第52話 トンマ会議

 俺たちはホテルの屋上へやってきた。

 部屋にいる時はみんながそうだったから紛れていたが、こうして三人が集まれば、鮮明に見えるようになってくる……、異質な状況だ。


 俺が二人いる。

 合わせて三人だ。ジンクスの通りなら俺は死んでいると思うけど……、ドットは中身が違うから、ノーカンになるのか?


「――ふう、やっぱり、外の空気を吸わないと視野が狭まるな……、考え方が多数に寄っていってしまう……」


 今回に限り、意見が分散していたから、どこかに偏るということはなかった。

 強いて言うなら、自分の意見に傾倒しているわけだが……それが当然だろう。

 自分の考えが、一番最善であると決めている。


「で、誰があっちにいく? 周りの女の子を遠ざけて、本音で話したいから男だけになったんだろ?」


 と、分身だ。

 分身とドットの違いはなんだ? と聞かれたら、答えられないが……なんとなく、雰囲気で分かるのだ。


 分身の方は気が張っている……、モナンは自分が守らなければいけない、という強い意志があるからか。ドットの場合は、比べてみれば、冷静だ。自分が守らないといけない、という考えがないためだろう……、ターミナルもテトラもルルウォンも、ドットが手を貸さずとも自分でどうにかできる子たちだ。逆に、ドットが守られているわけで……、そこは安心感があるのだろう。


 少し前のめりになっているか、腰を落ち着かせるように半歩下がっているか、という立ち方でも、分身とドットの差はよく分かる。

 俺も、外から見ればドット寄りなのだろう。


「全員、答えは同じなんじゃないか? と、思っていたけど……、その様子を見ると、オリジナルじゃないあんたは違うみたいだな」


 ということは、俺とドットの意見は一致しているようだ……、まあ、そうだろうな。

 分身は巻き込まれた側だ。だが俺とドットは――巻き込んだ側である。

 だったら……、人に押し付けるよりも自分で背負ってしまった方が楽だと思うのは自然だ。


「……オレ、は、」

「モナンの、お前への依存度を考えれば、一番、残留してた方がいいだろ……自覚があるんだろ? だから攻撃的な姿勢を崩さない……違うのか?」

「…………」


 分身の沈黙は肯定と取れる。違うなら違うと言うだろうし、ずれがあるならすぐさま訂正するはずだ……、なのに、それがない。

 黙っているだけだ。それは当然、返す言葉がなく、的を射ているからだ。


「言いづらいか? 別に気にしなくてもいいと思うけどな……、モナンのためにこの場に残りたい、そう言えば、俺たちは無下にはしない」

「……そういうアンタらにだって、いるだろ……すぐ傍に、信頼してくれるっ、仲間が!」


 アキバや委員長、リノスにターミナル、テトラ、ルルウォンがいる……けど、良くも悪くも(悪くはないか?)、周りにいる女の子たちは、強い。

 俺たちが守る必要がないくらいに。


 だから……こんな言い方はするべきではないだろうけど……。

 きっと、言えばみんなが怒ってくれるはずだ。

 分かってる、自覚はしているけど……ここは男だけだ。誰も否定はしない……、俺とドットしかいないのだから――分かっているのだ。


 きっと、俺とドットが欠けても、みんなは強かに生きていけるはずだ。

 じゃあ、モナンは絶望して動けなくなるのかと言えば、決してそうではないとは思うけど……、年下なのもあるだろう……分身への依存度は、最も高い。

 頼れる先輩が急にいなくなることは、できれば避けたいところだ。


「アキバと委員長は大丈夫だ。だから俺が向こうの世界にいっても問題はない」


「リノスも、ターミナルも、テトラもルルウォンも、同じく問題はないな。マスターと呼んで慕ってくれていても、元々オレ以外を慕っていたし、一人で強く生きていた女の子たちだ。しばらく行動を共にしていたからって、過去の生き方を忘れたわけじゃないだろうしな……。それに、食人鬼の世界はオレの故郷でもある。トンマがいくよりオレが戻った方がいいと思うけどな……」


 分身の残留は決定した。

 じゃあ、次は、俺とドット、どっちが異世界へ戻るのか、という話し合いへ移行するのだが――


「言っていなかったことがある」

「え? いや、そりゃまあ、色々とあると思うけど……」


 俺だって、説明していないことの一つや二つは、あるけどさ……。

 全部を明け透けにする必要はないわけだ。

 細かいプライバシーまで、明かす必要はない……特にドットは。

 俺と分身なら、共有するのは分かるけど……。


「オレはさ、ドット、だけどさ……。…………オレも、『トンマ』なんだよ」

「…………?」


「だからさ、ドット、というのは、異世界での名前で……」

「でも、見た目は間違いなく俺じゃなかったはずだ……。異世界でのドットは、別人だった……、分岐した俺だったとしても、あそこまで変わってしまえば、別人だと言えるだろ。……俺と同じと言うのは、さすがに言い過ぎだ」


「今はドットだ。だけど昔は、違うんだよ――」


 ドットは言った。

 今まで隠してきた、自分の過去を。

 その信憑性はかなりある。その証拠を、示されてしまったのだから。


 ……確かに、言ったこともないそれを知っているのは、『俺』しかいないな……。


「だからオレが戻る」

「…………、若い芽を摘むわけにはいかないって理由で、か?」

「それもあるけど……一番は、もう充分だと思ったんだよ……」


「…………」

「オレはもう、合わせて一生分を生きているんじゃないかって、思ったんだ……。だから、ここで犠牲になるのはオレしかいない……それに、期待もある」


「期待?」

「そう、期待だ。もしかしたら、三回目もあるのかなって、さ――」

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