第2話① やたらドラマチックな婆さん 前編
📞📞お題パート📞📞 ……語り口調をすこし改変しています。
「お客様にだっていろいろな事情がありますからね……」
天使の笑みを浮かべて上役はこう告げた。
「……大事なことは彼らの声に真摯に耳を傾けること」
それから目の奥に悪魔の炎をちらつかせて続けた。
「そして右から左に聞き流してください。同情は心を抉る鋭利な刃物、引きずり込まれると抜け出せなくなりますよ」
同情。この商売の大敵は確かにそれだ。
ある時は涙を浮かべ、ある時は袖に縋りつき、自分がいかに大変なのかを訴えてくる。
それは悪魔のささやきも似て、巧みにわたしの心の中に入り込み、ともすれば涙を誘いさえする。
「いいんだ。そういうことなら返済を待ってやろうじゃねえか、おお、まかせとけ」
なぞ言ってやりたくもなってくる。
だがそんな時に限って、見てしまうのだ。
にやりとした狡猾な笑みを。唇からチロリと除く蛇の舌先を。
特に今回は気を付けなきゃな。
今回の
巧みな話術と迫真の演技で、いつの間にか自分の劇場に引きずりこむイカサマ……もとい婆サマだ。
手の内が分かっていてもなお、気づくと彼女に同情しちまいそうになる。
かくしてわたしは憂鬱をずるずると引きずりながら、今日も顧客のもとに足を運ぶ。
(後編へつづく)
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