第57話 最後の回収
彼女はオレが、本当に犠牲になったと思っていたようだ。
だからこそ、この世界を丸ごと爆殺しようとしたのだから。
ドットがいない世界を生きるくらいならまとめて壊してやる――、その好意は嬉しいけど、やり過ぎだ。オレのために、他人を巻き込むのは頷けないな……。
「私は、ドットのために生きているんだから……っ、あなたがいなくなったら、生きる意味なんてないのよ……!」
「そんなこと言うなよ……。今はそうでも、生きていればいずれ……いや、今はもう、オレがこの場にいるんだから、その考えを押し付けなくてもいいのか……」
オレがいなくなる可能性は今後もなくなるわけではないので、すぐに世界を壊そうとしないように説得しておくことは無駄ではないだろう……ただ、今ではない。
今のテトラには、説教よりも共感を。
慰めるよりも甘やかした方がいいだろうな。
「…………良かった、ドット……っっ」
「オレも、本当にオレがあっちにいかなくて――うぉ!?」
たたたっ、と足音を聞いた時には既に遅かった。テトラがオレの胸に飛び込んできた。
その勢いに堪えられず、後ろに倒れてしまうが……、ベッドがあったのでクッションになってくれた。
軽く跳ねたオレたちは、互いに身を任せて、ぴったりと密着する……。
オレの胸に顔を埋めるテトラの頭を、優しく撫でてやる……。
何度も何度も……、もう、自暴自棄になったりしないよな?
世界を爆殺するってことは、テトラも巻き添えになるってことなのだから。
「……ドットが傍にいてくれるならね」
「いるよ、ずっといる……」
「でもどうせ、ターミナルとルルウォンも……リノス姫だっているんでしょ?」
「それは、そうだけどさ……」
「まあいいけど。一夫多妻も、珍しいことじゃないんだから」
それでも、とテトラはオレを上から睨みつける。
「一番は欲しいのよ……どうしようもなく。だって私だって、女の子だから」
「――それ以上をするつもりなら、全部が終わってからにしてくれる?」
気づけば、テトラの背後に立っていたアキバ……――いつからそこに? 扉が開く音さえしなかったぞ……!?
「集中し過ぎてただけでしょ。とにかく、乳繰り合うなら別の機会にね。……トンマと雫の見た目でされるのはすっごく嫌な気分だけど……気にした方が負けよね――」
「あなた……」
「やっぱり近くにいたんだね、テトラ……、さん? 私のことはアキバでいいよ、呼び捨てでも気にしないから」
「…………」
テトラは警戒している。
アキバも、拷問中とは違う対応だ……、オリジナルとの距離感は、こんなものか。
あまり接点がなかった二人だが、だとしても、テトラの警戒はいつも以上だ。
彼女……アキバのことを、要注意人物と認めているからか。
実際、手の平の上とは言わずとも、行動を読まれていたのは確かだ。アキバからすれば、多くの分岐先の一つがたまたま当たっただけなのかもしれないが……。
「……あなたに屈したわけじゃないわ……、アキバ」
「私も、テトラさんを屈服させたとは思ってないよ。今も、咎めるつもりはないの。こうして戻ってきて、爆破テロをやめてくれるなら、仲間として受け入れるつもりではいるし……、これまでの悪行は……、悪行と言っても、他国への攻撃と世界を破壊しようとした行動だけで、元の世界でのことはカウントしていないから安心して」
元爆弾魔のテトラだが、アキバは現役だった頃の悪行は気にしないらしい。まあ、当事者でないのに責めるというのもおかしな話だろう。
そこを指摘できるのは、オレたち『食人鬼の世界』側の人間だけだ。なので、アキバが言っているのは、こっちの世界へやってきてからの爆破テロのみ……。
だとしても、許される行為ではないはずだけど……なにが狙いだ?
なにを企んでいる。
なにを――、犯罪行為を帳消しにする『なにか』を、テトラに期待しているのか……?
「お願いがあるの――テトラさん」
「なにかしら」
「トレジャー≪マッド≫ボックスなんだけど……、海に落としてくれる? ――元の世界にある箱、全部――それで犯罪行為は帳消しにしてあげる」
「…………それは、私の手持ちの武器を全て吐き出せってことかしら? ……そうよね、兵器を隠し持った私と、すぐ近くで過ごしたくは、」
「そういうことじゃなくて」
と、アキバ。テトラの武器を取り上げるのではなく……、そうではなく。
じゃあなんのためにトレジャーボックスをこっちの世界へ運び込もうとしている……?
中には爆弾しか詰まっていないはずなのに……。
「アキバ……、今度はなにを考えているんだ……?」
「なんとかなる。だけど最低限、こっちからも手引きしないといけないでしょ?」
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