第14話 最初の目的地

 このくに数年前すうねんまえまで、王国おうこく統治下とうちか安寧あんねい平和へいわ享受きょうじゅしていた。

 帝国ていこくぐん侵攻しんこうで、それはもろくもくずった。

 帝国は魔王まおう復活ふっかつさせ、魔王配下はいか魔物まものの力をり、圧倒的あっとうてきつよさで王国を征服せいふくした。国には魔物があふれ、秩序ちつじょうしなわれてしまった。

 魔物が見境みさかいなく人間にんげんおそい、人間はとりでみたいな町をつくってを守る、無法むほう世界せかいがここにはある。


   ◇


 小砦しょうとりでジフトの大門だいもんが、地鳴じなりみたいにおも地面じめんを引きってひらく。開いた大門から、武装ぶそうした馬車ばしゃ出発しゅっぱつする。

 鉄板てっぱん武装ぶそうした馬車ばしゃを、よろい着込きこんだうまが引く。かた蹄鉄ていてつ軽快けいかいに石をたたく。

 今回こんかいは、近隣きんりん小砦しょうとりでいくつか巡回じゅんかいする乗合のりあい馬車である。

 御者ぎょしゃは、アタシがジフトにたときとおなじ、おっさんだ。ひくいがゴツく、使つかまれた皮鎧かわよろい着込きこみ、みじか黒髪くろかみ砂塗すなまみれのゴワゴワで、口髭くちひげ立派りっぱな、おっさんだ。

 乗客じょうきゃくは、ほとんどが行商人ぎょうしょうにんである。大きなはこ馬車ばしゃに、所狭ところせましと荷物にもつならぶ。荷物のあいだに、人がめてすわる。

 行商人以外いがいでは、馬車を守るハンターっぽい男が二人同乗どうじょうしている。あとは、ピンクハリケーンことアタシと、アタシが護衛ごえいった魔物まもの研究者けんきゅうしゃのロリ巨乳きょにゅうだけである。

「おい、そこのむねのないじょうちゃん」

 ハンターっぽい男がこえをかけてきた。

だれがロング俎板まないたよっ!」

 アタシは反射的はんしゃてきってかかった。

「おおっ、やっぱりピンクハリケーンさんでやしたか! へっへっへっ、ご一緒いっしょできて光栄こうえいっす。道中どうちゅうよろしくたのんます」

 ハンターっぽい男二人が、こしひくくしてあたまをさげる。二人とも、アタシの二倍にばいちかくはきてそうな大人おとなである。小汚こぎたなあらくれものである。

用事ようじがあって途中とちゅうりるけどね。そこまではよろしく」

 アタシは片手かたてげて挨拶あいさつかえした。

 となりすわるロリ巨乳きょにゅうのフェトが、アタシを見あげる。すこおどろいている。

「ハンターギルドの担当者たんとうしゃかたから、ユウカさんは高名こうめい魔物まものハンターといてはいましたけれど、本当ほんとうですのね。ほかのハンターのみなさんにまで、あんなに信頼しんらいされていらっしゃいますなんて」

高名こうめいっても、ランクSってギルド評価ひょうかだからよ。そのランクも、親父おやじ一緒いっしょにハンターやってるときにったのよ。アタシがその信頼しんらいりてるのか、ってなると自信じしんないかなあ」

 アタシは、子供こどもせっするときの笑顔えがおこたえた。

「あっ、あのっ、こ、これもっ、担当者たんとうしゃかたから、きましたのですけれどっ」

 フェトが、アタシを見あげたまま、言葉ことば躊躇ためらった。かおあからめ、目をせた。

「ん? なに?」

 アタシは、子供こどもせっするときの笑顔えがおいた。

 フェトがふたたびアタシを見あげる。おもった表情ひょうじょうで、口をひらく。

「ユウカさんがっ、最初さいしょ魔物まものハンター、『ファースト』さま御息女ごそくじょといいますのは本当ほんとうですの? 魔物研究けんきゅう第一人者だいいちにんしゃでもいらっしゃいますファーストさまは、わたくしたち魔物研究者にとりましても、尊敬そんけいあこがれの対象たいしょう神様かみさまみたいなかたでいらっしゃいますのよ!」

 銀縁ぎんぶち眼鏡めがねおくひとみが、キラキラとかがやく。

 フェトは、ロリ巨乳きょにゅうである。小柄こがら華奢きゃしゃむねの大きい、一見いっけんすると女の子である。普段着ふだんぎの上に研究職けんきゅうしょくっぽい白衣はくいて、なが金髪きんぱつ上品じょうひんんで、ほそ銀縁ぎんぶち丸眼鏡まるめがねをかけ、薄化粧うすげしょう小綺麗こぎれいにした、ロリ巨乳きょにゅうである。

「ハンター界隈かいわいじゃあ有名ゆうめいはなしでっせ、そだちのさそうなチビッさん。いまおれらが魔物まものたたかえてるのは、ファーストが魔物退治たいじのノウハウをしみなくひろめてくれたからだって。そのむすめも魔物ハンターでランクSとくりゃあ、人のうわさにならないほうがおかしいでがしょ」

 ハンターっぽい男たちまで会話かいわはいってきた。いやまあ、この男二人も魔物まものハンターなのだろう。乗合のりあい馬車ばしゃ用心棒ようじんぼうやとわれたのだろう。

 アタシは、こういうはなしかえしすぎてウンザリだ、とかおす。嫌々いやいやながら口にする、と口調くちょうしめす。

親父おやじなんて、ろくに魔物まものがいない時代じだいから魔物りしてただけの、ただの暇人ひまじんよ。それに、わるいけど、アタシが親父からおそわったのはたたかかただけだわ。むずかしいのも勉強べんきょう苦手にがてだし、アンタの期待きたいするような知識ちしきは、これっぽっちもってないわよ」

 右手の親指おやゆび人差ひとさし指のさきかみ一枚いちまいほどの隙間すきまつくって、フェトにしめした。

「まぁ、そうですの。それは残念ざんねんですわ」

 フェトが、ガッカリして、そだちのさそうなほおてのひらて、いきをついた。

拝見はいけんしましたかんじ、聡明そうめいかたではいらっしゃいませんものね。仕方しかたありませんわ。あまり、かたをおとしにならないでくださいましね」

 勝手かって外見がいけん判断はんだんされて、勝手になぐさめられた。失礼しつれいなヤツだな、とおもった。反論はんろんはできなかった。

 アタシの親父おやじは、有名人ゆうめいじんだ。王国おうこく魔物まものあふれるまえから、魔物退治たいじをしていた。魔物の生態せいたい記録きろくもしていた。

 アタシも、そのころから親父と一緒いっしょに、あちこちをたびした。色々いろいろおそわって、色々な魔物まものたたかった。残念ざんねんながら、知識ちしき習得しゅうとくはアタシにはいてなかった。

「ワーツが見えてきたぞ。長居ながいはしないから、りる人らは準備じゅんびしといてくれ」

 御者ぎょしゃのおっさんのこえこえた。

 はこ馬車ばしゃせままどからそとのぞく。石ころだらけの土のみちさきに、たかかべが見える。

 灰色はいいろの高いかべかこまれた町、小砦しょうとりでの見た目なんて何処どこたようなものだ。最初さいしょ目的地もくてきち、小砦ワーツに到着とうちゃくした。


   ◇


「またいつでもってくれ、ピンクハリケーン」

「ありがと。こっちこそ、またおねがいね」

 馬車ばしゃえきで、御者ぎょしゃのおっさんと手をりあいながら馬車をりた。木造もくぞう厩舎きゅうしゃ事務所じむしょ併設へいせつした、よくあるかんじの馬車駅だった。

 町の規模きぼは、ジフトと同程度どうていどである。ジフトよりは人通ひとどおりがすくなくて、のんびりしている。ワーツは商業しょうぎょうよりは農業のうぎょうさかんな小砦しょうとりでだと、いたことがある。

「とりあえず、宿やど確保かくほする? フェトは、要望ようぼうとかある? 一泊いっぱく予算よさんとか」

 紙束かみたばを見つめてむずかしいかおをするフェトに、かる口調くちょう確認かくにんした。いまは、フェトがアタシのやとぬしだ。

かたむきますまえに、かべそと観察かんさつしたいですわ。見張みはやぐらにあがれますように、この町の自警団じけいだん交渉こうしょうきますわよ」

 フェトが、紙束かみたばを見つめたまま、意気込いきごんでこたえた。

 見張みはやぐらとは、町をかこたかかべよりも上にた、壁の外側そとがわを見張るための施設しせつである。だいたいは東西南北に一棟いっとうずつある。立地りっちは、壁の上や高い建物たてもの屋上おくじょう増築ぞうちくしたり、地面じめんから木材もくざい石材せきざいとうつくったり、と様々さまざまである。

 研究けんきゅう熱心ねっしんだなあ、と感心かんしんする。れたみち馬車ばしゃられて、町にいて一休ひとやすみもしない。食事しょくじみずの一口すらない。

「ここの自警団じけいだん場所ばしょならってるから、案内あんないするわ」

 アタシは笑顔えがおで、まえに立ってあるした。高慢こうまんでも生意気なまいきでも巨乳きょにゅうでも、目的もくてきけて努力どりょくしまぬ姿すがた好感こうかんてるものだ。

「あらあらまぁまぁ。ありがとうございます」

 フェトが小走こばしりでついてくる。

 公的こうてき権力けんりょく軍隊ぐんたいの力のおよばない小砦しょうとりででは、自警団じけいだん魔物まものハンターとハンターギルドが防衛ぼうえいかなめとなる。自然しぜんと、おたがいの協力きょうりょく体制たいせいまれる。関係者かんけいしゃであればだれでも、緊急事態きんきゅうじたいそなえて、避難所ひなんじょと自警団とギルド支部しぶ見張みはやぐら場所ばしょくらいは把握はあくしている。

「ところで、フェト。アンタ、何歳なんさいなの? なんんだらいい?」

 アタシは笑顔えがおいて、何気なにげなくいた。てにされると不快ふかいおもう人もいる、適切てきせつ敬称けいしょう意思疎通いしそつうをスムーズにする、と受付嬢うけつけじょうにアドバイスされたのを思いした。

 フェトはたぶんアタシよりも年上としうえで、だから巨乳きょにゅうなのだ。貴族きぞく御嬢様おじょうさまっぽい気位きぐらいもあるし、平民へいみんのアタシにてにされて、内心ないしんいきどおっているかもれないのだ。

 フェトが、ほこらしげに、質問しつもんこたえる。

「ユウカさん。わたくしは、こう見えましても来月らいげつで、じゅモガッ」

 アタシは、不穏ふおん言葉ことばこえたがして、フェトの口をてのひらふさいだ。

「あ、やっぱり、こたえなくていいわ」

 いやまさか、このロリ巨乳きょにゅうが、ロング俎板まないたのアタシとほぼおなどし年下とししたなんて、あるわけないだろう。あっていいわけないだろう。



帝国ていこく征服せいふくされて魔物まもの蔓延はびこくにで女だてらに魔物ハンターやってます

第14話 最初さいしょ目的地もくてきち/END

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