5章
第47話 交渉方法
たとえば。
俺の分身に、トレジャーアイテム・スイッチャーを使用すれば…………、異世界にいるドットの魂が、対象になった分身と入れ替わるのではないか。
まったくの別人が入れ替わる可能性もないわけではないが、俺とドットが入れ替わったのだから、俺の分身もドットと入れ替わるのではないか――?
……ルールは分からない、けど、別の魂と入れ替わるよりは、信憑性がある話だ。
となると、既に俺とドットが入れ替わっていた場合は……? 異世界にいった俺の魂が、元の世界の俺の分身と入れ替わるのか? さすがに試すことはできないが、仮にそうだとしたら、魂の循環ができる。意味があるとは思えないけど……、いや。
これを利用すれば、スライドパズルのように、狙った魂を、意図的に誰かの肉体へ移動させることもできるのではないか――まあ、アキバの推測通りに機能すればの話だが。
とにかく、確かめるためにも、逃げた俺の分身を見つけなければならない……。追いかける必要はなく、アキバから教えてもらった、全員を救うことができるかもしれないアイデアを提示すれば、向こうからアクションがあるはずなのだ。
俺たちに、接触してくるはず……、だとしても、伝える手間はかかるが……。
さて、それをどうするか、というのが今の課題だった。
ホテルの五階である。
壁を伝って、下りれないこともなさそうだけど……、やめておこう。勝手を知った建物ではない。それに、俺が下りれたとしても、アキバはさすがに厳しいだろう……。それに、ターミナルが言ったように、見張りがいる。許可なく外出しようとすれば、すぐさま止められるはずだ。
隠密行動はできない仕様だ。完全に部屋から出られないようになっている……、内部まで監視しているわけではなさそうだから……いやでも、盗聴はされているかもしれないな――。
可能か不可能かは置いておくとして、床をぶち抜いて下の階へ下りることができれば、部屋を抜け出すことも可能だろうけど……考える必要もない策か。
さすがに無理がある。
だけど……それが無理となると、外に出ることは難しいな……いや、不可能だ。
許可なく外に出る、という意味では。
「スイッチャーはここにあるんだよな……」
これを使えば、というより、これを使わなければ……、俺たちは自由を取り戻せない。
……見張りの一人を呼び出して入れ替えるか?
相手を厳選できないから、運頼みになってしまうけど……手が残っているとしたら、これしかない気がする……。
アキバはどう考えている?
「トンマー、このへんのジュースって飲んでもいいのかな?」
「……いいんじゃないか? ダメとは言われてないし、仮にダメなら置いておかないだろ。後で請求されたら、その時はその時だ」
備え付けの冷蔵庫を開けて、飲み物だけでなく食べ物も物色している。
怪我をしていても食欲はあるのか……。風邪、ではないから関係ないのか。
腹を刺されたのだから食事制限とか……まあいいか。
本人にしか分からないのだ、アキバの食欲に委ねてしまおう。
結局、ミックスジュースを取り出したアキバだ。コップに注いで口に運ぶ。――俺の分は?
「飲みたい目で見てるけど……言ってくれないと準備しないよ?」
「……飲みたい」
「ん、じゃあ待ってて」
追加でコップを出したアキバが同じようにミックスジュースを注いでくれる……、「はい」と差し出されたコップを受け取った。
「う、甘ぇ」
「そう? こんなものでしょ」
久しぶりに飲んだから、かもしれない。
これまで辛酸ばかり舐めてきたから……舌が麻痺したのかもな。
二人で喉を潤し、一息つく。
ソファに座り、まったりとした時間が流れているが、状況は焦るべき真っ只中なのだ。
あらためて。
アキバはどうすればいいと考えている?
「私? ……トンマの分身、だっけ……? そのトンマが、連絡が取れないほど遠くへいくとは思えないから……。意外と手が届く範囲にいて、私たちの動向を見ているのかも」
まさか……この部屋を監視している見張りの一人に混ざっている……?
本人でなくとも、手を組んだ仲間が混ざっていたりするかもしれない……。
可能性は、なくはない。
というか、一番、あり得そうな立ち位置だ。
一声かければ、もしかしたら駆け付けてくれるのかもしれない……――やってみるか。
「……おほん。全員を救う方法が分かったぞ、俺――どうしたらお前に会えるんだ?」
「本人じゃないけど、『オレ』が手引きをするよ――」
声と同時、クローゼットが開いた。
出てきたのは俺だ……、俺だけど、分身なのは間違いない、けれど……。
少なくとも、トレジャーアイテムを持って逃げた分身ではない。
二人いる分身の内の、一人……。
モナンではなく、ハッピーを救った、別の道へ分岐した俺だ。
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