第48話 待望の対面
「わっ!? ……ほんとにトンマが二人いる……」
「積んだ経験が違うからね……既に同じトンマではないけどさ」
その分身は少し、口調や物腰が柔らかいのか……?
ハッピーと一緒にいることで、影響を受けたからなのかもしれないな。
「……いつからそこに?」
「アキバ……あの時はリノスだったか。彼女が運ばれた後に、見張りの隙を窺って、だ……、動けないリノスを狙ったわけじゃない。きっと、リノスを心配して、あんたが……オリジナルのオレが、この部屋にやってくると思ったからな。オリジナル(あんた)が予想した通りだ。オレが、トレジャーアイテムを持って姿を消したもう一人の『オレ』との、橋渡し役になる」
当然、連絡の手段を持っているのだろう。
スマホがあれば、楽に連絡が取れるのだから。
「……全部、聞いていたんだろ?」
「全部ではないけど。小さい声の部分や、オレが聞き逃したところは聞けていない……けど、大半は分かっているつもりだ」
「じゃあ、俺が……いや、アキバが言った方法は、分身の俺が考えていることと、同じなのか?」
「正解だよ。だからこうして、オレが出てきた……案内もするつもりだ。騙したりしないさ……安心していい」
それを鵜呑みにするのも危機感がなさ過ぎる気もするが……。
「気持ちは分かる……あんたはオレだしな」
積んだ経験が違っても、根本的な、疑う時の視点は同じなのだ。
逆の立場になってみれば、今の俺の状況は、分身からしても、疑って見ることになる。
それでも、疑ってこのチャンスを棒に振ることは、賢い選択ではない……。分身はそう思っている。分身が思っているなら、俺だって同じ視点は持っているわけで……。
「――信じるよ」
「それがいい」
「うーん、分身くんが橋渡しをしてくれるって言ったけど、外には見張りがいるんでしょ? 分身くんがパスポート代わりになるわけでもないなら、結局、脱出する方法は力技で突破するしかないんじゃないのー?」
と、アキバ。
……そうなんだよな、そこは解決していない。まあ、スマホで連絡が取れるなら、会話だけなら顔を合わせなくともできるけど……、やっぱり直接会わないと悪巧みはできない。
二つのトレジャーアイテムを、共有しなければ――みんなを救うことはできないのだから。
「そこは考える。……脱出できるか、までは、確実とは言えないけど」
分身が、俺が持つスイッチャーに注目した。
トレジャーアイテムに向けた指を、今度は自身に向けて。
「……オレに使えば、まだ一度も対面できていない『彼』と出会えるはずだ」
――――、それは、そうか……そういうことか!!
アキバの案はこうだった……一人一人の『分身を作り』、分身に『入れ替えをおこない』、食人鬼がいないこっちの世界に、異世界の住人の魂を『持ってくる』……、つまり既に分身がいる俺の場合、俺と入れ替わっていた魂を連れてくることは、できるのだ。
手元にスイッチャーがあるのだから。
俺はやっと……初めてだ…………、彼と……ドットと対面できる。
外側は俺になってしまうけど、魂が彼なら、関係ない。
「……いいのか? でも、じゃあ分身のお前は、食人鬼の世界に追放されることになるんだぞ!?!?」
「どうせオレは分身だし……もう一人のオレだって同じように考えているはずだよ。……分身として生まれたんだ、覚悟はしている……。それに、向こうへいけばハッピーに会えるだろうしな」
それはそうだが……、既にいる分身の魂をこっちの世界に留めておくために、新しい分身を作るとなると、結局、新しく生まれた分身の魂を蔑ろにしていることになる……。
あくまでも替えが利く分身であり、一人の人間とは扱わない、ということにしなければ、思いついた『全員を救うための手段』が、機能しなくなる……。
――既にハッピー、モナンと接点を持つ分身だけなら、救ってもいいんじゃないかと思うが、それをすれば、新しく生み出した分身との差別になる……。
感情を持ったロボットとそうでないロボットの差、みたいなものだろうか……。だけど、どのロボットも感情を得る可能性があると分かってしまうと、生み出したそばから壊すのは、やはり気が引ける。だからここは、どのロボットも「所詮は道具である」と割り切って、切り捨てるしかない、のか……もしくは。
経験だけでも共有したい。
したいけど、分身が得た経験は、オリジナルに戻ってくることは、やっぱり……――ないのか?
「さあな。オレが消えてみないと、それは分からないけど……試してみるか?」
「…………いや、もし、戻ってこなかった時の考えれば、踏み切るのは早い……。せめて、記録さえあれば……」
「ハッピーに聞けばいいと思うけどな……どうせオレが得た知識なんて、ハッピーとの経験だけだし」
それはそうかもしれないけど……、ハッピーから聞く経験と、お前から聞く経験では、やっぱり違うものだ。
まったく同じなわけがない。
「とりあえず、それは後回しでいいだろ。まずはオレと、異世界にいる、ドットの魂を入れ替えるんだ……一度会ってみろ。意気投合するか、相反するか、会ってみないと分からない」
少しの怖さもあったが、やってみなければ、どう転ぶか分からない。
状況が状況だけに、会って躓くことだけは避けたいものだ……転ぶのは尚更だ。
アキバは対面しているはずだが……俺は初めてだ……、そしてドットも。
当たり前だけど。
この組み合わせは、世界を救うための重要な手足となってくれるのか。
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