第12話 高ランクパーティ解散!

 このくに数年前すうねんまえまで、王国おうこく統治下とうちか安寧あんねい平和へいわ享受きょうじゅしていた。

 帝国ていこくぐん侵攻しんこうで、それはもろくもくずった。

 帝国は魔王まおう復活ふっかつさせ、魔王配下はいか魔物まものの力をり、圧倒的あっとうてきつよさで王国を征服せいふくした。国には魔物があふれ、秩序ちつじょうしなわれてしまった。

 魔物が見境みさかいなく人間にんげんおそい、人間はとりでみたいな町をつくってを守る、無法むほう世界せかいがここにはある。


   ◇


 アタシはユウカ。まだ十六さい可憐かれんな少女のでありながら、ハンターギルドに所属しょぞくし、魔物まもの討伐とうばつ生業なりわいとする。

 武器ぶきは、両刃りょうば大斧おおおの愛用あいようする。防具ぼうぐは、急所きゅうしょ関節かんせつ金属鎧きんぞくよろいで守る、白銀はくぎんのハーフプレートである。

 女にしてはが高く、女にしては筋肉質きんにくしつで、パワータイプの近接きんせつ戦士せんしである。むねはない。ピンクいろ長髪ちょうはつ大斧おおおのりまわすたたかかたから、『ピンクハリケーン』の二つ名でばれる。

 ロックちょう退治たいじして、小砦しょうとりでジフトにもどった。いまは、ハンターギルドに紹介しょうかいされた病院びょういん待合室まちあいしつだ。

 アタシは軽傷けいしょうんだ。前衛ぜんえいなんて、丈夫じょうぶじゃないとやってられない。

 治療ちりょうえて、仲間なかまたちをつ。

軽傷けいしょうんでかったのう、ピンクハリケーン」

 フォートレスが豪快ごうかいわらう。

 待合室まちあいしつにも廊下ろうかにも、人の姿すがたすくない。魔物まものハンターなんてあらくれものる、ボロい木造もくぞう二階建にかいだての病院びょういんだから、まちの人の利用りようは少ないのかもれない。

「あれでもアンタは無傷むきずってのが、釈然しゃくぜんとしないわ」

 アタシは、不服ふふくかおした。

「さすがのワシも、無傷むきずとはいかんかったぞ」

「へー。フォートレスでも怪我けがすることあるんだ?」

「タワーシールドががってしもうた」

「あー。そっちかー」

 どうでもいい会話かいわをしてしまった。斜面しゃめんころがりちてきたロックちょうたったタワーシールドががったとか、当たりまえだし、本当ほんとうにどうでもいい内容ないようだ。

「おら、治療ちりょうわった。たせた、まない」

 ロニモーが診察室しんさつしつからてきた。

 ロニモーは、アイアンニードルせんきずふかかった。新人しんじんハンターとはおもえない勇猛ゆうもうたたかいぶりだったが、ながはりっかけられた傷はあさくなかった。

「あの激戦げきせんだもん。怪我けがくらいするわよ」

 あとは、スピニースちである。

 アタシと、フォートレス、ロニモー、スピニースの四人即席そくせきパーティで、ロックちょう退治たいじした。ロニモー以外いがいの三人が、ランクSの魔物まものハンターだ。

 フォートレスはフルプレートメイルの巨躯きょくのマッチョの大男おおおとこ、ロニモーは遊牧民ゆうぼくみん日焼ひや半裸はんらマッチョ、スピニースは華奢きゃしゃなイケメンエルフである。アタシこと『ピンクハリケーン』、不落ふらく前衛ぜんえい『フォートレス』、『てんつらぬ』スピニース、ランクBながら器用きよう実力派じつりょくはのロニモー、この四人がつどったからこそ退治たいじできたと確信かくしんする。

大事だいじなさそうでなによりだ、ロニモー殿どの

 フォートレスが重低音じゅうていおんで、ロニモーをむかえた。

 日焼ひやけしたふとうでに、うす傷痕きずあとが見える。あのうすさなら、時間じかん経過けいかえる。この病院びょういんには、うで回復かいふく魔法まほう使つかいがいるらしい。

 視線しせんを、スピニースがはいった部屋へやとびらへともどす。廊下ろうかおくにある。ボロい木の扉に、ボロい木のがついている。

 とびらひらいた。きしみが待合室まちあいしつまでこえた。

「スピニースさぁん! 大丈夫だいじょうぶですかぁ!?」

 アタシは、かわいいこえ口調くちょうびかけた。

 フォートレスが爆笑ばくしょうするが、無視むしする。

 スピニースは、ゆっくりとあるいて、待合席まちあいせきすわった。あたまうで包帯ほうたいかれて、痛々いたいたしかった。タイトなふくかくれて、ほかにもあちこち包帯だらけのはずだ。

心配しんぱいをかけたようで、わるいな。一週間いっしゅうかん入院にゅういんすることになりそうだ」

 スピニースが、気怠けだるげにうつむいてこたえた。いていて、何処どこかげのある声音こわねだった。

「それにしても、ピンクハリケーンは、なんうか、その、くらいわだらけの斜面しゃめんをダイナミックにころがりちたのに、たいした怪我けががなかったようで、かったな」

「あぁん、そんなぁ。これくらい丈夫じょうぶじゃないとぉ、前衛ぜんえいなんてできませんよぉ。でもぉ、スピニースさんに心配しんぱいしてもらえるなんてぇ、うれしいですぅ」

 アタシはうれしさにいあがって、かわいいこえ口調くちょうこたえた。

ちがうぞ、ピンクハリケーン。あの状況じょうきょうかすきずんで、人間離にんげんばなれした丈夫じょうぶさにドンきしておるのだ」

「おらも、ドン引き。サウクぞく戦士せんし丈夫じょうぶ、でも、そこまで頑丈がんじょう、いない。ビックリ」

 フォートレスとロニモーにツッコまれた。

うっさい。いまはスピニースさんとはなしてるの」

 アタシはフォートレスに悪態あくたいをついた。

「スピニースさんの怪我けが仕方しかたありませんよぉ。スピニースさんが、あのロックちょう退治たいじしたんですからぁ。名誉めいよ負傷ふしょうですよぉ」

 スピニースが、うれいのある表情ひょうじょう微笑びしょうする。

「ふっ。おれの力だけじゃないさ。ロニモーも、フォートレスも、ピンクハリケーンも、俺のかぎり、トップクラスの実力者じつりょくしゃだったぜ」

 みとめられた。認めてもらえた。いまなら、オーケイがもらえるかもれない。

「と、ところであのっ、スピニースさんはぁ、こここのあとっ、どうするんですかぁ?」

 緊張きんちょうむ。むねがドキドキと高鳴たかなる。バストてきな胸はない。

「よ、よ、よかったら、ア、アタ、アタシと、固定こていパーティを、ん、でっ、もらえませんかっ?」

 った。言ってしまった。華奢きゃしゃなイケメンエルフに告白こくはくしてしまった。

 スピニースが、気怠けだるげにうつむく。微笑びしょうして、なが緑髪みどりがみかくれていないほうの目で、アタシを見つめる。

おれは、かつて、ヘブンズソードのパーティにいた。だが、理念りねんちがいで、パーティをけた。まえにもはなしたな」

 返答へんとうは、はい、でも、いいえ、でもなかった。重要じゅうよう決断けつだんだから、かんがえる時間じかんしい、てきかんじだろうか。

「まあ、仕方しかたあるまい」

「ピンクハリケーン、とすな。出会であい、いつか、ある」

 さっしたフォートレスとロニモーがフォローをれた。

うっさい。まだ結論けつろんてないわよ」

 アタシはフォートレスに悪態あくたいをついた。


   ◇


 スピニースが、どこかかげのある口調くちょうはなす。

おれは、俺自身じしんつよくなりたかった。俺自身の力をもとめ、強くなることにこだわった。それは、いまわらない」

 かる。アタシも、アタシ自身がつよくなりたい。

「ヘブンズソードは、パーティメンバーに、おたがいがたよたよられるつよさをのぞんだ。最強さいきょうのハンターとひょうされる一人でありながら、個人こじんの強さではなく、パーティの強さをもとめた」

 それも分かる。たすうことでも、人はつよくなれる。

「ヘブンズソードの理念りねんただしいのかもれない。つよくなるための近道ちかみちなのかも知れない。だが、おれの理念とは合わなかったし、結局けっきょく、パーティからけることになった」

 このタイミングで、このはなしをする理由りゆうは、なんとなくかる。

「ええっと、つつまり……?」

 アタシは、動揺どうようした口調くちょういた。

「あんたたちと一緒いっしょなら、どれほどつよ魔物まものでも討伐とうばつできそうながするぜ。報酬ほうしゅう名声めいせいも、おもいのままだろうな」

 スピニースが、もうわけなさをかおして、さびしげに微笑びしょうする。

「だからとたよっちまうと、おれつよくなれない。俺のもとめる強さはられない。俺は俺が強くなるために、一匹狼ロンリーウルフつらぬきたいのさ」

 ショックな結論けつろんだった。とおくなりかけた。面倒めんどうなやつだとおもわれたくないので、かおすのは我慢がまんした。

「がっはっは! フラれたな、ピンクハリケーン」

 フォートレスが豪快ごうかいわらった。

「フラれてないわよ! いまはまだ固定こていパーティをがない、ってはなしよ!」

 アタシはフォートレスにたりした。

 スピニースが、かげのある表情ひょうじょう微笑びしょうする。

「ふっ。まあ、そういうことさ。希望きぼうえなくて、わるいな」

 された華奢きゃしゃな手をジッと見つめる。握手あくしゅもとめられている。

「オヌシのようなほこたかきハンターとともたたかえてかった。またうことがあれば、そのときも共に戦えるようねがおう」

 フォートレスのガントレットが握手あくしゅわした。

「ああ。こちらこそ、あんたたちとの共闘きょうとうたのしかった。即席そくせきパーティなら、いつでも歓迎ウェルカムだぜ」

「おら、つぎまで、もっとつよくなる。スピニースさん、見劣みおとりしない、戦士せんしなる」

 ロニモーの日焼ひやけした手が握手あくしゅわした。

「そいつはたのしみだな。かれないように、おれも、さらにつよくなっておこう」

 のこるはアタシだけだ。

 握手あくしゅをしたら、即席そくせきパーティは解散かいさんだ。華奢きゃしゃなイケメンエルフとも、おわかれだ。

「あっ、あの、『てんつらぬ』、すごかったわ。アタシのるどんな魔法まほう使つかいよりも、いいえ、どんなハンターよりも、すごかったわ」

 華奢きゃしゃな手と握手あくしゅする。アタシの手とくらべても、スピニースの手はほそい。

「あんたもすごかったぜ、ピンクハリケーン。安心あんしんしてまかせられるハンターに、ひさしぶりにえた。あんたたち、三人ともだ」

 スピニースが、かげのある表情ひょうじょうで、おだやかな口調くちょうで、微笑びしょうした。

 魔物まものハンターをしていれば、出会であいとわかれなんてかぞえきれないほどある。即席そくせきパーティをんで、依頼いらいわれば解散かいさんなんて、いくらでもある。れている。

「ありがと。また、どこかでいましょ」

 アタシは、はにかんで、微笑ほほえかえした。このわかれは、でも、ちょっとだけかなしかった。



帝国ていこく征服せいふくされて魔物まもの蔓延はびこくにで女だてらに魔物ハンターやってます

第12話 こうランクパーティ解散かいさん!/END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る