第5話① 威厳はあるが軽薄な爺さん 前編


 📞📞お題パート📞📞



「人間は誰しも平等に歳をとっていくものです……」


 天使の笑みを浮かべて上役はこう告げた。


「……人生経験を積み、他人の良いところ、悪いところを理解し、人としての器が大きくなっていくものです」


 それから目の奥に悪魔の炎をちらつかせて続けた。


「……でも現実は必ずそうではありません。むしろ歳をとることで意固地がすぎたり、わがままになったり、威張り散らしたり」


 たしかに言うとおりだ。優しい老人がいる一方で『老害』をまき散らす者もいる。


「歳をとったからこそ魅力的になる、そんな歳の取り方をしたいものですね」 


 歳をとることはなんとなくネガティブにとらえられるものだ。

 外見だってそうだ。しわが増えたり、白髪になったり、髪が薄くなったり。

 だがそういうものを差し引いても魅力的な老人はいる。


 話が面白かったり、的確なアドバイスをくれたり、優しく怒ってくれたり。

 年月を重ねることでしか生まれない、ワインのように熟成した精神とでもいえばいいだろうか。 


(そうか、今日は奴の集金日ってわけか)


 今日の回収先はまさにその老人。

 しかし熟成とは無縁の、なんとも軽薄な感じの爺さんだ。

 いつまでも気が若い、と言えば聞こえがいいが、実のところはまったく重みがない人間ってことだ。

 むしろ子供がえりしているとでも言ってやるのが相応だろう。


 かくしてわたしは憂鬱をずるずると引きずりながら、今日も顧客のもとに足を運ぶ。



(その②へつづく)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る