。ふるえののこる小さな手で、ゲストカードをオジサンに提示ていじする。

「はははっ。たかいところは苦手にがてですか、おじょうさん? まあ、団長だんちょう許可きょかがあるなら、心行こころゆくまでご滞在たいざいくださいませ」

 ゲストカードを確認かくにんしたオジサンが、丁寧ていねいにお辞儀じぎかえした。

「あり、あり、ありがとうございます」

 フェトも、丁寧ていねいなお辞儀じぎこたえた。かおはまだまだあおかった。


   ◇


 フェトが小砦しょうとりでかべそと魔物まもののウロつく平原へいげんを見ている。魔力付与エンチャントされた双眼鏡そうがんきょうのぞいて、右へ左へときをえる。

 やぐらは、木のいたんだ大きな籠型かごがただ。かご四隅よすみにははしらて、おなじく木の板で組んだ三角さんかく屋根やねせたかんじだ。三人いても余裕よゆうひろさだ。

 かご三角さんかく屋根やねあいだ空間くうかんから、かべそとながめる。青空あおぞらの下に、緑色みどりいろ草原そうげんひろがる。たかくて、広くて、てがなくて、かぜけて気持きもちいい。

「あれは、プレーンボアですわね……」

 フェトがつぶやき、双眼鏡そうがんきょうをおろす。このあたりの地図ちずひろげて、なにやらむ。

 ずっと、こんなかんじである。地図ちず魔物まもの位置いち情報じょうほうとかをいているのはかる。

みずむ? のどかわいてない?」

 アタシは、かわ水筒すいとうした。

「ありがとうございます」

 フェトがる。ちいさな両手りょうてで水筒をつかんで、小さな口をみ口にえて、不慣ふなれなうごきで水を飲む。

にくもあるわよ。昼食ちゅうしょくまだよね?」

 アタシは、さっきったにくした。

 フェトが、かおちかづけ、干し肉のにおいをたしかめる。

「わたくし、そのような粗野そやものは、口にしましたことがございませんの」

 小さな手でもどされた。

「はいはい。粗暴そぼうでガサツなバーサーカーでわるかったわね」

 アタシは、もどされたにくくわえて、った。パキッ、とかわいた小気味こきみよいおとがした。


 ゆかすわり、側面そくめん背中せなかもたれる。やとぬしのフェトがうごくまで、できることがない。

 そこそこの時間じかん経過けいかした。景色けしきながめるのにもきた。フェトを眺めつつ、万が一の危険きけんそなえる、なんて退屈たいくつきわまりない護衛ごえい最中さいちゅうだ。

 フェトは、ロリ巨乳きょにゅうである。小柄こがら華奢きゃしゃむねの大きい、一見いっけんすると女の子である。普段着ふだんぎの上に研究職けんきゅうしょくっぽい白衣はくいて、なが金髪きんぱつ上品じょうひんんで、ほそ銀縁ぎんぶち丸眼鏡まるめがねをかけ、薄化粧うすげしょう小綺麗こぎれいにした、ロリ巨乳きょにゅうである。

「ユウカさん。やぐらからおりますわよ」

 フェトが、道具どうぐかたかばんにしまいながらこえをかけてきた。

「やった! わり? 宿探やどさがす?」

 アタシはよろこび、ちあがり、大きく背伸せのびした。

「そのまえに、ハンターギルドの支部しぶ出向でむきますわ。階段かいだんをおります補助ほじょを、おねがいいたしますわね」

 フェトが、生意気なまいきな女の子のましがおこたえた。


   ◇


北東ほくとうの森に、ギガントスネークがいましたの。早急さっきゅうに、乗合のりあい馬車ばしゃへの警報けいほうと、討伐隊とうばつたい編成へんせい進言しんげんいたしますわ」

 ギルド支部しぶるなり、フェトが受付うけつけカウンターにりついた。受付の男となにやらはなしているようだ。

 フェトは小柄こがらりなくて、背伸せのびしてカウンターに両腕りょううででしがみつく。邪魔じゃまそうな巨乳きょにゅう圧迫あっぱくされる。

なにかの見間違みまちがいではありませんか、おじょうさん。ギガントスネークは、大砦おおとりで周辺しゅうへん魔物まものですよ。こんな田舎いなか小砦しょうとりでちかくになんて、いるとはおもえません」

 受付うけつけの男が戸惑とまど気味ぎみこたえた。

 三十さいくらいの、ふとめの、身綺麗みぎれいな男だ。アタシのこのみではない。

魔力付与エンチャントされました双眼鏡そうがんきょう確認かくにんしましたから、間違まちがいありませんことよ。ギガントスネークの習性しゅうせいからかんがえますに、森にひそんで、獲物えものちかづくのをっていますの。馬車ばしゃに森の迂回うかい指示しじしませんと、おそわれてしまいますわ」

「そうおっしゃいましても、おじょうさん。ほか目撃もくげき情報じょうほうもありませんので、一存いちぞんでの判断はんだんはできかねます」

「ですから、目撃もくげきする状況じょうきょうになりましたら、被害ひがいるともうしあげていますの」

かりました分かりました。上司じょうし報告ほうこくはあげておきます。ではつぎかたー」

 厄介やっかいばらいされた。フェトが渋々しぶしぶと、カウンターからねるようにはなれた。わりで、むさくるしいマッチョがカウンターにった。

 不機嫌ふきげんなフェトのあとって、建物たてものる。

「フェトってば、仕事しごと魔物まもの調査ちょうさするだけだとおもってたのに、ギルドに情報じょうほう提供ていきょうなんてするのね」

 アタシには、意外いがいだった。研究者けんきゅうしゃなんてのは研究けんきゅうにしか興味きょうみがない薄情者はくじょうもの、だと思っていた。研究所けんきゅうじょづとめともなれば利権りけんとか守秘しゅひ義務ぎむとかまでからんで、人のいのちよりも情報じょうほう大事だいじ利己主義りこしゅぎ人間にんげん覚悟かくごしていた。

緊急性きんきゅうせいたか情報じょうほう提供ていきょうは、ハンターギルドとの契約けいやくの一つですわ。それに、被害ひがいるとかって見逃みのがしますなんて、人としてゆるされませんもの」

 フェトが、不機嫌ふきげん表情ひょうじょうのままこたえた。

えらい! ちょっと見直みなおしたわ!」

 アタシはわらって、フェトの背中せなかつよはたいた。

「きゃっ?! なっ、なにをなさいますのっ?!」

 ころびかけたフェトが、き、アタシを見あげて抗議こうぎした。でも、れたみたいにほおあかかった。



帝国ていこく征服せいふくされて魔物まもの蔓延はびこくにで女だてらに魔物ハンターやってます

第15話 第一回だいいっかい活動報告かつどうほうこく/END

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