第56話 トレジャー≪マッド≫ボックス


「トレジャーボックスは、世界と世界を、飛び越える……?」


 トレジャーアイテムではなく、トレジャーボックスだ。恐らく、大多数がそうだったはずだろう……、アイテムの方に目がいっていたせいで、そのアイテムを収納していたボックスの方に目を向ける者はいなかったのではないか。


 アイテムを収納するだけなら、ただの箱でいいだろう……だが、この箱はトレジャーボックスという名前で、アイテムと同様に普通ではない効果を持っている。


 ……では、それはなにか。


 収納がボックスの効果でなければ、当然、別の効果がこのボックスにあるということになり…………、そう、一番、最初だ。

 トンマとオレが入れ替わる前、発端と言えるリノスのトレジャーアイテムの誤作動……。

 間違えて、スイッチャーの効果に巻き込まれてしまったリノスは、この世界に魂だけやってきて、最初になにをしたのかと言えば……、手元にないトレジャーアイテムを引き寄せたのだ。


 リノスの力でなければ、トレジャーアイテムの効果でもない。


 そう、登録者の魔力に反応し、たとえ異世界だろうと移動し、登録者の手元に召喚される……それがトレジャーボックスの効果なのだ。

 そして、その効果を利用したのが、テトラの爆弾テロだ。



 オレたちの世界に隠しておいた、多くのトレジャーボックス……、食人鬼さえも爆散させることができる威力の爆弾が、たっぷりと敷き詰められたそれを、世界を跨いで手元に呼び寄せた……。


 テトラの場合は座標を設定することで、自身の手元ではなく、別の場所へ呼び寄せることができたらしい……、世界地図を見れば、どこだろうと送り付けることができる。

 箱いっぱいに詰まった爆弾が、世界各地で爆発しているのは、そういう仕掛け(カラクリ)があったわけだ……。


 恐らくだが、オレたちが出会う前から、テトラは爆弾をストックして、たくさんのトレジャーボックスを隠し持っていた……。彼女がタネも仕掛けも分からない爆弾魔と呼ばれていたのは、トレジャーボックスを利用した、設置から作動まで、全てが遠隔でできてしまうからだったのだ(箱に爆弾を詰める作業は手動だとは思うけど)。


 ただの箱でしかないと思っていたトレジャーボックスだが、中身が爆弾となれば話は変わってくる……、身近なそれも、使う者が変われば最大脅威となる。


 狂気的な使い方だな……想像もしなかった。


 これじゃあ、トレジャー≪マッド≫ボックスだ。



「その爆弾は、分身のテトラでも引き寄せられるのか?」


 姿を眩ませたテトラよりも先に、爆発前の爆弾を回収してしまえば……、早急に箱から爆弾を出してしまえば、空になった箱を、オリジナルのテトラが他の場所へ送りつけても爆発はしない……。世界を壊す、だなんて捨て身の反撃をすることもできないのだ。

 だが……、そう上手くはいかないようだ。


「オリジナルが優先されると思うわよ。だって、魔力はオリジナルの方が濃いし……」


 それは……そうか。

 分身の魔力は、当然、オリジナルよりも劣る。そしてオリジナルの魔力で登録されているトレジャーボックスは、濃い方を認識するわけで……。

 分身のテトラが、オリジナルから横取りすることはできないのだ。

 やはり、オリジナルのテトラを見つけ出すしかないわけか……。


「じゃあもういっこ、質問だけど」

「……なによ、爆弾のカラクリは教えたでしょ……これ以上、私が知ることなんて……」


「姿を隠すことを想定していたなら、ある程度、隠れ家には目星をつけていたんでしょ? ……候補はどこ? テロ決行、寸前で分身したあなたが知らないわけないでしょ?」

「…………」


「ここまで白状しておいてだんまりって……知らないわけがないと思うけどね。全部を話さないと拷問が再開するけど……、爆弾のネタを教えてくれたからって、拷問に手心が加えられるわけじゃないからね?」


 拷問道具に手を伸ばしたアキバだったが――


「うぅ……分かったっ、分かった言うから!! ……でも、その候補の中に、オリジナルの私がいるとも限らないからね……? いなかったとしても私に八つ当たりしないでよ!?」


「候補以外の隠れ家を、急遽見つけた可能性だって、当然、あることは百も承知だから気にしないでよ。いいから教えて。候補の隠れ家は、どこ?」


 分身が教えてくれた候補を聞き終え、すぐに全員へ通達。

 多くの候補地があったが、それぞれが分散して目標地点まで向かうことになった。

 必ず、どこかにテトラがいるはずだ……。


「アキバ、オレはどの候補地へ向かえばいい?」

「ドットはここにいて。夢の国から動かないで」


 ……それは、どうして?


「あの子が戻ってきた時、誰もいないと寂しいでしょ?」



 もしかしてアキバは気づいていたのか? ……気づいていた、というよりは、そういう可能性もあると考えていただけかもしれない――。

 オレ以外が出払った夢の国、そのホテルの一室。

 鍵もかけていなかったオレの部屋の扉を開けたのは…………やはり、テトラだった。


 もちろん、分身ではない。

 分身ではなく――オリジナルだ。


 姿を眩ませた彼女は、もしかしてずっと、近所に身を隠していたのか……? トレジャーボックスを利用すれば、本体が移動しなくとも爆破テロは決行できるわけで……。

 確かに、遠くへ移動する必要はない。


 だけど当然、捜索しているはずだけどな……、いや、隠れる場所なんてごまんとあるか。

 夢の国には死角がいっぱいだ。


 アトラクションのレールの下、人形の中、暗闇の奥、水の中――、そして避難所にいる多くの人々の中に、変装をして紛れられたら……見つけられない。

 そうやってのらりくらりと誤魔化しながら、爆破テロを起こしていたなら……こっちの事情は筒抜けだった。


 ――今、オレ以外が出払っていることも、情報を仕入れて、こうして会いにきたのだろう。

 ……会いにきたということは、彼女はオレが『トンマ』ではなく『ドット』であると、知っている――。


「……騙してごめん、テトラ」

「本当よ……ッ」

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