第50話 最大難易度の障害

「実質、ターミナルが持っているようなものだけどな……ま、雑談はこれくらいにしておこうぜ。ひとまずオレとトンマが合流したことを伝えて……、オレが顔を出せば、ホテルに監禁されている状況も解かれるだろ。自由に動くことができれば、もう一人の分身との接触も可能なはずだ――」


 ……あれ? そう言えば橋渡し役を目の前の分身が担っている、と言っていたけど……その魂は今、ドットになってしまっているから――。

 また、スイッチャーを使って分身の魂を戻す必要があるのか?


「いや、その必要はなさそうだぞ」


 と、ドットが見せてきたのは、スマホの画面だった……。そこには、姿を眩ませた分身とのやり取りがある……、魂が入れ替わる前に、俺の『答え』を送信していたのだ。

 だから、それを知ったもう一人の分身は、既にこの場所へ、向かっている……。

 様子を窺って、出るタイミングを見計らっているのかもしれなかった。


「接触は向こう次第、なら、ここで待っていても時間の無駄になるかもしれない。だったら、先に説明をしておこう――ターミナルやテトラ、そしてみんなにも――」

「ルルウォンには言わないのか?」

「伝えるけど、理解してくれるのかな?」

「どうだろうな?」


 俺たちは同時に、ふ、と笑った。

 ルルウォンがいれば、「バカにすんなっ」と両手を上げて抗議してきそうだ。



 見つけた計画に、問題点があるとすれば、分身の限界だ。

 数は重要視しないが……、それも含め、知りたいのは時間である。

 分身は、さて、生み出されてからどれだけの期間、存在できるのか……。


 一生? それが理想だが、分身に抱くイメージは、やはり限界がくれば『消える』という最後を想像してしまう……、効果切れなのか、充填された魔力切れなのか分からないが……。

 魔力切れは効果切れと同じか?

 ただ、それで言うと、魂の入れ替わりも、じゃあ効果切れで元に戻るとも言える……、トレジャーアイテムによって、永続なのか一時的なものなのか変わると言われてしまえば、手がかりなんてないようなものだけど……。

 もしもスイッチャーと同じく、永続(……たぶん)する効果なのだとすれば、分身が自然には消えないという保証さえあれば、この計画は成功する。

 食人鬼の世界にいた魂の器が脆くなければ、それでいいのだから。



「――オレたちは消えねえよ、生み出されたなら一生な」


 と言ったのは、トレジャーアイテム・レコードを持った分身である。

 予定通り、合流したのだ。


 タイミングを見計らい、出てきたのは、俺とドットが夢の国のみんなに顔を出して、今後の方針を喋った後だった……。俺たちの計画が、良い感触だったからなのか……否定意見がほとんどなかったので、安心して出てきたのかもしれないな――。

 分身は永続か。

 ただ、それは消したくても消せないことを意味する……殺すしかないってことか。

 まあ、わざわざ消す理由もないわけだが……。


「普通はな。ただ……オレたちの場合はちょっと事情が違うだろ」

「ん?」

「オレともう一人の分身は……、新しい経験をしちまってる。親しくなった友人もいるわけで……だけど片方は食人鬼の世界へいくことになるわけだ……、問題が見えたか?」


「…………それは、やっぱり、生み出せる分身は、二人が限界、ってことなのか?」

「…………同時に、という意味では。オレが消えれば、新しく分身を作ることはできる……三人目と呼べるな。だが、同時に三人目を作ることはできない」


 同時に存在できる分身は、二人まで。

 俺の分身は、二人だ……片方はモナンと、片方はハッピーと親交を深めている……、どちらも、分身の存在がかけがえのないものとして、大きな存在になっているのだ。

 ドットをこっちの世界に連れてくるためには、どちらかを食人鬼の世界へ送る必要がある……どっちを? ハッピーとモナンに、聞けるか? 聞いたところで、譲るか?

 ドットのために。

 お前の恩人を、食人鬼の世界へ追放していいか? ――と。

 ……聞けないだろう。


 そして、聞かされた二人が、納得するとも思えなかった……。

 なら、ドットを食人鬼の世界へ……――それだと、ドットが納得しても周りが納得しないだろう……、特にターミナルとテトラが。

 ルルウォンだって例外ではないだろうし……じゃあ、俺しかいないか? オリジナルである俺が、向こうの世界へ――


「トンマ? それ、私たちが納得すると思う?」

「怒られたいのかな、トンマくん」


 ……アキバと委員長の視線が痛い……やっぱ、ダメだよな……。

 課題が増えた。


 最初から、ここが障害になるとは思っていたのだ。分身の犠牲が前提の計画である。作ったそばから向こうの世界へ送り込んでしまえば、罪悪感も最小で済むものの、しかし、既にある程度の経験を積んでしまった俺の分身は、例外だ――。

 唯一、だ。

 犠牲者として、向こうへ送る必要がある……。

 誰を、なんて、選べるわけがなかった。


 そして、全員が自己犠牲の精神を持っている。

 同時に、それを認めない、仲間がいるわけで――。

 嬉しいけど、この場合は、障害となってしまう。


 慕ってくれている女の子たちが、俺たちのために、一歩も引かない。

 力を合わせるべきなのに、仲違いをしている場合ではないのに――。

 この対立は、避けられないのだ。

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