第3話① のんびりした切れ者おっさん 前編


📞📞お題パート📞📞



「日頃の言動や行動だけで人を判断してはいけません……」


 天使の笑みを浮かべて上役はこう告げた。


「……人の心や知性というものは、巧妙に隠れている、隠されていることも多いのです」


 それから目の奥に悪魔の炎をちらつかせて続けた。


「ひねくれた知性の持ち主というのは、無能者や道化を演じながら、いつも鋭くあなたを観察し、弱みを探っているのですよ」


 確かにうわべだけで人を判断することはできない。

 それは分かっているつもりでも、つい忘れてしまうものだ。

 明るくふるまう人が実は暗い心を持っている、暗い人の中身が実は明るい心にあふれている。


 外面に惑わされることなく、その人の本質を見極める。

 これもまた回収人にとっては大事な資質なのだろう。


 しかし。これから取立にいく顧客テキもそうなのだろうか? 

 いつもぼんやりとした雰囲気の、くたびれきって何事にも適当な中年男性。

 とてもなんか隠しているようには見えない能天気なヤツだ。

   

 はたして今回のアドバイスは役に立つのかどうか、怪しいもんだ。

 さすがに考えすぎのような気がしてならない、こと彼に関する限り。

 いつでも適当にはぐらかされるばかりで、一生懸命になっている自分がむなしくなる。


 多分、今回もそんなことになる気がしてならない。


 かくしてわたしは憂鬱をずるずると引きずりながら、今日も顧客のもとに足を運ぶ。



(その②へつづく)


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