第13話 研究者の護衛依頼

 このくに数年前すうねんまえまで、王国おうこく統治下とうちか安寧あんねい平和へいわ享受きょうじゅしていた。

 帝国ていこくぐん侵攻しんこうで、それはもろくもくずった。

 帝国は魔王まおう復活ふっかつさせ、魔王配下はいか魔物まものの力をり、圧倒的あっとうてきつよさで王国を征服せいふくした。国には魔物があふれ、秩序ちつじょうしなわれてしまった。

 魔物が見境みさかいなく人間にんげんおそい、人間はとりでみたいな町をつくってを守る、無法むほう世界せかいがここにはある。


   ◇


 華奢きゃしゃなイケメンエルフ弓使ゆみつかいのスピニースが小砦しょうとりでジフトをってから、数日すうじつった。フォートレスもロニモーも、とっくに、つぎ依頼いらいべつとりで旅立だびだった。

 アタシは、まだジフトにいる。ジフトのハンターギルドで、気力きりょくうしなった目で、つぎ依頼いらいさがす。掲示板けいじばん依頼書いらいしょながめて、けたいきをつく。

 魔物まもの討伐とうばつ依頼いらいは、帝都ていとからとお地方ちほうの、小砦しょうとりでちかくにるようなザコばかりだ。ランクSハンターのアタシがけるほどの依頼いらいはない。

 アタシはユウカ。まだ十六さい可憐かれんな少女のでありながら、ハンターギルドに所属しょぞくし、魔物まもの討伐とうばつ生業なりわいとする。

 武器ぶきは、両刃りょうば大斧おおおの愛用あいようする。防具ぼうぐは、急所きゅうしょ関節かんせつ金属鎧きんぞくよろいで守る、白銀はくぎんのハーフプレートである。

 女にしてはが高く、女にしては筋肉質きんにくしつで、パワータイプの近接きんせつ戦士せんしである。むねはない。ピンクいろ長髪ちょうはつ大斧おおおのりまわすたたかかたから、『ピンクハリケーン』の二つ名でばれる。

 最近さいきんは、小砦しょうとりで周辺しゅうへんにも不相応ふそうおうつよ魔物まものる、とうわさされる。実際じっさいに、ラムライノスだのロックちょうだの、帝都ていと大砦おおとりでの周辺に出没しゅつぼつするような強い魔物が出没して、退治たいじしている。

「まあ、どうでもいいわ……。ふぅっ……」

 けたいきた。

 今日きょうのハンターギルドはにぎわっている。掲示板けいじばんまえも、魔物まものハンターたちでごったがえす。つよい魔物をたおしてをあげよう、と意気込いきごむハンターたちがあつまっているらしい。

「まあ、どうでもいいわ……。ふぅっ……」

 けたいきた。

 もう、華奢きゃしゃなイケメンエルフはいない。失意しつい半端はんぱではない。やるない。

「ピンクハリケーン、ユウカさま是非ぜひとも推薦すいせんさせていただきたい依頼いらいがございます。すこしおはなしを、よろしいですか?」

 受付嬢うけつけじょうが、ニコやかな笑顔えがおこえをかけてきた。

 かたまでくらいのながさの金髪きんぱつさらさらストレートヘアを六四分けにした、化粧けしょう美人びじん大人おとなの女の人だ。ギルドの事務的じむてき紺色こんいろ制服せいふく似合にあう、仕事しごとのできる雰囲気ふんいきだ。ロックちょうのときに手続てつづきしてもらった、ちょっと苦手にがてかんじの人だ。

「どんな依頼いらい? 内容ないようによるけど」

 アタシは警戒けいかい気味ぎみかえした。雰囲気ふんいき苦手にがてというだけで、警戒けいかいする必要ひつようまったくない。

戦闘員せんとういん護衛ごえいです。かべそとでの移動いどう支援しえん活動かつどう支援がメインになります」

 護衛ごえいは、あまりきではない。守るより、あばれるほうが好きだ。

護衛ごえいなら、フォートレスみたいなののほうがいいんじゃない?」

護衛ごえい対象たいしょうを守るのは、攻撃こうげきけとめるだけではございません。状況じょうきょうおうじて、たたかう、かくれる、げる、といった柔軟じゅうなん判断はんだん必要ひつようになります。それをできますのが、ユウカさまのような、経験けいけん豊富ほうふこうランク魔物まものハンターですわ」

 受付嬢うけつけじょうが、ニコやかな笑顔えがおこたえた。

 お世辞せじ上手うまくノセようとしてるがする。いや予感よかんがする。この依頼いらいけないほうがいいと、ランクSハンターのかんげる。

護衛ごえい対象たいしょうが、華奢きゃしゃなイケメンエルフなら、けてもいいわよ」

 アタシは、ことわ口実こうじつにしようと、無理難題むりなんだいっかけた。自然しぜん主義しゅぎで森にむエルフは、人間にんげん生活圏せいかつけんには滅多めったにいない。小砦しょうとりでケルンのギルドの受付うけつけのお兄さんとか、ハンターのスピニースとか、奇跡的きせきてき確率かくりつ出会であいだったのだ。

「あぁー。しいですが、ちょっとちがいますね。では、ほかかたにおねがいしてみます」

 受付嬢うけつけじょうが、ニコやかな笑顔えがおこたえた。

 え? しいってどういうこと? ちょっとってどういうこと?

 こころの中で動揺どうようする。かおさないようにしても、顔とひとみ興味津々きょうみしんしんかもれない。

「まっ、って。けてあげても、いっ、いいわよ。で、どんなエルフを護衛ごえいすればいいの?」

 期待きたい興奮こうふんんだ。キョロキョロと、周囲しゅういを見まわした。

 ぽっちゃりけいエルフだろうか。おとうと系エルフだろうか。たよりない幼馴染おさななじみ系エルフだろうか。

「わぁっ! ありがとうございます、ユウカさま。では、こちらの書面しょめんにサインをおねがいします」

 受付嬢うけつけじょうした契約けいやく書類しょるいにサインする。受付うけつけカウンター以外いがいでサインするのは、めずらしい。

「で、護衛ごえい対象たいしょうのエルフは?」

 アタシは、書類しょるいかえしながら、周囲しゅういを見まわした。エルフらしき姿すがたはなかった。あらくれもの丸出まるだしの、わかかったりオッサンだったりの野郎やろうどもばかりだ。

 一応いちおう、一人だけ、女の子がいる。

 一言ひとことあらわすならば、ロリ巨乳きょにゅうだ。

 たかいアタシとくらべるまでもなく小柄こがらで、筋肉質きんにくしつのアタシと比べるまでもなく華奢きゃしゃで、胸のないアタシと比べるまでもなく胸が大きい。普段着ふだんぎの上に研究職けんきゅうしょくみたいな白衣はくいて、なが金髪きんぱつ上品じょうひんんで、ほそ銀縁ぎんぶち丸眼鏡まるめがねをかけ、薄化粧うすげしょう小綺麗こぎれいにしている。

 容姿ようしにも服装ふくそうにも、魔物まものハンターらしさがかんじられない。あらくれても小汚こぎたなくもない。

「はい。こちらが、護衛ごえい対象たいしょうのフェトシャールさまです。魔物まもの研究けんきゅうをしていらっしゃるかたで、ああ、もうわけありませんが、華奢きゃしゃな、人間の女性です」

「……って、華奢きゃしゃしか合ってないじゃない!」

 アタシはおもわず、受付嬢うけつけじょうにツッコミをれた。

「このかたが、おすすめの護衛ごえいかたですの? おかお拝見はいけんしましたかぎり、あまり聡明そうめいではいらっしゃらないようですわね?」

 紹介しょうかいされた女の子が、値踏ねぶみする目でアタシを見る。

 研究者けんきゅうしゃわれてみれば、研究者っぽい雰囲気ふんいきがある。たたかいを生業なりわいとする魔物まものハンターとは真逆まぎゃくの、机上きじょう特化とっかしたインテリっぽさである。

知的ちてき会話かいわ成立せいりつします、礼儀れいぎ作法さほうつうじて、デリカシーがありまして、魔物まものかんする知識ちしき豊富ほうふで、地理ちりあかるい、こうランクの女性の魔物ハンター、という条件じょうけんでおねがいしましたはずですわよね? 失礼しつれいですが、女性の部分ぶぶんしか条件をたしていらっしゃらないように、お見受みうけいたしましてよ」

もうわけありません、フェトシャールさま。女性の魔物まものハンターはすくなく、こうランクのかたともなりますと、ハンターギルド所属者しょぞくしゃの中でもごく少数しょうすうとなります」

 研究者けんきゅうしゃ受付嬢うけつけじょう交渉こうしょうはじめた。アタシを放置ほうちして、だ。

 このフェトなんとかという研究者けんきゅうしゃは、きっと二十歳はたちぎていると見る。権力者けんりょくしゃ金持かねもちの御嬢様おじょうさま研究職けんきゅうしょくいて、出世しゅっせ夢見ゆめみっている、と予想よそうする。はなしとしては、よくある。

 童顔どうがん小柄こがらだから、子供こどもっぽく見える。見た目だけなら十歳じゅっさいでもとおる。たかめのこえ高慢こうまんしゃべかたが、生意気なまいきな女の子っぽさを強調きょうちょうしさえする。

 でも、経験けいけん豊富ほうふなアタシはだませない。十歳じゅっさいくらいの女の子は、あんなにむねが大きくない。小柄こがら肢体したい不釣ふつり合いなほどの上着うわぎふくらみが、できたりはしない。

 十六さい可憐かれん美少女びしょうじょのアタシが、ほぼたいらなのだから、間違まちがいない。十歳でそれはゆるされない。絶対ぜったいに許さない。

「これでも希望きぼうちかかたですのね。どういたしましょうかしら……」

 フェトが思案顔しあんがおで、アタシを見る。まよがおになって、視線しせん受付嬢うけつけじょうへとうごかし、意見いけんもとめる。

「ユウカさまほどのハンターは、そうそういらっしゃいません」

「では、仕方しかたありませんわ。この、聡明そうめいではないかた妥協だきょういたしますわ」

「いやいやいや。アタシも、あんまり気乗きのりしないし。やめとこうかなって」

 こんな依頼いらい反故ほごにしたい。気位きぐらいたかいインテリの護衛ごえいはできるがしない。あまつさえ、ロリ巨乳きょにゅう引率いんそつなんて、ロング俎板まないたにはがた屈辱くつじょくである。

「そうおっしゃられましても、すでにサインをいただいておりますので」

 受付嬢うけつけじょうが、ニコやかな笑顔えがおで、契約書けいやくしょをヒラヒラとらしてみせた。

「うっ……」

「ユウカさまは、わした約束やくそくやぶらないかただと、信頼しんらいかただと、ケルンの担当者たんとうしゃからいております」

 受付嬢うけつけじょうが、ニコやかな笑顔えがおで、契約書けいやくしょをパラパラとめくってみせた。

 小砦しょうとりでケルンのハンターギルドといえば、受付うけつけのお兄さんがこのみの華奢きゃしゃなハンサムエルフだった。

「う~ん。まあ、仕方しゃあないかあ……」

 アタシは一頻ひとしきなやんでから、渋々しぶしぶ承諾しょうだくした。

「でしたら、よろしくおねがいいたしますわね、聡明そうめいではないかた

 フェトに、契約成立けいやくせいりつ握手あくしゅもとめられる。ロリが、見くだす目をして見あげてくる。貴族きぞく平民へいみんこえをかけるような、高慢こうまん口調くちょうである。

「あー、はいはい。よろしくね、魔物まもの研究者けんきゅうしゃさん」

 この依頼いらい苦労くろうしそうだな、といや予感よかんがしていた。



帝国ていこく征服せいふくされて魔物まもの蔓延はびこくにで女だてらに魔物ハンターやってます

第13話 研究者けんきゅうしゃ護衛ごえい依頼いらい/END

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